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彼女は目が見えない

作者: nine

夜中に家で勉強してたら、幼馴染の咲からメールが来た。


【けんちゃん】

【まよった】

【助けて】


「……」


俺はすぐにスマホで彼女の場所を特定して家を飛び出した。




俺の幼馴染の佐藤咲は生まれつき目が見えない。

いつも「外出時には誰か付けろ」

と言っているのに、

彼女は一人で抜け出して、

迷子になって、

俺に助けを求めるのだ。




彼女がいたのは海が綺麗に見える道路だった。

空は雲一つ無いのに、月が明るすぎて星は見えなかった。


「咲」

「けんちゃん遅いよ」

「歩いてきたから仕方ないだろ」

「言い訳しなーい。でもお疲れ様」


咲はニヤニヤと笑いながらいつものように俺を労う。

俺は月明かりで照らされた咲の顔が綺麗で、目を逸らしていた。

こういう時は彼女の目が見えてなくてよかったと思ってしまう。


「手」

「はーい」


彼女を家へ連れて帰るため手を握る。

ひんやりと冷たくて ふにふにと柔らかい手に、いつまで経っても慣れることができない。


「夜遊びはどうだった?」

「楽しかったよ。波の音と、虫の音と、たまに魚の音と、もっとたまに車の音。で、最後に けんちゃんの足音」

「そっか」


咲はいつも夜中に抜け出して、こうして音を聴く。

より楽しい音が聞こえる方に ひたすら歩く。

点字ブロックがないところでも 構わず歩く。


ある時は草むらの中で、

ある時は高速道路の下で、

ある時は隣町の道路で、


無心になって音を聴き、

帰り道がわからなくなり、

俺を助けを求めるのだ。


「けんちゃん、どこかに自販機ない?」

「咲 今お金持ってるのか?」

「けんちゃんの奢りでしょ?」

「今 スマホしか持ってないから奢れないな」


咲が後ろで文句を言っている。

毎回奢らされるので最近金欠だった。


バイトでもしようかな、と考えていると点字ブロックのある道まで来た。


「点字ブロックあるぞ」

「めんどくさいからこのまま引っ張って〜」


ため息をついてそのまま引っ張っていく。


「きゃーけんちゃんやさしー好きーけっこんしてー」


何も言わず手を離した。


「うわぁ!ごめんけんちゃん!もうからかわないから引っ張って〜!」

「…毎回聞いてる気がするな…っていうか杖あるだろ」


言いつつもあたふたしている咲の手をとって歩く。無機物に俺の役割を取られるわけにはいかなかった。


「そこ段差な」

「…え?」


咲は思いっきり段差につまずき、前のめりになった。


「あっ…ぶな」

「ナイスキャーッチ」


俺は咲を抱きしめるような体勢になっていた。

咲は斜め45度になりながらで笑っていた。


「もうちょっと真面目に歩け」

「真面目だよ!いかに良い足音を出すにはどうしたらいいか試してるんだよ!」

「はいはいそーですね」


俺は咲を無理矢理おんぶした。

想像よりずっと軽かった。


「落ちるなよ」

「ひあっ!?ちょっ、なに!?」


咲が慌てて落とした杖を地面に落ちる前に掴む。


「真面目に歩けない咲が悪い」


咲はその後、

「真面目に歩けるよ!」「…重くないよね?」「せめてなんか言ってよー!」

とかなんとか言っていたが、俺はそれらに答えず、ただ歩いた。


気付いたら咲の家の前についていた。


「着いたぞ」

「むー」


咲を降ろすとよくわからない顔と声でこちらを向いた。


「…明日なんか奢ってね」

「考えとく」

「ダメ!決定!女子を勝手におんぶした罪は重い!また明日!」

「また明日」


その勢いのまま咲は家に入った。

俺は少し恥じらいのある咲の声に安心して、


「拒絶されなくてよかった…」


そうつぶやいて隣にある我が家へ帰った。




次の日は、二人とも寝不足だった。

構想段階の長編を無理矢理短編にしたものです。

要望があれば長編を書きます。


意見感想等よろしくお願いします。

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