1 悪魔召喚、少女との出会い
とある地下室。
紫色の光がその部屋を満たし、そこにいた少女はそのきつい光に目を閉じた。
目を開けると、天井から逆さまにその黒いなにかがいた。
「俺を呼び出したのはお前か?願いを言え。」
その何かはシュタッと回転して、足を地につけた。
「…あなたが悪魔さん…。」
「ああ、そうなるな。」
黒い雲の集まりのような存在。
それは悪魔だ。
召喚したのはその少女。
そんな存在を召喚した理由は言わずと知れる。
「本当に…本当に私の願いを叶えてくれるの?」
「…ああ、代償は貰うがな。」
「それなら…それなら…。」
悪魔は自分の恐ろしさから少女が口籠っているのだろうと思い、口にできるように優しく尋ねてやろうとしたその時、少女の口がそれを告げた。
「それならここにいるみ〜んなを皆殺しにしてほしいの♪」
少女は微笑んではいるものの、目は濁りきっており、その瞳は悪魔のことのみをただただ映していた。
「…。」
目をパチクリとさせ、一応確認のためにもう一度尋ねることにした。
「…今なんと?」
その時、悪魔は思ったことだろう。
相手がそれなりに人生を経験してきた人間、若くても十四、五くらいのそれならば、アッパレ、気に入ったと…。
しかし、現実は違う。
その時、悪魔はこう思った。
…どうか、どうか聞き間違いであってくれと。
相手は幼い少女。
年齢にして十歳にも満たない女の子だ。
奴隷という身分に落ちてはしまったが、無垢、無邪気という言葉こそ、その年頃の形容として正しいはずだ。
きっと仕事のし過ぎで疲れているのだろう(確か仕事したのは百年以上前のことだが…)。
目元を軽く揉んでいると、悪魔の耳に言葉が届いた。
「聞こえなかったの?み〜んな殺すの♪」
悪魔はその言葉に頭を抱えたくなった。
なんで?ねぇなんでこの娘はこんなことを言ってるの?
こんな言葉を口にしたいし、理由なんて聞きたくないしでもう完全にその言葉の名残りすら残したくない。
悪魔は脅しを掛けることにした。
「…代償は?」
こう言えば、恐れから躊躇してくれるだろうと思っての言葉だったのだが、予想外にもさらにえげつない言葉をその小さなお口から発した。
「えっ?ここにいる人たちの魂じゃダメ?」
……か、神様……。
「…ダメだな。それはお前からの代償ではない。代償とはお前が痛い思い、苦しい思いをするということだ。それを願う時点でお前はそれをしてもらって、喜び以外の感情は生まれまい。」
「そっか〜ダメ…なのか…。」
いい加減惨劇を生み出したいという願いは失われたろうと思い、なにかをしたい!なりたい!ほしい!といった前向きな堕落への提案をしようとする悪魔。
しかし、少女の心は濁りきっていた。
「それなら…。」
「ん?」
「それなら私の処女は代償になりませんか?」
……。
「…はい?」
「悪魔との契約で魔女がそういうことをするって聞いたことがあるの。どうせ明日変態貴族に奪われることになるはずだったものだもの…それが役に立つなら…。」
悪魔は心で泣いた。
なんて…なんて…不条理な世界なのだろうと。
こんな可愛らしい少女がそんな目に遭い、こんな願い方をするなんて…。
確かに悪魔を使役する方法として、そういった方法がないことは無い。
血の契約の一種として。
しかし、相手は少女だ。
そんなことをするのは、その貴族と同じ変態である。
「できる?」
おずおずとした少女のその聞き方に…自分の価値を探るようなそれに、できないと口にすることは、悪魔にもできなかった。
少女の価値を否定したくなかったからか、過不足なく答えることにする。
「…お前は可愛いからな…う〜ん…それでもせいぜい百人が限度だろうな…。」
「じゃあそれで…「って、待て待て。本当にそんなことに使っていいのか?」…?」
女の子の処女って、好きな人に捧げたいと…なんて、子供に言ってもわかるはずないよな…。
…あぁ…わ、わからないよな…わかっていないといいな…。
そう悪魔は一瞬遠い目をするが、そんな情に訴えるようなことをこの子は意に介しはしないだろうと思い、しっかりと代償としてそれをカウントして、それの使い方について意思を確認することにした。
「あ〜…お前の本当の願いって、本当にここの連中をぶっ殺すことなのか?それをしたら、俺は願いを叶えたことになるから代償を貰ったらすぐに帰るからな。」
…心配だから、気に掛けはするだろうけど。
もう良い里親でも見つかるように手配なんかもしちゃうかもだけど!!
すると、少女はどうやら何度も願いを叶えて貰えると思っていたのだろう。
ようやく躊躇するような仕草をし始めた。
「…実の両親を…。」
両親?おお!?そうかそうか!!それに会いたいと!!
ようやく子供らしいその願いをと目頭を押さえ、代償なしでそれくらい叶えてやろうと奥深くに眠っていた良心が顔を覗かせたのだが…。
「…両親を私の目の前で殺してほしいの。なんで私を捨てたのか聞きながら、それを悔いさせたい。」
「…。」
ダメだこりゃと思った悪魔は少女と契約をして、見守ることを決めた。