彼と私
数時間前。
私も一緒に救急車に乗り彼をひたすら呼びかけた。
彼は全く応えてもらえず、目を閉じたままだ。
病院へ着いて、彼は運ばれていった。
ベンチに座って彼が出てくるのを待った。
しばらくすると彼の両親が医者と一緒に出てきた。
お辞儀すると頭に重しが乗っかっているみたいに重い。
「こ、この度は本当に申し訳ございませんでした。」
「君はー…司が言ってた、椎名?さん?」
「はい」
「そうか、君が…」
司君のお父さんは優しい声で答えてくれて、肩に手を置いた。
「司がいつもお世話になってます。」
顔を上げたら司のお母さんは声を押し殺して泣いていた。
司のお父さんは哀しい顔で笑いながら言った。
司君の過去のこと。司君自身のこと。
「驚かないでほしいのだが、司はね。小さい頃から心臓が弱くてね。
一般の子より身体が少し弱いんだ。
去年の夏、心臓の病気が発症してね。…治ると思っていたのだが」
段々と声が震えて出せなくなっていた。
司君のお父さんは深呼吸して上を見上げた。
何かをこらえるように再び話してくれた。
「どんどん良くなってるって医者から聞いていたのに…今年の夏、悪化してしまってね。
次、さ、再発したら司は危ないと医者に言われてたんだよ。
今年の夏から司はとても落ち込んでいてね。学校にも行けず、何もかも諦めたかのように空笑いしていた。」
司君のお父さんは洪水みたいに大粒の涙を流しながら言った。
「そんな時に椎名さん、貴方に会った。司は段々と見違えるように明るくなった。
晩御飯は椎名さんの話題ばかりでとても楽しそうだったよ。」
「ありがとう。司に出会ってくれて。」
最期の一言で全てを察してしまった。