出会いと刺激
ぼんやり電車に座って仕事のことを考える。
外の真っ暗な静けさと比べて中は人の話し声、香水と汗の匂いで騒がしい。
早く家に帰りたい。
晩御飯は何にしようかな。
いつの間にか仕事から家のことに思考が切り替わっていた。
「次は蒲田、蒲田です。お出口は右側です。」
重い身体を持ち上げて、ゆっくりと出口付近まで行く。
お気に入りの緑色のヒールが一種の拷問道具に感じるほどクタクタだ。
出口付近に着くと電車のドアがすぐに開いた。
「…?」
外に出ようと思うのに、身体が言うことを聞いてくれない。
不思議に思い、足元を見ると列車とホームの隙間に足首がすっぽり入ってしまっていた。
内心焦りながら抜け出そうと引っ張るが何かに引っかかって抜け出せない。
「す、すみませーん!駅員さん!」
全力で叫んでみるが駅員さんは他の人と話し込んでいてこちらに気づいてくれない。
「え?」
「お姉さん、大丈夫?」
いよいよ涙がこみ上げそうになった時、
身体が宙に浮いた。
振り返ればさっきまで他の高校生と談笑してた体操服の少女が持ち上げてくれていた。
少女は持ち上げたままホームの椅子まで運んでくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「いえいえ、どういたしまして!」
少女は見た目に反して力があるみたいで息切れ一つもない様子。
少し明るめな茶髪に整った顔立ち。
女子にも男子にもモテそうな中性的な顔でとても羨ましく感じる。
「? お姉さん、どうしたの? もしかして何処か怪我した?」
「あ、いや、綺麗な顔だなーって思って」
「…え?」
ポカーンとした顔でも見飽きないと思うほど綺麗な顔だ。
少女はポカンとした後、クスクスと笑いながら
慣れた手つきで私の脚を見てくれる。
「慣れてますね」
「そう? 私、陸上部でよく怪我した子を見てるからね。
…捻挫してるね。」
少し悲しそうな顔で手際良く応急処置をしてくれた。
優しいなあ。
マネージャーとかなのかな。
正しい処置をしてくれたお陰で立って軽く歩いても痛みをあまり感じない。
なんだか嬉しくなって思わず顔がにやけてしまう。
「何から何までほんとにありがとうございます。」
「どういたしまして! お姉さん、帰りは大丈夫? 送るよ?」
「いえ、そこまでして頂かなくても駅から出て大通り行くとすぐなので大丈夫です。」
少女の背景に花が咲いたような笑顔で、思わず目を細めてしまう。
「私と同じ帰り方面だ! 送らせて! あと、私が年下なんだから敬語はいいよ。」
「ありがとう?」
少女の優しさに甘えて私は近くまで送ってもらうことになった。
良くないと思いつつも、少しだけいつもと違う出来事に嬉しさを感じている自分がいる。
帰り道の景色も少し綺麗な彩りの帰り道に見える。