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そんなものは無いっすよ  作者: G・スー
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この世界は素晴らしいと新たな仲間?に教えるカトー

牢屋、街の詰め所の中のそれは、普段は使わないのか埃塗れ・・・そんなとこに俺がいる。

「怪しい奴め!」とか言われ、強制的に牢に入れられるイベントとかあるよなぁ。

まぁ俺は違うのですがね・・・同郷の女にいきなり殴りかかり、傷一つ痛み一つ与えられずに吹っ飛ばされて、大通りの真ん中で大の字に空を見上げ泣いた暴漢なのです。


人目がありまくりなので普通に通報され、衛兵に連行されこの様だ。

動機は説明できない。まぁ説明しようとすれば出来ないこともないが、理解されないだろう。


「目の前の女のために二年間、苦労と苦痛と孤独を味わったので手が出ちゃいましたテヘッ」とか、まぁ無理だわな。転移の話も転移させられた話も、出来るわけがないのだから。


鈴木真由だっけか?・・・出会った瞬間は、懐かしさを感じて嬉しかった。

案内人だよね?か・・・案内人とか最悪だ。誰が決めた誰のための案内人なのか・・・。

生きるために・・・なるほど、自分で選択したと聞いて分かる・・・羨ましいこって。

事情は知らないが、命が懸かった選択をしたんだね。自分で決められるって最高ですなぁ。

そしてこの世界で何をするのか・・・ただ生きるだけか知らないが、そんなあなたの案内人に俺様ちゃんが用意されていたと・・・糞極まれりだな。

鈴木真由は悪くねぇ、俺の八つ当たりの被害者だろうよ。

あの女は何も知らないのだろう・・・あー、今になって何か恥ずかしくなってきやがった。

マユに全部話せば、同情と理解をある程度は得られるだろうが、悪感情を持たれていたら不味いな。

あの女を通してこの世界に送り込んだ奴に交渉できれば、元の世界に戻れるかもしれない。

そもそもここに俺は必要ない・・・どう考えても必要ない。


物理攻撃無効とかだろ?あの透明なの・・・それがあればどうにでもなるし、多分それだけじゃないだろチート。俺の役目かなって思えることなんて、同郷だからこの世界での孤独を埋める相手として?くらいしか思いつかない。現地人でもいいだろそんなもん!イケメンをチートで吸い寄せて囲えよ。


とりあえず次に接触できたら、強制転移糞野郎との橋渡しを頼むか。どの面下げてって感じだけどな。

上手くいきますかねぇ・・・こちとら感情的になって冷静ではいられないのは体験済みだから、キレて何もかもぶち壊してしまう可能性もある。クールにお話し合いが出来るのだろうか?


1、転移実行犯の糞野郎とのパイプに使う。意思を伝えられるなら、帰還と賠償を要求。

2、糞野郎との接触が不可能なら、チートマユには俺のために働いてもらう。帰還できずヒモコース。

3、もしマユに何かさせるつもりでこの世界に送り込んだのなら、それを駄目にする邪魔をする。八つ当たり上等だ。


できれば1を実行したい。これ次第で3に繋がるし、2を考えてもいい。

マユが良い子なら俺に有利になるかねぇ・・・微妙なところだ。

八つ当たりで殴りかかった俺の手を治すくらいお人好し、そのお人好しが鍵だな。








良く寝れた。衛兵さんや飯はまだかい?

そんなことを考えているとガチで衛兵が近づいてくる。その後ろには鈴木真由、うへぇ恥ずかしい。


「出ろ」


牢の鍵をあっさり外すと、俺を追い出すように釈放する衛兵。


「一応、婦女暴行未遂犯なんじゃねぇのか?出しちゃって問題ないのかよ」


「被害者らしき女性が何もされてないとさ。庇っているのかと疑ったのだがな、女兵士に体を確認してもらったが、傷一つ痣の一つも出てこなかったそうだ」


俺への信頼度に眩暈がしそう・・・ハイハイ、出ます出ますよ。


「手間かけさせちまったな」


「いいよ、事情聞いてないし」


なるほど・・・事情ですかい、心当たりが無いと?

こいつは悪くないと推測して理解はしていてもそれはそれ、やっぱり八つ当たりがしたくなる。


「詰め所前で話すのもなんだし、宿を取るからそこで話すべ」


「宿ならとってあるし、昨日泊ったとこでいいっしょ?」


「金は・・・ありそうだな・・・」


「確かにあるよ1000万ドーン?だっけ?そうそうドーンだって、変だよねドーン」


俺は空を見上げてから笑顔を作り「変かもな」と無理して笑った。

こんな時どんな顔すればいいか俺っちに分かるわけねぇだろ!支度金多すぎだろ!糞糞糞、死ね。


マユの後に付き従いながら・・・苛立ちに耐えながら宿に辿り着く。ここはあれだな、風呂付きの宿ですね。一年耐え凌ぎ、安定を手に入れた俺ですら「高いわ、風呂だけ使わせろ」とかクレーム入れるような宿じゃねぇか。心が冷えるぜ、このアマは俺が衝撃を受けていることにも気が付いていないのだろうな。「異世界にお風呂無いかと思ってたらあったし!良かった」とか、こんなところだろ。


「この宿、シャワーも無いとか苦労したし。水魔法っての?自分で調節して髪を洗うことになるなんて・・・面倒だったわぁ」


「そりゃ不便だな・・・」


あああああぁぁ・・・無心になれ・・・深呼吸だ。ヒッヒッフー、へへんだ!水属性魔法なら俺だって!指先からチョロチョロ出すだけのやつを、緊急時の飲み水対策で覚えてますーぅ。80万ドーンもかけて・・・もう嫌だ、新手の虐めだろコレ勘弁してくれよ。

宿に入ると女将さんに「男連れ込むなら追加料金だよ、これだからチャラチャラした娘は・・・」とか注意されつつ、金を払い二階へ。


「なんでぐったりしてんの?」


「そのうち嫌でも分かるようになる・・・部屋はここだな」


部屋に入り込むとルマルマという寝具、ベッドと呼ばないらしいそれにダイブする。


「さて、お話をしようか」


「乙女の寝てたベッドに突っ込むとか遠慮はないの?」


ルマルマだっての・・・ご不満ですかい?すぅぅぅはぁはぁ嗅いでやる嗅ぎまくってやる。


「今更遠慮なんかしねぇよ。まず聞きたいことが一つ、マユをここに送り込んだやつと会話は可能なのか、どうなんだ?」


「聞いてみるね。ナビィ、神様と話せる?」


何だ?何言ってんだこいつ。ナビィ?・・・会話から察するにそいつは送り込んだやつってわけじゃねぇな・・・つーか、神か定番だな。元凶なりしものはそいつか。てか、ナビィって誰だよ。

マユは俺がナビィとやらを認識できていないことに気がついたのか、何もない空中に向かって話し出した。


「そっか見えない設定だっけ?ナビィ、このおっさんに姿と声、認識させられる?」


「問題ないぜ姉御」


誰がおっさんだ!とつっこむ前になんか出た・・・全体的に黒い。ソフトボールのような大きさの玉に蝙蝠の羽、玉にはでかい一つ目の付いたそれは使い魔っぽい姿をしている。こいつがナビィか・・・そうか、マユは初めから孤独ですらなかったんだな。フヨフヨと飛んでマユの肩にとまる。


「なるほどね、んでナビィとやら・・・その自称神と会話できるのか?」


「自称などと、ツェルギ様と呼べ案内人ごときが・・・会話できるのは姉御だけだ」


「話せるか決めるのは、自称神のツェルギとやらだろ?マユの使い魔程度が無駄口を叩くな」


一つ目蝙蝠を黙らせる。マユがツェルギと交信を始めるようだ・・・さて、どうなりますやら。


「神様?はい、はい、カトーが話がしたいって・・・そうですか、大丈夫なんですね」


ほぅ、話せるようだな・・・第一関門突破。


物凄い威圧感をどこからか感じる。これが交信か、神の威光でも示そうってか?俺にはそんなもんは効きやしない。話しかけてこないな?こちらから尋ねるか。


「自称神のツェルギとやら、聞こえているか?聞こえているなら返事は不要だ。聞こえないなら聞こえないと、マユに教えとけ。俺が聞きたい第一の質問は、この世界に俺が送られてから今までの俺の行動記録、記憶でも映像でもいい。それをマユに見せられるかどうか聞きたい。可能なら話は早く終わるし、不可能なら話が長くなる」


「・・・・・・・・・」


見せたくないものがある。そんな怪しい奴には、マユも不信感が芽生えるだろうよ。できるのにやらないのなら尚更だ。


「可能だ。可能だが実行する必要はないと考える」


声が聞こえた。考えていた通りの反応ご苦労さん、これでこいつは俺の心を読むことは不可能と判明したなぁ。出来るなら必要はないとは言えないはずなんだぜ?俺は用意していた言葉を吐き出す。


「彼女がこの世界で何を行うかは知りたくもないが、この世界を体験した俺の記録、記憶は見ておくべきじゃないか?それとも、見せたくないものでもあるのかねぇ?どうなんだ、ん?」


返事がない。いやまぁ拒否は無理だろうよ。

マユの使命が【魔物と戦うこと】であるなら、避けて通れない。

必ず知る・・・目に入るかどうかは別だし、実行は・・・さて、どうか分からんな。

何もない状態の俺が借金で食い繋ぎ、大金を求めたら必ずそれにぶち当たる。

食うに困って、借金を返せなくてどんな事をしていたか。

魔物と関わるなら避けては通れない。


「どうした?俺の口から事細かに説明しようか?そういや俺は案内人らしいな。案内人らしく、初級探索者でも出来る安全なお仕事で、大金が稼げる方法を御案内しましょうか?」


「待て・・・マユは清らかすぎる。それを知ると使命が果たせなくなる可能性が高い」


「おいおい、おまえさんが送り込んだ使命を果たす者を信じてやれよ。魔物と戦っていくなら、必ず耳にしたり目にしたりするもんなんだぜ?過保護は良くないだろ」


マユは何のことか分かっていないようで、キョトンとしている。内緒にされたのが気に入らないのか、蚊帳の外なのが気に入らないのか、自主的に彼女が動くようだ。


「もう元の世界には戻れないし、覚悟はできてるよ神様。カトーがしてきたこと私、知りたい!知らないより知っていたい」


は?戻れない?ふざけるなよ・・・糞!知りたくなんかなかった!

いや待て、マユがそうなだけで俺は大丈夫だよな?ただの案内人って話だし、戻れますよね?


「マユよ、心を強く持ち覚悟して見るのだ。これから見せる悲劇を無くすためにも、マユに使命を果たしてほしい」


ツェルギは決断し、光が彼女を照らす。望まれたなら仕方ないってところか・・・。

見せちゃうのね。使命だかなんだか知らないが、見せれば終わるよ・・・分かってねぇな。

二重の意味で終わる。この世界に送る前に見せるべきだったな、現地人がどんな苦労をしているか教えるべきだった。見せた上で助けてほしいと願えば、お人好しなら頑張ってくれたかもな。


俺の記憶、何をしてきたかの記録、この二年間を目を閉じた彼女は見始める。

無表情から苦痛に耐えるような表情・・・たまに笑い、たまに顔を赤らめ、そして口を手で押さえると彼女は・・・マユはペタンと座り込んで、盛大にゲロを吐き出した。


これがこの世界の現実なんだよなぁ。

二重の意味・・・この世界の悲劇は、平和ボケ全開の元日本人には厳しい。

それが自分のために用意された案内人の記憶・記録、清らかだったか?清らかなら余計に辛いだろう。

考えたくなくても、罪悪感パネーことになる。


マユは見たのだろう。

お願いだから殺してと懇願する女性を・・・。

早くしてくれと怒りさえ感じさせる声で叫ぶ男性を・・・。


ノーマに寄生されても寄生体を体から排除すれば問題なし、生きられる。そう考える現地人は存在しない。寄生されること自体がタブーなのだから。

助かっても寄生されたことを他者に完全に秘密にしてくれるか、不安を抱く。一生それが続く。

排除されているのかも確信が持てるわけではないし、ノーマに汚された時点で諦める場合が多い。

多いというか・・・例外なくすべてだろう。


さて、そんな彼らを解放してあげる役目がある。力の無い探索者が金のためにそれを請け負う。

初めての殺人を案内人として用意された同郷の者が行っていた。

見ているのが記録じゃなく、記憶なら・・・実行する俺の気持ちまで知るだろう。

何を考え、どんな気持ちだったか。


普通なら俺を罵るか、責めるか、関わらないようにするだろう。

だが、俺の記憶・・・境遇を見たのなら何故そうなったのか、そうしなければならなかったのか理解できているはずだ。理解してしまえば責められない。

金が無ければ農奴として開拓村へ・・・そこがどんな環境かも俺の記憶が見せている。

自分との違いを認識したら絶望するんじゃね?


この世界の情報も、常識も、金も無く放り出された・・・居場所も無かった俺に「お金なら他の方法で」なんて、マユは口が裂けても言えないだろう。


吐き出すものが無くなったのか、マユは泣き叫ぶ。顔が涙と鼻水でえらいことになってるねぇ。


「あー可哀想、俺の体験した二年間は彼女がこうなっちまうくらいの体験みたいだぞ?そんな体験を俺にさせた奴は誰なのかねぇ?誰だか知らないが、そんな奴からのお願い事は聞く必要はないと俺はマユに教えてやるつもりなんだわ。優しい案内人として当然の行為だと、お前もそう思うだろ?ツェルギ」


天井を見上げながらツェルギに同意を求め、満面の笑みを浮かべる俺がそこにいた。

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