スーパーのおばさん
そのおばさんは、深夜のスーパーにいた。どういうわけでスーパーのパートになったのか、僕には分からない。ともかくそのおばさんは、いつもスーパーにいた。僕は大抵、深夜の二時頃にスーパーに行く。毎日ではない。週に二回か三回。その程度だ。そのたびに、おばさんはいつもスーパーにいた。あるいはおばあさんと言うべきかもしれない。彼女の年齢は謎に満ちている。
僕がレジに買い物かごを置く。
「いらっしゃいませー」
ピッピッ。
「わりびきかーどはおもちですかー?」
「いいえ」
ピッピッ。
「しつれいしましたー」
ピッピッ。
「レジ袋をひとつ」と僕が言う。
「おおきいのでよろしいですかー」
「はい」
ピッピッ。
ピッピッ。
ピッピッ。
「おかいけいせんひゃくごじゅうにえんになります」
僕がお金を払う。
「ありがとうございましたまたおこしくださいませー」
このやりとりを、僕らはもう三年も繰り返している。彼女はなぜ、まだここにいるのだろうか。僕ときたらとっくの昔に飽きてしまった。彼女の言う台詞を、僕は一言一句頭に浮かべることができる。
いらっしゃいませ。
割引カードはお持ちですか。
大きいのでよろしいですか。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。