記念日に(原文)
祇園精舎の鐘の声、
(くにやぶれて さんがあり)
諸行無常の響きあり。
(しろはるにして そうもくふかし)
沙羅双樹の花の色、
(ときにかんじては はなにもなみだをそそぎ)
盛者必衰の理をあらはす。
(わかれをうらんでは とりにもこころをおどろかす)
奢れる人も久からず、
(ほうか さんげつにつらなり)
ただ春の夜の夢のごとし。
(かしょ ばんきんにあたる)
猛き者も遂にはほろびぬ、
(はくとうかけば さらにみじかく)
ひとへに風の前の塵に同じ。
(すべてしんに たえざらんとほっす)
───二重唱「平家物語と春望」より
白国と赤国の境目には、赤錆色のレンガを並べた国境線の段差が有る。
その国境線を挟んだ2つの国の間には、壁や検問所などの目立った構造物も無く、自由に往来が可能であった。
両国の良好な関係は、毎年開催される合同イベントを産み出す。
────“ヌイグルミの雨が降る日”に。
かつて両国は、長期にわたる戦争で、疲弊していた。
毎日が騒々しく、気が休まる事が無い状態が何年も続く。
ある晴天の朝、珍しく静寂な朝を体感する。
自分以外、皆が消えたのではないかと、不安になる程に静かな朝。
違和感を感じ皆が外に出て、空を見上げていた。
だが、特に何も起きず、国民は久しぶりの平穏な時間を静かに過ごす。
それが夕方になると、急に空が暗雲に覆われ、まるで世界が終わる様な見た目が不気味な空に変化し、国民は恐怖を覚え、天に祈る者も増える。
間も無く、ソノ暗雲から様々な種類のヌイグルミが、地面を覆い尽くすほど大量に降ってきて、大人達は困惑しながら、空を見上げ続ける。
一方、子供達は、降り積もったヌイグルミを雪合戦のように、国境沿いの低いバリケードの向こう側の子供達に、笑顔でブツケ始めた。
その痩せた子供達は、相手にブツケた衝撃でヌイグルミが、
────ぱぱぱーんっ、ぱぱん
と、軽快な音を響かせて優しく破裂すると、中からポップコーンの様な食べ物の塊が、ぽんぽん飛び出てくるのを発見した。
その中身がトテも美味しく、食に飢えた大人達も次々参加してブツケ合いを始め、命を繋ぐ。
そして、次の年度末まで必ず生き残る決意を固め、空を見上げて祈る。
────ヌイグルミが、来年も降りますように。
次の年もヌイグルミは降り、両国民は歓喜した。
ヌイグルミは以前、両国に隣接する緑国・紫国に降っていたが、今の白国・赤国へ範囲が移り、数年が過ぎる。
なぜ、ヌイグルミが空から降るのか、現在も解明されていない。
────それからの緑国・紫国の酷い衰退は、国境を挟んで両国の争いを産んだ。
*エンディング イメージ曲
『AMAZARASHI』
“つじつま合わせに生まれた僕等”