空気とパンケーキ
会社の机にかじりつきながらPCとにらめっこする。
上司からの業務という名のプレゼント。
ミスした後輩の尻拭い。
時計を見ると定時まで30分、最悪だ。
椅子の背もたれに背中を預けて伸びをする。
「あー…終わらない」
忙しすぎて思わず愚痴をこぼしてしまう。
託された案件の書類に書かれてる内容を睨んでまた取り掛かる。
「終わった。」
先方と上司にメールを送って、今日の区切りがついた。
周りを見ると私の席だけ明かりがついてたことに気づく。
上司の野郎…。
勝手に帰ったなー。
上司の席は綺麗に片付いていた。
一声もかけずに帰った上司の机を恨めしそうに見ながら自分のPCの電源を切った。
バックを持って電気を消す。
ふと下を見るとスマホが光っていた。
『新しいメッセージがあります』
歩く足を止め、慌ててスマホを触る。
「椎名さん、何時頃に帰れる?」
たった一言のメッセージ。
顔がにやけてしまうのを上手に隠せない。
「ごめん。今気づいた。先に帰って大丈夫よ。」
30分遅れで返信したのにすぐに既読がついた。
司君からは待ってると書かれたスタンプが送られた。
見た目通りの可愛い熊のスタンプだ。
待たせちゃ悪いし、早く帰らなきゃな。
少し小走りで会社を出た。
電車を降りると彼は待ってた。
「お疲れ様。椎名さん」
「ごめんね。お疲れ様」
司君は変わらず体操服姿で改札口で待っててくれていた。
最近の平日の癒しとなりつつある。
ゆったりとした足取りで私の隣まで来た。
「ほんとごめんね。忙しくて早く帰れなくて」
「全く問題ないよ。そこのカフェで待ってたから」
そう指差した先はパンケーキ屋さんだった。
室内からは少し羨ましそうに覗いてくる女子高生たちと目が合った。
そうだよね。こんなに綺麗な子が放っておくわけないよね。
「苺のパンケーキ美味しかった。今度一緒に食べよ」
照れたような顔で彼は言う。
すれ違う女性達が二度見して顔を赤くする。
彼の顔の良さがよくわかる反応だ。
私に合わせてゆっくり歩き始めた。
司君から学校の話を聞くのが心地いい。
一歩一歩進む度に空気が軽くなる。
この前までは初めまして同士だったのに、なんだか笑いが止まらない。