表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lost Emotion  作者: 瑠璃里瑞樹
【 1 】楽
1/7

〈 1 〉うちのクラスには美人・可愛い子が多い

 

 俺のクラスには、美人や可愛い子が多い。

 これはひそかに俺の自慢だ。いくら自分とかかわりがない人たちだとは言え、俺と顔見知りの人が美人だと自慢の一つもしたくなる。

 可愛い子が多いと、学校に通いたいと思えるようになる。何せ、授業のやる気が、モチベーションが全然変わってくるからなあ。勉強をするかしないかで将来の進路が変わってくるのなら、俺は男子校という選択はありえないと思う。

 まあ、何が言いたいかというと、可愛い子に見栄を張りたいから頑張れるっていう話。ただそれだけ。


 そして、その可愛い子・美人の最たる例というのが、あの二人だ。

 可愛い陽キャな(かなえ)とクール系美人の(しずか)。どうやらあの二人は幼馴染みたいだ。

 シズカナコンビとか言われているけど、それって静かなコンビってことになっちゃうような……。名付け親は誰だか知らないけどネーミングセンスねえな。静のほうは確かに静かだけど、叶は割とうるさいぞ。


 (かなえ)は常にだれかと一緒にいるような子で、誰とでも喋るので人気者だ。しかし、静とは親友同士で、ほかの誰とも一線を画す仲の良さを見せつけられる。

 ある程度コミュ力のある人は男女問わず叶と一緒に何かしようと誘っているのをよく見かける。しかし、いつも静のことを気にかけている叶は、静が困りそうなときは『私は静とやるね!ごめんね!』と元気よく断る。例えば『二人組でペア組んで』とか。静の方はあまり人付き合いが得意じゃないので、静としては大助かりだろう。周りのみんなも『静ならしょうがないか』となるのが微笑ましい。

 叶はそんな友達思いのいいやつだ。

 でも、付き合いが悪いわけでもない。静も要介護者というわけではないし、叶がつきっきりでいてあげる必要はない。叶はよく誘われて陽キャ集団で遊びに行っているのを見かける。部活には入っていないみたいだけど、アルバイトをハードにやっているらしく、よく『奢るよ!』って言っている。

 いい子だ。顔も可愛いし。

 しかし、けれども、だけど、金髪だ。なんで。なんで金髪なのだ。しかも染めてる。

 それが残念で仕方ない。しかも似合っているのがつらい。

 似合ってるならいいじゃんって思う人も多いと思う。だけどね、これは俺の主観でしかないけど、俺は地毛の黒髪こそ最高だと思うんだよね。日本人は金髪にしちゃだめだと思う。ビバ黒髪!まあ、茶髪もある程度濃ければセーフ。だが完全脱色の金髪はアウト。

 それに……話しかけづらいし。陽キャっぽいし。若干ヤンキーっぽいし。

 はいはい、どーせ俺は陰キャですよ。


 その点、(しずか)は完璧だ。美しい(恐らく)生まれながらの黒髪をショートにしている。

 それで美人。もう最高でしょ。

 静はとにかく口数が少ない。静は基本的には叶としかしゃべらない。でも、最低限の言葉数で必要なことを伝えるのがうまい。伝達ミスを起こしたことがない。

 このしゃべり方は、相手が叶だろうが他の人だろうが、目上の先生だろうが関係ない。

 正直あのしゃべり方はめっちゃかっこいい。かっこよすぎる。

 イケメン。イケメン系クール美人女子とか最高でしょ。イケメン系美少女のニーズに関してなら数時間はぶっ通しでしゃべり倒してあげるよ?

 まあ、あまり話が続かないのが玉に(きず)かな。最低限の返答しかしてくれないからね。

 それはともかく、彼女の最大の特徴といえば、とにかく無表情。顔が変わらなさすぎること。面白いことを言ってもくすりともしない。表情筋が死んでるのではないかと思う。

 何をしても表情が変わらないのは少し怖い。

 一人だけ別世界で生きているような。俺たち凡人には見えていない何かが常に見えているような。そんな怖さがある。

 世の中を悟りきったような。一つ高い視点で世界を見ているような。そんな孤高さがある。

 それも、彼女が遠巻きにされがちな理由の一つかもしれないな。

 ただ、そんな彼女にも愛らしいところがある。それは食べ物に弱いところ。とにかく彼女は“おいしいものを餌にすればなんでもやる”という当然の認識が流布している。子供じゃないんだから、と噂を聞いた当初はそう思ったけど、彼女の持ってくる弁当や叶の言葉を聞く限り本当だ。だって、弁当に持ってくるのが毎回高級弁当なんだもん。

 うなぎの蒲焼弁当とか、牛タン弁当とか。どんだけ食費かけてんの?って感じがする。多分だけど一つ三千円とかするやつ。それに加えて食堂で販売しているサラダ単品を買ってくる。あと高級そうな日替わりジュースも見逃せない。

 叶の持参弁当においしそうな煮物とかがあると、交換したりパシリにしたりしている。叶の方は手作りみたいだけどね。いや、うなぎの蒲焼と人参と大根の煮物ってどう考えても釣り合わない気がするんだけど。

 叶が静に餌をちらつかせて指示を聞かせているのは、なんだか動物園に一匹だけいるトラに肉を与えながら世話しているベテラン飼育員みたいで、なんだかこう尊敬の意を表したくなる。

 そういう様子を見ていると、俺はむしろ彼女を保護したくなる。ギャップ萌えの典型例だろう。

 俺は食べ物を餌にデートさせてもらうとかは不誠実な気がしてやらないけど、そんなことをやってる男子もいるらしい。もっとも静のほうはデートとすら思っていないかもしれないが。あの無表情を貫きながらデートされると心が折れそうだなあ。


 それでも俺が付き合うなら叶より静かな。俺なら両者無言でも気まずくならないし。たぶん。

 まあ、そんなことは夢物語なんだけど。

 俺ごときがあんな美人と付き合えるとはどうしても思えない。でも、憧れるとか妄想してみるくらいならいいでしょ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ