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2 奴隷商の最期

さて、今生で一番の悲しい気持ちは乗り越えた。


そして、まずするべきことといえば、ここからの脱出だ。


このまま天井をぶち破って外へということも考えたが、ここは少女曰く奴隷商人の店だ。


となるとその上には奴隷たちが多くいることだろう。


崩落などで無駄な命を散らすことはあるまい。


よって、少女を抱き上げると、ノブがなかったので扉をぶち破り、部屋を出る。


「グハァ〜っ!!」


運悪く扉の外にいた見張りらしき人物の一人が扉の下敷きとなり、ピクピク痙攣していた。


悪いことをしたな〜と軽い様子の悪魔。


すると、少女はケタケタと楽しそうに笑っていた。


「ぐはぁ、ぐはぁだって、おもしろ〜い、あはっ、あははっ♪」


悪魔がなんとも言えないような視線を少女へと送っていると、呆然としていたもう一人の見張りが上へと駆け出した。


「し、侵入者!侵入者だ〜っ!!」


どうやらそちらが出口らしい。


見張りの後をゆっくりとついていく。


すると、上り階段の暗闇の先に揺れた明かりが見え、そして、登りきるとそこには、こちらへと剣を向ける筋骨隆々な男達がいた。


中心には酒の飲み過ぎなのか、はたまた霜焼けにでもなったのかわからない痩せた男が酒焼けした声で楽しそうに笑った。


「ぷぷぷ、やれやれ、一体どこから虫が入り込んだのか…」


男の声に恐れがあるのか、少女身体が微かに震えたので、手を優しく握ってやる。


少女がそれを握り返し、手の震えがなくなったのを確認すると、悪魔は再びまっすぐ歩いていく。


ずっと続いたその馬鹿にしたような笑いは、悪魔の全貌が露わになった瞬間に止み、驚きどころか恐れを孕んだそれとなった。


「ひっ!?な、なんだ…なんなんだその姿はっ!?」


黒いもやの集合が悪魔の身体を覆ったままだ。


「なにって?…ああ、俺は悪魔だからな。お前たち程度の存在にしっかりとした姿を見せてやる気にはならないんだ。」


「あ、ああっ!悪魔っ!?な、なぜそんなものがっ!?」


驚愕に奴隷商人は目を見開き、身体を震わせた。


すると、隣りにいた側近と思しき中でも一際身体の大きなそれが


「大丈夫ですよ、アルマタイトの旦那!この俺がついて…」


ゴロン……ゴロゴロ…ゴロン。


「サギン?」


奴隷商人が声がしなくなった方を向くと、そこにはあるはずのものがなくなっていた。


「会話の最中だ。デカブツ。」


悪魔のその声とともに、天井に向けて赤い柱が立ち上り、降り注ぐ雨が奴隷商人の身体に向けて降り注いだ。


初めは何事かわからぬ様子だったのだが、頬についたそれを手で触れて見た瞬間、奴隷商人は何度も濡れた床に足を取られながらも、声を張り上げた。


「ギャァァァーーッ!!や、やれっ!!やれえぇえぇ!!」


絶叫のような奴隷商人の声、それが開始の合図となり、そして、終幕のベルとなった。


悪魔が空いていた手をまっすぐにかざすと、見えない壁がまっすぐに進んで行き、目の前の存在たちを押していく。


そして、壁までたどり着いてもそれは止まらず、潰れていく人間たちの悲鳴が収まると、悪魔はそのかざした手を引っ込めた。


見えない壁はなくなり、おびただしい量の赤い液体が臭いとともに流れてくる。


無感動に、そして、汚れることも気にせず歩いて部屋を後にしようとすると、なにやら呼吸音のような、静寂でなければ聞き漏らすような掠れた音が聞こえてきた。


ヒューヒュー…ヒュー…。


何の音だろうと思い、そちらへと向かうと、そこには先ほどまで、悪魔と言葉を交わしていた奴隷商人があった。


悪魔がそれを見つけた瞬間に胸元に掛けていた盾の形をした装飾品が砕け散った。


どうやらタリスマンが奴隷商人を守ったようだ。


しかし、タリスマンの努力も奴隷商人の生命をほんの僅かに永らえさせる程度のものだった。


男の手足は原型がわからないほどに圧殺され、下半身は喪失、顔も潰れている。


心臓と脳がかろうじて活動をしているのみだ。


悪魔は少女に尋ねる。


「これ、どうする?」


チラチラと様子を覗っているのはなんとなくわかってはいたが、悪魔はてっきり怖がっているのだと思っていた。


「え?これって?」


…しかし、少女は先ほど知り合ったので、よくは知らないのだが、見たこともないほどご機嫌で輝かんばかりの笑みを浮かべてこちらへと向いた。


「…この奴隷商人だ。どうする?」


「えっ…でも代償…。」


「今回はサービスでいい。どうしたい?」


残酷なことだからと少女の全滅の願いを却下した悪魔。


しかし、僅かに見せた少女の怯えから、この男への報いを否定する気にはなれなかった。


すると、少女はう〜んと腕組みをして、考えるような仕草をすると、悪魔に向けて無邪気に笑った。


「うん、じゃあこのままでいいの!」


少女の言葉に思わず反応してしまう悪魔。


「いいのかっ!?こいつはお前を…。」


気遣う姿勢を見せた悪魔に少女は微笑んで、ぎゅっと頭のあたりに抱き着いてきた。


「うん!」


悪魔は涙を流すのを堪えた。


少女は優しさを失っていなかったのかと嬉しくなって…。



…しかし、現実は残酷だった。


悪魔の耳に少女がどんな表情をしているのか、想像できてしまうほどに悪辣な声が届いた。


「だって、こっちのほうが苦しいでしょ?それに悪魔さん、サービスついでに一つお願いがあるの。」


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