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4.その後の伯爵令嬢

 ガブリエラは婚約破棄後、隣国に来ている。隣国に嫁いだ伯母に招かれてその嫁ぎ先である公爵家でお世話になっていた。とても穏やかな毎日を送れている。心が生き返る思いだった。


「エラは妹に似て美人よね。こないだの夜会でもダンスを待つ男性がいっぱいいたわ。どなたか好みの男性はいたの?」


 伯母は砕けた口調で聞いてくる。もちろん伯母もとびっきり美人だ。ガブリエラの母は毅然とした美人だが伯母はふわふわとした可愛らしい人で二人は種類が違うものの美人であることは間違いない。母に似ている自分も美人の部類に入るらしい。それは嬉しいが。

 伯母はガブリエラが婚約破棄をしたことで何かと気遣ってくれているのだ。特に傷ついてはいないが、あえて言わずに甘えている。ここは居心地がよくて帰国したくなくなってしまう。それに……好みの男性がいなかったわけではないこともない……。


「…………」


「ふふふ。知っているのよ。クリストフでしょう? 熱烈にアプローチを受けていたものね。私から見ても彼はいい男だと思うわよ」


 クリストフ様は伯母にとってお気に入りの甥っ子だ。伯母の旦那様のお兄様の息子さんである。


「もう少し、彼の人となりを見極めたいと思います」


「いいけど、ゆっくりしていると誰かにとられちゃうわよ?」


 伯母はけしかけるがそんな簡単な話ではないのだ。クリストフはガブリエラを一目見て恋に落ちたと言ってすぐさま婚約を申し込んできた。一目惚れなんて迷信くらいにしか思っていないのでちょっと信じられないし、彼をよく知らないのではいとは言えない。


 それならばまずは友人として過ごそうと最近一緒に行動することが多くなった。彼はエスコートもスマートで会話も楽しい。何かと配慮もしてくれて今のところ彼の浮いた話も聞かないし誠実そうではある。ガブリエラもちょっとときめいたりしているが……愛を囁かれれば乙女はくらっとしてしまうものなのだ。

 

 彼がどう対応するのかと試しに褒めちぎってみれば浮かれることなく笑顔で軽く流しありがとうと言われた。実際に優れた人なので褒められ慣れているようだがそれで驕ることはなかったし、無駄な謙遜もしないところもいいと思った。デニスは叱ると寝込んだがクリストフは……と思い叱ろうとしたが彼にはそもそも欠点が見当たらない。


 ふと我に返ればデニスの轍を踏まないようにとクリストフとデニスをつい比較して必要以上に警戒してしまった。

 自覚なしに1度目の婚約破棄が心に引っかかってしまっていたようだ。これではクリストフに失礼だと改めて接してみれば……ものすごく素敵な人だった。なによりガブリエラを大切にしてくれる。どう考えても断る理由が見つからない。

 しかし彼を受け入れるには一つ大きな問題があった。


「伯爵家の娘がまさか隣国の王太子殿下に求婚されるとは想像もしていなかったわ。身分を考えたら難しいと思うのだけど……」


「あら、それならエラはうちの子になればいいわ。養子縁組なんて珍しくもないし、私の旦那様が後見するなら誰も文句は言えないわ。それにエラが私の娘になってくれたら嬉しい。もちろん旦那様も同じ気持ちよ」


「すぐにお嫁に行ってしまってもですか?」


「私にとってはいつまでも可愛いエラよ!」


 伯母夫婦の子は男の子ばかり3人で女の子がいないからと昔からガブリエラを本当の娘のように可愛がってくれた。この家の子になるなんて、ああ、魅力的過ぎて困る!

 

 あれからデニスは公爵様にこっぴどく叱られたらしく、鍛え直すと騎士団に預けられている。時々実家にガブリエラ宛の手紙が届くらしい。そこにはやり直したい、愛しているという内容がびっしり書かれているそうだ。ちょっと怖い。なので転送はしないでもらっている。もちろん返事はしていない。今更である。そのこともあって実家に戻りたくない気持ちもある。


 ちなみにお父様はデニスとガブリエラの婚約をお母様に無断で結んだ挙句、彼の浮気で破棄となりお母様に相当叱られたようだ。しっかりとお灸を据えられている。おかげで婚約は自分が好きになった人としていいと許可を貰ってある。ただ身分のこともあり気持ちのまま彼の想いを受け入れていいのか決断できずにいた。


 そんなふうにガブリエラがクリストフについてゆっくり悩んでいる間に、伯母夫婦を巻き込んでクリストフが外堀を完璧に埋めていることを知るのはもう少し後のことになる……。



お読みくださりありがとうございました。

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