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5、アイラ優人学園入学

待ちに待ったこの日。やっとこのゲームが始動するのだ。

お父様、お義母様との関係も良好。そう、良好なの。

お父様は初めて会った時、私を家族として迎えるって口では言っても、私自身に関心が無い事はありありだった。何故 私を探したか?

もし 今お父様が死ぬ事になれば後を継ぐ者がいない、そうなればお義母様も元男爵夫人でしか無いのだ。お義母様は今の生活を維持する為に私が必要だった訳だ。


取るに足らない汚い物を見る様な目で見ていたのに、次に屋敷に入った日には生き別れの娘に会ったかの様だった。こっちは面食らうけどゲーム補正だと気づけば何て事ない。


最近は何もかもが思った通りに運ぶ、でもお茶会などには呼ばれない。だって友達がいないから。平民出の男爵家の娘なんて仲良くしても得がない、だから私は屋敷で家庭教師と会うだけの生活。


でも今の私は艶々のストロベリーブロンドに紫の瞳、苦境にも負けない庇護欲を唆られる天真爛漫な天使! 完璧なビジュアルに主人公と来てる。平民で今日の食事にも困窮する薄汚い娘じゃ無い、男爵令嬢!


カサついた手も髪も、痩せこけた体も今ではすっかり健康的な魅惑的なものとなった。

おっぱいだって、パンパン。痩せこけていたからウエストだってくびれて魅力的。

本当にゲームのアイラみたいに可愛くてマジ天使。


家庭教師のバードは34歳中肉中背 ちょっと神経質そうだけどイケメンの部類。薄い茶色の髪に切れ長の目、茶色の瞳。たまに掻き上げサラサラの髪を手で止めたまま想いにふける横顔は、20歳以上年上だけど見惚れるほどだった。

だってゲームの世界だもの、私を取り巻く環境はイケメン揃いになるわよね。

子爵の三男継ぐべき物がない家は、爵位を継げる令嬢に近づく。でも、バードはそう言った事は苦手でこの歳でもまだ結婚をしていない。既に家にはいづらい状況だ、だからこうして家庭教師などをして自分の食い扶持を稼いでいるのだ。


アイラも教会で少しずつ神父様に教えて貰いながら勉強をして来た。バードに本格的に習う様になり、メキメキ成績を伸ばした。だって、私 主人公だから!


当初男爵より平民で育ち何の教育も施されていない娘の家庭教師など即断りたかった。

しかしこちらも生活がある。選り好みしている場合では無かった。


所が実際会ってみると、世の貴族の令嬢と違って擦れてもいないし、とても素直で直向きだった。教えた事をすぐに吸収し教えがいもあった。

正解を導き出した時のあのキラキラした目に、こちらも乾いた心が少し潤んだ。


いつもは『何でこんな事も分からないんだ』『気にするのは見てくれだけ頭が空っぽな馬鹿女』『何度同じ事を言わせる鳥女』頭の中で幾度と無く毒づく思考。

それが、もっと教えてあげたいなんて思う日が来るなんて。

アイラに対し『好意』を抱くのにそう時間は掛からなかった。


「バード先生、もう少ししたら優人学園に入学です。ドキドキします。」

バード先生、先生、先生 いい、うんいい、ぐっとくる。

キリっとして、

「何か心配ごとがあるのですか?」

「・・・。私は親しいお友達もいませんし、平民からいきなり貴族になった者です。

皆さんが優しくてくれるか不安でもありますし、どんな方がいらっしゃるかワクワクもしています。」


「なるほど、学力も今なら普通の令嬢より上ですし、立ち振る舞いも何処から見ても貴族の令嬢ですよ。何より貴女は貴族の令嬢よりその魂は高潔だ、何も心配する必要は有りませんよ。」


「バード先生・・・。有難う御座います、残りの日々も頑張りますね!」

ウフフ、バード先生はゲームには出てこないキャラだけど、いい被験者だったと思うわ。

私に対してどちらかと言えば悪感情を抱く者。


それがゲーム補正も含めてどう作用するのかが知りたかったんだけど、今では私に好意を抱いているわね。特別に色仕掛けをした訳でもない、でも私らしくいただけで相手はメロメロ! これで今度学園に入った時もゲーム通り進行する事が実証できたわね、順調順調。


まず最初は誰と『出会おう』かしら?これって重要よね?


ヘラルド王子、シオンスト、ゲムスト、マルクスが主な取り巻き。

悪役令嬢はヴェロニカ、もう一人ライバルにエスティローズ。


男をゾロゾロ従えていたら、王子だって気が引けるわよね?って事はやっぱり王子と最初に出会って意識して貰って、ゲムストを攻略しつつ王子と距離を詰める。時間を置いてシオンストって所よね! あれ、マルクスって何だっけ? なんで一緒にいたのかしら? ん?

あっ! 便利だったんだ! 何かお願い事があると何でも叶えてくれたのよねー。

まあ、いつでもいっか! やっぱり王子よ、だって王子と幸せになるんだもの!


最初のイベントは、庭でお昼寝しているところに偶然居合わせて「何してる!」って叱られるのよね。そこへ私は傷ついた鳥を手で抱いて登場、

「すみません、この子が怪我をしていたので、猫に襲われない所に隠そうと思って」って下を向くと、

「すまない急に大声を出して。ほら貸してみろ。」と、私から鳥を受け取り、背伸びした先の枝にそっと置く。そして

「君の名は何て言うのだ?」と名を交わし合い、気にかけてくれる様になるっと。


でも、日付が分からないわ。まあ、ゲーム補正で何とかしてくれるでしょ!


**ヘラルド視点**


「クロード、とうとう始まる。」

「ああ、そうだね。」

「ゲーム補正が何処まで介入してくるかが分からないが、まずは様子見だな。

クロード抜かるなよ。」

「分かってるって。」

アイラとの出会いがイベントとして起こる可能性がある。

気を引き締めて警戒する。


「そういえば、アーロン殿下のところにまた行ったんだって?噂になっていたぞ。」

「ああ、いい関係を求めるには最初が肝心かと思ってね。最近は私に抱っこをせがむ様に手を伸ばす様になったよ。」

「兄弟仲が宜しくって、申し分の無い優しい第一王子だと。」

「悪くは無いな。 

それでこれが、今後のゲーム進行だ。そこに書かれているイベントと言う物に注意しろ。そのイベントが起きるとアイラと接近する事になるだろう。

ゲーム補正でどこまでねじ曲げられるか分からないから油断は出来ない。」


「了解。」

「そうだ、クロード。お前が潜入する際の身分を用意した。あまり高位だと目立つから伯爵家の次男で用意したが問題無いか?」

(クロードは元々貴族)

「ああ、助かる。万が一アイラを監視する内に気づかれた時のことを懸念していたんだ。」

「実際に嫡男は学園の卒業生だ、クロード頼りにしてる。取り込まれるなよ。」

「まあそうなったらそうなったで、ちょっと興味はあるけどな。」

「止めろよ、お前を失う事だけは俺は出来ない。」

「分かった、・・・ごめんて。」


2年生であり王子の俺は忙しい。その上今は、ヴィーを守り、アイラとは出会わないと言うミッション遂行中。


マルクス君と言う共通の敵みたいな存在によって我々の結束は固くなった。

よって、互いのスケジュールもある程度把握できる仲だ。

ゲーム上、ヴィーが卒業するまでの1年の間に物語は進行していくはずだ。

つまり、そろそろ俺とアイラが出会いイベントが発生する予定だ。


クロードの情報によるとアイラも転生者の様だし、あっちは主人公。何処までゲーム補正が掛かるかは重要な問題だ。


しかしここ数日の報告によるとアイラは鳥収集をしているらしい。

明らかにイベントを起こすためだ。傷ついた鳥を救う優しい少女を演じる為に、鳥を捕獲しようと必死だ。


最初はヘンテコは籠を抱えて登校してきた。皆 あれは何だ!とギョッとした顔で見ているが本人は気づかない。それを裏庭に仕掛けて鳥をじーっと待っているらしい。

あまりに鳥が来ないので、ポンっと手を叩いて何処かへ行く。後を追うと食堂の調理場へ忍び込みパンを盗んできたらしい。


パンを仕掛けて待つ。しかし籠に鳥が入らないので、イライラしてそのパンを自分で食べていたと言うのだ。


貴族の令嬢が盗んだパンを拾い食い?顔が引き攣るのを戻せない。


そして翌日は大きな網を抱えて登校した。


一体 何を考えているのか・・・。こんなに目立って人々の口に上っているのに、可憐に『傷ついた鳥さんが可哀想だった』などと吐かすつもりか?


この日も食堂に忍び込み今度は肉を盗んだらしい。ハンカチの上に肉を置き木の陰から物凄い殺気を放ち虎視淡々と獲物を狙っている。その殺気に鳥は近づこうともしない。


そして今日もその肉を食べたらしい。


翌日は『お前は何処かの漁師か?『と言いたくなる投網をもって登校。何をしにきているのだ?

木や植木に向かって投網を投げる。最初の何回かは網が広がらず、塊を投げつけていたが、回数を重ねるうちに上達し、綺麗に投げられるようになった。すると今度は網が木や枝に引っかかって外れない。鳥は網の間から逃げる、捕獲失敗。


案の定、学校に来ているのに授業をサボるアイラは呼び出しを受けた。


「アイラ嬢、貴女は毎日学校へ来て何をしているのですか?」

「えーと、可哀想な鳥をいつでも助けられる様に頑張っています!」

「・・・。アイラ嬢、可哀想な鳥は何処にいるのですか? 見当たらないなら助けを求めていないのでは? つまり助けるべき鳥がいないなら何の為に学校にこれらの物を持ち込んでいるのですか?これでは寧ろ貴女が鳥を捕獲しようとしている様にしか思えませんよ。」


「あー、そうですね。分かりました。別の方法を考えてみます。有難う御座います!」

礼をすると職員室から去ってしまった。


全く話が通じていない。先生たちは項垂れた。


その様子を窺うマルクス君。

勿論 マルクス君はアイラが何の為にそんな事をしているか分かっている。


貴族らしくないアイラを注意しようとやって来た男、ヤーメイン。 ヤーメインは貴族としてこうあるべき!と唱える事が大好き、ガリ勉チックな装いだが成績は至って普通、ヤーメイン君は貴族の令嬢らしくないアイラが気に障って仕方なかった。


ある日アイラの後を追いかけようとすると、アイラを追い掛けるマルクス君に気づいた。

『何しているのだ、あの男は?』ヤーメイン君は アイラとそれを追っているマルクス君の後を追った。


声をかける訳でも無くじっと見ているマルクス君、正直 気味が悪い。

我慢出来ず声を掛けた。


「おい、君達はここで何をしているのだ?」

「うわぁっ!」


「君は確かハイエンナ嬢だったね、ここの所学園に籠や網や投網やロープや持ち込んで一体何をしているのだ! 学園は勉学に勤しむ場所であって鳥を捕獲する為の場所ではないのだ!

それから 君はメルボン殿 貴方はこんな所で陰からハイエンナ嬢をじっと見て何をしているのですか? 貴方の行動は不埒な真似をしようとしている様に見えますよ。謹みなさい!

全く嘆かわしい!いいですね、二人とも行動にはくれぐれも注意して頂きたい!」


そう言うと消えてしまった。


二人には気不味い沈黙が漂った。じっと見るアイラ、でもマルクス君の事を思い出せなかった。何かいた程度だったので仕方ない。(アイラはマルクスが取り巻きにいたと覚えていたが目の前のマルクスとゲームのマルクスとが一致していなかった)

先に沈黙を破ったのはマルクス君だった。


「私は不埒な真似をしようとした訳ではない。ただ最近変な物を学園に持ち込んでいると噂になっていたので何しているのか気になって来てみただけだ。」

「そうなんですね。私は気にしていません、どうせ忘れるだろうし、邪魔されたくないので気が済んだなら帰ってください。」


キッパリ告げると、なんとも言えない衝動に駆られた。

ゲームの中の俺はチーム アイラの一員にして他の奴らと違って大した出番も無く影が薄い。でもアイラの頼みは何でも叶えてやった。それなのに男の純情を踏みにじって王子にすり寄って婚約する、だから今回はそんな自分にもアイラにもイラッとして一念発起したと言うのに、まさかの存在無視!?


「まだ気が済まない。悪いけどもう少し見て行く。」俺に気づけ!

「そうですか、見ているだけなら良いですけど、邪魔はしないで下さいね。」

「ああ。」


マルクス君はすっかり王子キャラを忘れて素でアイラを見ていた。



報告を受けたヘラルドは

「面白い展開だな。第一に教師の印象は最悪だ、アイラの評価が後日変更があるか否か、堅物ヤーメインとの接触は今後 彼の性格にも影響を及ぼすか? 彼はゲーム設定では出て来ない、それでもゲーム補正が掛るのか否か、最大のポイントは見返す為に日々努力を重ねてきたマルクス君、彼はやっぱりアイラに恋してしまうのか!? 運命は如何に?

って所だな。


それにしても恐ろしいよクロード・・・、私はそんな奇怪な娘に恋してしまうのか否か、出来る事なら出会いたくない。恐ろしい。ブルブル。」


「まーなー、あれが王妃とかはマジで勘弁して欲しいよな。マルクスじゃないけど、その運命を回避する為に努力してきたこの何十年を無駄になんてしたくねーよな。

大丈夫、俺たちなら何とかなるよ。」


数日が経った、アイラに対する教師の評価は日に日に下がり最低へ。何故なら未だに鳥を捕まえられず授業をサボっているからである。

それからヤーメイン君は相変わらず堅物君。学園の風紀を守る男、変わらず態度軟化せず。今のところアイラに惹かれる素振りも無い。

最大の関心事 マルクス君の心模様。計画ではチーム アイラに入って アイラを口説き落とし振り向かせたらフルんだろ?進展はあるのか!?

これはすぐには結果は出せないが、相変わらずストーキン○している。だけど、マルクス君もこのままではいけないと思ったらしく、時々話しかける様になった。


あの少々寒い王子キャラを復活させて、アイラを褒めちぎっている。


未だ鳥は捕まえられず、廊下などでもうっかりすれ違わない為に周りをよくよく警戒中。

食堂も勿論、ヘラルドは王族なので王族専用の一画で食事を摂り、アイラを避けた。

ここには学友としてヴェロニカ、シオンスト、エスティローズ、ゲムストがいる。

今ではあまり畏まり過ぎない会話ができる様になっていた。

二人きりの時はもっと砕けられるが、仮にもここは人の目がある故に弁えているのだ。


「最近 マルクス君はどう?」

「はい、お陰様で以前程付き纏われておりません。」

「良かったね。だったら彼は最近は何しているのかな?」

知っているけど敢えて口にはしない。


「相変わらず女性に甘い言葉を吐いているみたいですが、最近は特定の女生徒を追いかけ回している様です。」

「そうなんだ、ヴィーから興味が離れたなら良かったね。良かったで思い出した。

ヴィー、おめでとう。」

そう言うと真っ赤な顔になった。

「何がおめでとうなのですか?」

「以前から猛アタックされていた ヨークモント国のメンフィス王子との婚約が決まったのだ。」

「「本当かい? 婚約 おめでとう!」」


アイラは聞き耳を立てていた。婚約おめでとうですって? やっぱりヴェロニカが婚約者になったのだわ。ゲーム通りだけど、このままでは不味いわ!


自国の王子の婚約であればもっと大々的に公表されるだろうに、聞きかじった言葉だけでアイラは勘違いしてしまったのだ。



「クロードー、アイラとのイベントを避けているお陰か何も起きないで済んでいるな。

このままいけるかな?」

「んー、分からねーな。例えばお前がイベント発生の鍵になっているかもしれねーなって思ったのよ。アイラは相変わらず鳥の捕獲に勤しんでいる、だがこれはお前と出会うキッカケだろう?

今までは鳥が捕まえられなかった、でももし お前があの庭で休憩を取ろうとしたらイベントは起こるかもしれないって。まあ勘でしかないけど、後で一気に帳尻合わせが来たら怖いなって思っていたんだよな。」


「俺も。アイラは現実に転生者としてこの世界に生まれ、この学園にまで来た。

これは偶然では無い必然だ。つまりは仕組まれたゲーム設定だ。

いきなり明日になったらゲーム補正で俺とアイラが仲良くしているなんて事になったらどう抗ったらいいか分からない、正直お手上げな気もするけど、自分の意思では無い所で変わってしまっているのが恐ろしい。


でも、反動を小さくする為に、小さな接触をした為に大きく変わってしまったらと動けないでいるよ。」


「そうだな、じゃあさまず 休息を取りにあの庭へ向かえよ。あの庭に入る前に止めて戻るんだ。それで様子を見よう、何かが変わるのか変わらないのか。鳥は取れるのか否か。」


「怖いなー。だがまずはヴィーを無事に卒業させてメンフィス王子に嫁がせてやらなくちゃな。」


「まあ、いきなり舞踏会でパートナーは嫌だろう?ちょっとずつ検証を重ねよう。」

「そうだな。」


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