世の中捨てたもんじゃないと感謝するカトーと最悪の出会い
「隊長さん、俺何か間違ったこと言ってますかねぇ?」
村長宅でごねる俺氏、只今事情聴取・・・いや、取り調べられてますよねこれ?
開拓村に騎士団がやってきた。それは待ちに待った出来事、俺の華麗なる活躍を讃えられちゃう?困ったなぁ、騎士としてスカウトされたらどうしようエヘヘ。
とか思ってたら取調べだぜ?話が違うだろ糞が!
弁護士を呼べ!村長の奥さん!旦那呼んできてよ。恩人がピンチなんですよ?
「隊長ではない団長だ!もう三度目だぞ・・・侮辱されたとして斬って捨ててもよいのだぞ?」
隊長もとい、団長がキレる。善良な領民に脅しをかけるとか騎士道はどうした?世の中おかしいよ。
「すいませんねぇ間違えました団長、いいですか?最初から説明しますよ・・・面倒だけど」
村防衛依頼達成まで残り三日でシロちゃんが攻め込んできて、俺は我が身を省みずに正面から堂々と対峙、力の差を痛感しながらも信頼を築いた村人たちの協力を得て、シロちゃんを倒す方法を見出して、シロちゃんを挑発し誘導に成功、もの凄い発想力で遂に倒すことが出来た、めでたしめでたし。
この証言が間違ってるわけねぇだろ、信じろよ救われるぞ!
何故か騎士団長が机を叩く、そんなもんでビビるかよ・・・大体合ってるだろ?
「間違っておるだろうが!白のガンド発見時、誰よりも早く風よりも速く先に逃げ、逃げたはいいが飛んできたガンドに行く手を遮られ、観念して仕方なく戦い。一応、敵が手を抜いていると感知して立ち回るも、抜け目のない目で観察して確実とは言えないが有効手段を発見、村人を焚きつけて騙して時間を稼ぎ・・・その隙に有効手段の準備、村長協力の元で両者の魔法でニーハの種を苗木にまで成長させて、それを使いガンドの核に根を纏わりつかせて魔力を吸収させ、溜まった鬱憤を晴らすかのように核だけのガンドを煽り倒して再生を誘い、遂にはガンドを魔力枯渇まで追い込んで・・・最後はガンド、絶望して無言だったって村長言ってたぞ?最後は魔力が空になった核を、折れた剣で二つに割って終わりだろ」
「村長!嘘ばっかしこいてんじゃねぇぞ!打ち合わせと違うじゃねぇか!出てこい卑怯者」
そんな俺をチラッと見ると村長の奥さんは苦笑いし、俺を無視して騎士団長に茶を入れる。
あることあることチクリやがってあの爺、どこに隠れやがった。
「卑怯なのはおまえだろカトー」
騎士団長様のツッコミが辛い。
「いいじゃないですか倒したのは事実、俺に都合の悪いとこは改変しときましょうよ」
へらへらと揉み手をしながらお願いする。袖の下が必要か?騎士団長・・・目を細めて蔑んだように俺を見るのはやめて!命の最大の危機を乗り越えて今があるんですぜ?ちょっと脚色してチヤホヤされたい、特に女に!とか考えても普通だろ?大目に見ろよ。
「お前には悪いが、そういう訳にもいかんのだ。お前の知られたくない行動、汚い考え方、そういう部分が意外と大切になってくる。ガンドは最近二度出現している・・・青に赤にそして三回目の今回は白だ。こんな現象は珍しい。発生速度が上がっているような気さえしてくるから本気で洒落にならない。またどこかで発生しているかもしれない脅威なのだ。ガンドを騙して倒すなんて素晴らしい実例、細かく調べて当然で、省く部分なんぞないのだよ。報告は今も騎士が詳しく聞いて回っている。正直に吐け、この行動の時はどう考えていた、とかな。今夜は返さんぞ・・・」
髭面の親父騎士団長から言われたくないセリフを言われ、精神がもたない・・・これがプロの尋問か・・・。おかしい、最初は事情聴取、何故か取り調べに変わり、最後は完全に尋問。拷問まであと一歩だ。
これが権力者のやることですか!腐ってるよこの世界、ガンドに滅ぼされろ!
呪いをかけてから五時間、漸く釈放される。長いよ・・・気分は犯罪者、シャバの空気がうめぇ。
目の前にあるようで地味に距離がある大木、これを眺めていると心が洗われるようだ。
シロちゃんの「体が再生しない!どうして・・・」ってのを思い出すと賢者モードに突入する。
まさに快感、あの木を見るたびに記憶が再生される。
尋問という名の拷問だったが、一応は依頼完了の手続きは終わった。あとは街まで行って探索者連盟の支部で金を貰うだけだ。その時に村長に1200万ドーン渡さないとね・・・勿体ないけど契約だ。
荷物は少ない。背負い袋、折れた剣、本当に少ない・・・金が入れば色々変わるのだろうか?
まぁ成るように成るだろう。
ダイン王国最西端、まだ名前のない開拓村に別れを告げる。見送りとか存在しないけど・・・。
目指すは一番近い街、カカロ。金の為に俺の足はスムーズに動いた。
地方都市カカロ、糞田舎の開拓村とは違い地味だがそれなりの街だ。
門番の検問で止められる。毎度のことだ・・・黒髪黒目の宿命である。
尋問五時間は無駄ではない。こんな時のために騎士団長に強請って手に入れた身元保証証明書、騎士団長のサイン入りが効果大である。
サクサクと街の中へ、酒場内に作られたのかそれとも逆なのか、毎度謎の探索者連盟支部。カカロだけでなく他のところも酒場と一体になっていて、分かり易いがたまに面倒な酔っ払いに絡まれる。
「冒険者に成りたいんですけど」→大爆笑→常識のない兄ちゃんに乾杯!こんなことが初めて訪れた王都の本部で発生した。今思い出しても腹が立つ・・・異世界人なのだから仕方ないこと。それでも理不尽の極致である。
嫌なことは忘れようと誤魔化すようにカウンターへ、マッチョな親父に依頼完了を報告する。
何故可愛い女の子とか美人のお姉さんじゃねぇんだよ。この世界はテンプレを毛嫌いしすぎだろうが、凄い依頼を完了させた俺が受付嬢から好意を持たれる!これがお約束だろ!
「ほぅ、あの開拓村を守り切ったか・・・やるじゃねぇか兄ちゃん」
「そっすね、早く報酬くれません?逃げた探索者の違約金も含め、計3200万ドーン。そのうち村防衛に協力した開拓村村長に代表として1200万ドーン。これ、魔法契約してるのでよろしく」
雑談などする気はない。
村長と騎士団長連名の証明書を提示、俺以外の探索者がとんずらしたこと、期日まで俺が村を防衛したことを証明する。
2000万受け取ったが1000万を支部に預け、残りを手に武器屋へ。剣が折れちまったからな・・・必要経費とはいえ悲しいねぇ。あの瞬間、核を思いきり斬ろうとする必要があった・・・奴に核は無敵だと自信を持ってもらう必要があったからね。
流石に折るほど力入れなくてもよかったかもしれないが、勝手に力がに入ったのだ。ギ・ノーマ戦で俺の身体能力が上がっていたらしい。今はもっと体が動く、力が溢れる・・・ガンドを倒した報酬は金だけではないようだ。
大通りを歩く。武器屋はどこかいな?誰かに聞くかな。
「すいません、武器屋ってどこでしょうか?」
俺が聞く前に、俺に誰か聞いてきた。女の声、美人かもしれないし一緒に探すか?仲良くしようぜ!
・・・振りかえり俺が見た相手・・・時が止まったように固まったまま、感情が溢れる。
異物、懐かしさ、乳大きい、茶髪、遊んでそう。
そして・・・どうしてお前のような奴がここにいる?という疑問、困惑、体が震える言い知れぬ不安。
何で、今更、何がどうなってんだ・・・同じ世界から来た者?だよなどう見ても、ちょっとギャル入ってるが高校生くらいか?
「あの、聞いてます?あれ?・・・あんた同郷の人?何だあんたが【案内人】か、これからよろしくね。私、鈴木真由ってんの、マユって呼んでよ。あんたは?」
怒涛の情報・・・やはり同じ世界から、ちょっと待て・・・案内人?なんだよそれ・・・。
「あ、ああ、初めましてマユ。俺は加藤正仏、マサブツ・・・セイブツじゃないからそこんとこよろしく。呼び方はカトーでいいぞ」
「下等生物?」
「・・・言われ慣れてるよ・・・それより何でここに、マユはどうしてこの世界に来たんだ?」
俺と同じで気がついたらそこにいたってんなら【案内人】ってのが引っかかる。
嫌な予感しかしない・・・最低な予感が心を締め付ける。
「私?生きるためよ」
あっさりとよく分からんことを言われた。あっちにいると死ぬから、こっちに来ましたみたいな?
そうだとしてそれを誰がどうやって教えたんだ・・・決まってるよな、俺には一度も声をかけなかった奴ですよね。これはもう決まりだな、俺と違う、俺が望んだ異世界転移を普通に体験した女が鈴木真由。
・・・それじゃ案内人ってのは・・・。
心が深く深く沈んでいく・・・目の前の女は何も悪くない・・・はずだ、やめろ動くな・・・駄目だ止まれ・・・。
意識がハッキリしてくる。気がつくと俺は拳を固めて目の前の女、マユに殴りかかった後だった。
半透明の壁が俺の拳を遮り、彼女には一切のダメージがないように見える。
ハハッ、何なんだよこれ・・・どう見てもチートだろ。そんな事実を知っても体が止まらない・・・いや、知ったからこそ余計に止まれない。指の皮がいつの間にか剥がれ、血が流れる。痛みを忘れたように何度も何度も・・・半透明な壁を何度殴ったのか思い出せない。
「ちょ、やめなさい!何なの・・・あんたおかしくなったの?」
彼女の困惑は理解できる。異世界に来たらいきなり案内人らしい奴から殴りかかられて、意味が分からんだろうよ。それでも・・・。
全力で前蹴りをかますと半透明な壁が反発するように反動を返してきた。反動で弾かれ、仰向けに通りに転がる。
彼女が近づいてきて俺の手を取る。
「よく分からないけど痛そうだし・・・癒しを・・・」
痛みが消えた?掌を太陽に向けて広げる。もう殴って傷ついた指じゃなく、殴る前の元の俺の指だ。
こんなのおかしいだろ!馬鹿らしくて悲しくて虚しくて、そして理不尽で・・・こんなの耐え切れるわけがない。我慢していた涙が溢れ、痛みで心が砕けそうだ。もう二十四歳だぞ俺、みっともない。
死を目の前にした時だってこんなことにはならなかったのに。
どこからかきっと見ている、もしかしたら笑っているのかもな。
もしそうだとするなら、今の俺の感情はそいつに伝わっているのだろうか?
俺を送り込んだお前だよ、お前。