難攻不落の山と魔王
深い森と山々に囲まれた秘境、ギルデッド王国。
王国の四方を覆う険しい山々は優れた登山家ですら越えるのが困難なのに加え、度々そこに現れる凶悪な魔物達が人々の侵入を阻んでいた。
この山々のせいでこの国の外の世界、山の向こうがどうなっているかは国王や王国の学者ですら全くわからずその事を記載した文献すらも発見されないため一切分からない状態になっていたのだ。
だが、そんな状態でも外の世界が実在するというのは何となく彼らにはわかっていた。
何故ならどうやってこの国に辿り着いたのかは不明だがたまに瀕死の冒険者がこの国に流れ着く事があるのである。
それは死体の状態か、喋る事すら叶わぬほどの瀕死の状態で発見されるケースがほとんどである。
その哀れな冒険者達はギルデッド王国には存在しない装備や金貨を持っていたため、外の世界の住人と思われるが実際のところ、それが本当に外の住人なのか王国の住人が山に行って魔物に襲われただけなのか確証が持てない状態が続いていた。
そんな状態が長く続いたとある日、16代国王ベルベッド三世は次のような提案をした。
「冒険者に『なろう』制度を作ろう」
と
冒険者に『なろう』
それは山の向こうにあるはずの国を発見するために冒険者を募り、外の世界との安全な道を発見、確保するための新規開拓専用のギルドの名称である。
多大な報酬を与える代わりに危険な山の捜索や地図の作成、安全な経路の発見と確保を試みさせるという内容であった。
その報酬に魅入られた多数の冒険者が我も我もと山に向かっていった。
………だが、その冒険者はほとんど帰ってこなかった。
「やはり素人同然の冒険者が何人行っても無駄なところか無用な死者を増やすだけですか…」
時の宰相グラハムはそう言った。
「…我々は功を焦りすぎたのかもしれん。元々誰も越えられなかった山をすぐには攻略など出来るはずはなかったのだ」
国王ベルベッド三世は静かにそう言った。
「千里の道も一歩から。まずは冒険者の安全を確保しつつ探索をできる限り奥まで進められる制度作りから始めようじゃないか」
そして出来たのが冒険者レベル制度と冒険者指導員である。
冒険者は細かくレベルわけされ、そのレベルに応じて行ける場所が定められる。探索箇所は細かくエリアに分けられ、そこに入る場合は専用のカードがないと入れない。
そして指導員はその区域に入る冒険者に探索箇所の情報の提供や安全な冒険の指導をしたり、失踪した冒険者の捜索、救助などを行う。彼らは冒険者の中でも上位のレベルの人間から選ばれるある意味冒険者のプロ集団でもある。
この制度が出来てから100年、山は現在中腹辺りまで攻略され、108のエリアの地図が完成するまでに至った。
私、トリスはそんな時代に指導員に選ばれた『優秀』な冒険者です。
18歳の女の子の冒険者がここまでの地位に上がるなんて歴史的に見てもない、異例の大出世なんですよ。
とは行ってもレベルSのダンジョンにあんまり行きたくなかったんで指導員の誘いに乗って指導員になりました。
何故って?
こんなかわいい女の子がレベルSのダンジョンでもし魔物に襲われてあんな事やこんな事されたら嫌じゃないですか。
まあでも私クラスならそんな事はたぶんないですけどね。
ちなみにレベルSとはダンジョンの難易度の事でレベルCからレベルSSまで現在存在します。
まだ未公開のレベルSSS迷宮というのも存在しますがそこはSS級冒険者が現在攻略中でかなりの冒険者が帰らない超危険な場所なので一般にはその場所すら知らされていません。当然私もただのS級なのでその場所は知りませんが…。
まあそういう話を聞いているとこれ以上の探索はしたくなりますよね。私、死ぬともったいない美少女ですから…。
で、そんな私が比較的安全なB級ダンジョンの指導員を満喫して冒険者人生を楽しんでいるところにその男は現れたのです。
『なろう』史上最悪の冒険者、トーマスが…。
………
……
…
「ふう、俺の邪魔をするとはお前なかなかのやり手だな」
さっきまで華奢だったはずのその青年はいつの間にか筋肉質のヒゲのおっさんに変わっていました。
「あ…あう…あ…え? えーっ!!!!!!!!!!!」
口をパクパクさせ唖然としている私にその男はにやりと笑うと私に近づいてこう囁きました。
「俺の変装を見破るとはお前は相当のレベルの冒険者だな。そんな冒険者がここにいるわけがないからお前は指導員か何かか?」
「は…はい」
「せっかくここでハイエナのように冒険者の後を辿り、おこぼれを預かろうとしていたのに邪魔しやがって」
まるで盗賊のようなギラギラした目をしながらその男は静かに、そして強い口調で言葉を続けます。
(こ…殺される)
せっかくSS級への死での旅立ちを拒否して冒険者を満喫してたのにこんな所で死ぬとは…。
国内一の美少女(笑)ことこのトリフはこれからどうなってしまうんでしょうか?
全てを諦め自殺しようかな…そう思い、自害用の薬を懐から出そうしますがその手はその男に押さえられてしまいました。
(げっ、しまったバレた。これじゃあんな事やこんな事をヤられてしまう。どうしよう)
比較的さっきまで余裕があった私もこの状態では将来への悲観から震えが少しずつ出てきます。頭も真っ白になってきました。
(私の最後がこんなおっさんにヤられる事なんでやだ)
そんな私の心情を察してかその男は手を放し、にやり笑いと笑いながらこう言いました。
「安心しろ、殺しはしねーよ。ただ、俺の正体を見た罰としてこれから俺の『遊び』に協力しろ」
こうして、最悪の冒険者トーマスと私こと美少女トリフの珍道中、ならぬ冒険者ダンジョン荒らしが始まったのです。
………
……
…
その頃、ギルデッド王国の四方の囲う山の中でもっとも険しい山、オリンポス山の森の中に隠された禍々しい城の中でその男は目覚めた。
「ふう、よく寝た。やはり寝るというのは素晴らしいな。睡眠こそ文化、睡眠こそ史上の快楽」
魔王ヘルナンデス、彼こそはこのギルデッド王国に大昔封じられた大魔王の末裔である。
「さて、今日も街まで降りて遊びに行くか」
彼こそは史上最低…いや、史上最低の魔王と言われるヘルナンデスその人であった。
(続く)