〈 3 〉なんか包帯巻きまくってた
「おはよう~!」
翌金曜日、叶が教室に帰ってきた。きたんだけど。
なんか包帯巻きまくってた。
具体的には、両腕全体と右耳を巻いていた。右耳を押さえるために頭まで巻くことになって、おそらく毎朝セットしていただろう髪型とは違う髪型になっていた。腕も指先以外すべて包帯に包まれていた。ちらりと見える足元からも、包帯の白が見えていた。
中二病でも発病したか?なんて思ったけど、どうやら本当にケガしたみたいだ。それにしても、こんなに全身ほとんど包帯で巻くほどの怪我で、骨折しないなんてことあるんだろうか。
「きゃー!叶ちゃんどうしたの~?」
高音がすごい女子たちが群がってきた。
自称事情通の桃花は俺の席の隣で遠目に見てる。あの女子たちの輪には入れないらしい。なんだかかわいそうに見えたから声をかけた。
「叶さん、怪我してるね。」
「え?ああ、うん」
なんかごめんなさい。でもちょっと聞きたいことがあるんだよね。
「叶さんの事情聞いてる?」
「いや、全然知らないよ。さっきまでただの旅だったと思ってたから」
「そっか。あの様子だと完治まで結構かかりそうだね。体育のときとか気にしてあげるといいと思うよ。」
「あ、うん、ありがとう?」
変なものを見るような目で見られた。俺だって中学の時は陸上を真剣にやってたんだぞ!めっちゃ怪我したんだぞ!それでもう怪我するからいいやってなって陸上やめたんだぞ!決して、それは俺がドジで転びまくるからじゃない!ハードルを倒したままコースに放置する奴が悪い。
それはともかく、彼女結構世話焼きだからそういうことしてあげるの好きそうだと思ったんだけどなぁ。
『見せて!』『いいよ!』的なやり取りがあったのだろうか、叶は左腕の包帯をほどき始めた。
はらりと落ちた包帯から見える手の甲は、随分と悲惨なことになっていた。擦り傷なのだが、一方向だけでなく、いろいろな方向から、何度も何度も擦った跡がある。これは大変な事態に巻き込まれたと見える。
誰かに引きずられた説が濃厚か。それも足から。
尻は女の人にとって大切というし、あおむけで足から引きずられているときに尻を浮かそうとしたら、必然的に腕がボロボロになる。おそらく手のひら側も同じようにボロボロなのだろう。
「あの様子だと手でものを持つのも痛いんだろうね。荷物持ってあげるとかしてあげるといいと思うよ。」
「ふーん。そうなんだ。」
桃花に助言してあげる。今度は不思議そうにこっちを見られた。
「ねえ、静ちゃんは?」
女子のうちの一人が聞いた。
それは俺も気になってた。あの二人近所に住んでるからいつも二人で登校してくるんだよね。でも今日はいない。いつも一緒にいる二人が一緒にいない。
何か不吉な感じがする。あれだけの怪我をする叶に、静はどうしていたのだろう。
「静はね~、いま入院してるよ?」
入院、だと!?
「入院!?なんで!?」
「ほぼ全身骨折しててね~、やばいんだよね~!」
やばいんだよね~!じゃないよ!?大丈夫なのそれ!?
「なんかね~、ほんとにあの子やばいんだよね~!それにね、多分今会っても静だってわかんないよ?もはや別人だから。それに、あと一週間くらいは入院すると思うしね。」
なに!?原型をとどめないレベルの骨折!?そんなことって……。
でも一週間か。っていうことは本当に全身骨折っていうほどでもないのか?じゃあ、なんで別人になるんだろう。
「ねえ、今度静ちゃんのお見舞い行ってみてもいい?」
「あ~、今は沖縄の病院にいるんだよね。今はあたしの友達が一緒にいてくれてるんだけどね。そうだ!その子がね、今度うちの学校に転校してくるよ!夏休み前に間に合うと思うから仲良くしてあげてね!」
え、うちの学校編入試験ってやってるの?そしたらその人相当頭いいぞ?
じゃなくて。本当に沖縄に行ってたんだ。静がどう別人なのか気になるけど、一週間後には会えるなら急ぐ必要もないか。
そしてその日の昼休み。
桃花さんが例の報告会を始めた。
「なんかね、叶ちゃんがなんで怪我したのかは学校のほうも把握していないみたいだよ?」
「病院の先生も知らないんだって!なんで叶ちゃんは隠すのかなぁ?」
怪我の原因は徹底的に隠しているらしい。一言も口を割らない。これはなんか怪しい空気がする。二人は清廉潔白な人物だと思っていたけど、案外後ろ暗いところがあったりするのかもしれないな。