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そんなものは無いっすよ  作者: G・スー
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優しくそっと眠らせてあげるカトー

「ヒャッハー!おい見ろよ、マヌケが自ら墓穴に飛び込んだぞ。笑え笑え!イーヤッハー!」


荒ぶる男、カトーはイキっていた。今の俺は無敵だ!なんせ完璧なる敗北が反転したのだから。


「大きくなれよぉ!」


村長は考える。何が大きくなれよぉじゃ!こんなもんどうする!ガンドより最悪なのはこの男じゃ!

それは村の畑、さらには近隣の森にまで影響を与えていた。南側を開拓する計画は変更するしかない。


「どうすればええんじゃ、最後まで責任取ってくれんか」


「馬鹿言うなよ…諦めて観光資源にでもしたらどうだ?儲かるかもしれんぞ」


責任は己ではなく他者に取らせるのが常識な男、それがカトーだ!

イキった彼の頭に落下物が当たるまで、あと十セル(十秒)。







準備は終わった。あとは実験あるのみでござるよ、村長殿ぉ。

死への恐怖と、誘導を成功させたい緊張感で壊れ意味だ。平穏を取り戻す為にいざ!


白いガンドの目の前まで歩み出る。同じように村人も俺の首筋に槍を向けながら移動する。

用意は出来た。でも、何でお前…白い体出したまんまやねん。


「核だけになってくれ。実験が出来ないだろ?ほれ、急げ」


「…ふん、効果がなければ即村人から殺してやる。最後はカトーお前だ」


素敵な提案ですことオホホホ、ぶっ殺す。


どうやって体を消すのか、これによっても効果があるなしに影響しそうだ。ジックリ見させてもらおう。


核が光り輝くと白い体、羽も、砂のようにサラサラと崩れていく。体を核に吸い込むわけじゃなく、体を砂のような状態に変化させて消した。推測通りなら体を維持している魔力を消したと考えるべきか?


自分の考える推測が当たり…自然と笑みが…耐えろ俺!今大事なとこでしょ!まだだ、まだ笑うな。


「核だけになったぞ、僕をどうにか出来るならやってみろ!」


思念伝達魔法だろうか?喋っていないのにこいつの声が聞こえた。ええぞ、その調子だ。核の状態でも意思を伝えられるのか…高性能な魔物だな~とか思いつつ、俺は後ろ手に握りしめたソレに魔力を注ぐ…ソレは手の中で大きくなる。


こんなもんかな?普通レベルの魔力の俺ではこの程度、でもまぁこの程度でも充分だろう。


「それじゃいきますよ、ホイ」


核に持っていたソレを接触させると同時に魔法を使う。急げ、だが確実に。


ソレが大きくなる前に方向性を魔法で変えるのだ。また誘導だな、俺誘導しかしてねぇわ。


ソレの下の部分一部を核に絡みつけ、他は大地に広がっていく。


「何だ?何をしてる!」


「植樹」


ペロリと答える俺。核から心へ伝達される思い、意思が焦り始める。いやぁここからが楽しみだ。


根は一部は太くなって核に絡み、一部は大地に根付く。

予想以上の吸引力だ。やべぇ、バカでかく成りすぎだろコレ、核が見えなくなりそうだ。


細い状態の時に木が根っこを使って核を持ち上げているような状態にしたので、辛うじてまだ見える。

石でも挟んでおくか。


「おーい、ガンド。体を再生しないのか?」


ガンドに呼び掛ける。植樹の栄養源になっても、体を再生できるなら俺たちは全滅だろうね。


「な…んだ?力が吸われる…出している!再生させようとしている!」


「んなこと俺に言われてもな。全力出せば?吸われる以上に魔力込めたら、体を再生できるかもよ?」


嘘やでぇ。


推測だと魔力込めたら込めただけ吸われまっす。


普通なら植物に魔力を吸われることはない。意図的に流さないように出来るはずなのだ。


だが、あの核は別だ。垂れ流し、草むらの雑草を成長させるくらいに垂れ流し。


垂れ流してもそれ以上出さず、体を構成しようとしなければ核を壊すことができず引き分け。


構成しようとすれば、魔力を放出しただけ吸われてやがて核が力を失うだろう。


助かろうとして体を魔力で生み出そうとすると、その分を吸い込まれて早死にする。


草花なら草花の方が力を無くし、先に枯れ果てる。


だが、ガンドの核に絡みつき締め付けているソレはニーハと呼ばれ、何百年も…下手したら何千年も生きる果物の木なのです。ファンタジーって怖いね。


「糞!何で、駄目だ再生できない」


「ヘイヘイ、ガンドちゃん頑張って~」


すげぇでかくなってきた。森の入り口は完全に飲み込まれている。もう少しで村の端、俺の隠れた小屋まで枝の下に成りそうである。またまだ大きくなる…俺が村を滅ぼしそうだなこりゃ。


いや、ガンドが悪い。俺は悪くねぇ!


根っこ三本に絡めとられた核、白かったそれは段々と薄くなってきている。多分、その白いのがガンドの属性ってやつで、魔力なんだろう。最初から白いから再生が得意、回復・再生のスペシャリストだったのだろう。


「どうして!何故この木は僕の魔力を!こんなのおかしいだろ!」


泣き言始まりました~。いいぞ、ぞくぞくするねぇ最高の気分だよガンドの僕ちゃん。


説明してやるか?説明した方がおもろいな、じゃぁしよう。


「そりゃ今迄お前、核だけの状態だとどうなるか試してなかっただろう。生まれた時から体を自分で作れるわけで、核だけの状態で動き回ってないだろ?」


「…体を作れるのにそんなこと…」


無理もないけど言葉で叩いておこう。


「俺ならしただろうなぁ、指だけ生み出してコロコロ転がるね。そうしたら気が付いたはずだ…魔力が漏れているってね。体がある状態なら体に魔力が分散するから気が付かない」


そうこう解説してるうちに完全に透明になりやがったなこの核、これはネタばらしチャンスや。


「大きくなったなぁ、ガンドって呼ぶの味気ないからシロって呼んでいいか?」


「……」


「無視すんなよ。お?限界まで体再生しようとして気合い入れてるだろ?それさ、全部吸われるから。ほれ、核の状態でも木が見えないか?根っこの隙間から見えるだろ?おまえが再生しようとするたびに馬鹿でかくなってるって気が付いてる?」


追い打ち追い打ち楽しいなぁ。


「シロちゃん、木ってのは本来魔力を吸ったりしないわけ。魔法で吸えって命令するのよそんで吸い始める。でもさ、そんな魔力吸い植物って危険だろ?人間に害が!とか考えるだろ?でも安心、人間は魔力を出したり出さなかったり出来るわけよ、お前と違ってな」


「ふん、勉強になったよ。なら植物から逆に魔力を吸い取ればいい!」


「……」


ん?変化なし。木々は無事、むしろ漏れてる魔力を吸い続けて大きくなってる。


「どうしたー?木から吸えないよぉうわーんとか泣いちゃいそうでちゅか?」


「どうして…」


「そりゃおまえ、おまえが緑のガンドじゃなくて白のガンドのシロちゃんだからだよ。おまえさ、開拓村の人間食ったろ?おまえの魔力の源、どう考えても人間じゃねぇか」


絶望…今こいつから感じる感情、伝わってくるそれは甘美だ。自分の絶望は願い下げだがな。

他人だから良いのだ、実に良い。


さて、ちゃんと確認だ。核の色を確認するこれ大事、完全な透明になっても油断できない。

人が触れたら吸血鬼が血を吸って復活するように、同じようなことが起きそうじゃね?


「いいか!絶対にこの核に触れるな!村人全員徹底しろ!」


村人は気が緩んでいたのかビクリと肩を震わせる。おいおい、しっかりしてくれよ。


「特にガキだ、触れた瞬間に栄養源だ、気をつけろよ。偵察隊はここに残れ!監視だ」


ぞろぞろと喜びながら村へ帰る村人たち、偵察隊の面々もその場で嬉しさを表現する。


「…本当に助かったんだな」


「酒がないのが辛いな、こういう時は祝杯だろ」


こいつらまだまだ喜び方ってのを知らないな、見本をとくと見よ!学がよい「ヒャッハー!」






あれ?村長と話をしていた気がするのだが、テンション上げてて気が付いたら朝になっていた。


やべぇよ…監視…ここどこだよ?何か頭にコブが出来てねぇかこれ?


小屋から出ると世界樹レベルの大木が何でこんなもんが…。


近くに偵察隊の男たちが焚火を囲んでいる。


「おはよう、監視はどうだ」


「おはようございます。核はもうほぼ透明ですよ、それより大丈夫でしたか?」


「何が?」


「えっと、昨日ヒャッハーとかイーヤッハーとか言ってたじゃないですか。その時にカトーさんの頭にニーハの実が落ちてきたんですよ。普通のニーハの実は皮を手で剥いて食べられるくらい柔らかいものなんですが、こいつの皮はカッチカチで、昨日は実が降ってくるの避け、回収と大変でしたよ。頭、大丈夫ですか?」


心配してるのか馬鹿にしてるのか、まぁ心配してるのだろう。大丈夫だと返事をしておく。


林檎と蜜柑が合体したような果物、ニーハ。食べた時はどっちなんだよとツッコミ入れたような思い出がある。それがまぁこんなに立派になっちゃって、でもガンドの魔力で育ったんだよなぁ。


偵察隊に向き直る。俺が脳天ニーハクラッシュで気絶した間にニーハの実を食ったか尋ねる。


「食べませんよ。村長もまだカトーさんが警戒しているって怖がってましたし、落ちてきた実はあっちに積んであります」


「チッ、食ってないのか……食べていいぞ、少しだけな」


「怪しい…チッって何ですか、何が目的、ああ!俺らで実験するつもりでしょ!」


「…ソンナコトナイヨ、ショウリノホウシュウダヨ」


ガンド流片言で誤魔化してみるが、通じなかった。この手は駄目だな、やっぱガンドは使えねぇ奴だ。


さて、お仕事にケリつけるか。


「そこのお前、全力で走って村人全員呼んでこい」


「え?」


「え?じゃねぇよ…ほれ、走れ!」


しばらくすると集まってくる村人たち。ムサい男衆だけじゃなく爺婆も若い女もガキも勢揃いだ。


「全員いるか?」


「点呼は取ったでのぉ、問題なくおるわい」


村長が答える。まだ何かあるのかと不安な面々、ケジメの時である。こいつらにも味わってもらわないとな。バカでかい根っこの上によじ登ると、声を張り上げる。


「これから白のガンドの糞っ垂れの核を打ち砕く!こいつは人に触れると人から魔力を奪う性質があるので、砕くのを見たい者は砕かれた破片などに注意すること!」


怖い者は下がり、怖くてもその目で見たいと思う者は前に出る。


根に絡まったそれはこのままでは斬り難い。核に触れないように、根を引っ張らせて隙間を作る。

後ろから押し出すように核を突く。根から外れ核は大地に転がった。


透明なそれは最早何も力を感じない。核というより抜け殻だなこれ、折れた剣で躊躇いなく真っ二つにする。崩れない?どうしよう…触るのはやばそうだし。


「ヤバイ、何か入れ物はないか?一応ガンド殺しの証拠じゃんコレ、捨てるに捨てられないし」


「こいつを使うか?ニーハの実だけどよぉ、中々割れないもんで斧でスパッとやったら綺麗に割れた」


樵のおっさんが実の部分がなく、硬い皮だけのニーハの皮を差し出す。


「おっさん、中身は食べたのか?体に変化は?」


「食ってねぇよ…栄養源ガンドじゃねぇか」


チッ、まぁいいか。木の棒を使って箸の様にして、二つに分かれた核をそれぞれの皮に入れる。


「器用じゃのぅ」


村長に感心されたが、元日本人だからねぇ。


「よし、これで終了だ。この二つの核は村長の家で保管してくれ」


「ちょっ、待たんか!」


俺は村人に向かって問いかける。「責任者は?」「「「村長!」」」


「決まりでいいな、ちゃんと運べよ?」


「皆まで…老人を労わる気持ちはないのか?」




ケジメもこれで終わりだが、残り二日。


村の連中が暇なのか、俺の二つ名を考え始める。


一番候補は「虚言のカトー」そこまで嘘は言ってないだろ?


真実も混ぜたって文句を言うと変な顔された。


俺自身で「白滅のカトー」を候補にしてみたが、なんか格好いいし似合わないと支持が伸びない。


「誰のおかげで息が吸えてると思ってんだこるぁ!」とキレると・・・。


「傲慢のカトー」の順位が上がった。


流石に「異世界人のカトー」とは呼ばれないようだ。

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