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そんなものは無いっすよ  作者: G・スー
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相手の気持ちを考えて望みを叶えようとするカトー

声を出して神に祈りの言葉を口にしているのか、後ろでそんなことをしてる村人がいる。


神に見放された結果それが形となって具現化し、目の前でニタニタ笑ってるやんけ、無駄なんだよ。



白い右腕が伸びて鞭のように左から襲ってくる。躱せない、弾き飛ばされ地面に転がる。


予想は当たっていそうだ。あの体は本体じゃなく、外側のただの鎧であり、内部の宝を守る防壁じゃないのか?腕が伸びる軟体生物的特徴、お宝を探り当てれば勝機はある。


転がりながら考える。どこだ?お約束の胸の中心か?奴には知性がある…位置替えくらいはするだろう。俺ならどこに移動させる?このガンドがどんな経験をしてきたかでも変わるはずだ。


どの時点でどんな風にこいつが生まれたのか、それによって探索者と戦う場数が変わってくる。


何度か崩壊した開拓村、俺なんかより強い探索者が集められたはずで、凄い魔法やオリジナルの技で攻撃したはずなんだ。


それでも負けて殺されたと考えるなら、常識的な攻撃を行って核を見つけられなかったか、もしくは見つけても破壊できなかったか。


立ち上がり、剣を構え、思考することはやめない。核を見つけても破壊できなかった…これが多分、現実的な答え。犠牲が出れば警戒するし、弱点くらい探すだろう。中級探索者なら見つけ出すことも不可能とは思えない。


また左から攻撃、先程と違い遅い。今度は楽に躱す。明確な調整を感じてキレそうになったが、何とか抑えた。


こういうのはアレだ…所謂、舐めプって言うのだったか?

当然だよな、今迄殺してきた相手より弱く、弱いくせに話しかけてくるようなおかしな敵だ。


こいつの求めているものは大体察しが付く。【経験】窮鼠猫を噛むような思いもよらない攻撃、そんなものを期待して調節しながら文字通り【遊ぶ】理に適った行動かもなぁ。


最初からチートなのに上を上をと考えるとか頭が下がる思いだ。御立派だよ素晴らしい。これで俺が踏み台じゃなきゃ手放しで褒めてるところだ。


「武器持ってこい全部だ!何もかもココまで持ってこい!」


後ろの村人に対して、振り向かずに指示を出す。慌てて動き出したのが気配で分かる。


御期待にお答えしましょう。色々やってくるかもって期待をさせ、少しでも長く生かしてもらうのだ。

本気になられちゃ困るのですよ。


駆け出す。ガンドは両腕を振り上げ、叩き潰すように迎撃する気なのが分かる。


それでも舐めプ、狙ったようにモーションが遅い。これから腕を振り上げ叩きつけますよ?上手く躱してねと言わんばかりだ。手加減に慣れていないのがハッキリ分かる。


期待に応え振り上げられ振り下ろされた攻撃をギリギリで躱し、それによって出来た隙を利用して同時に切断できそうな腕を斬りつける。分断成功、それと同時にガンドの表情が変化する。


焦っているような困ったような、ガンドの目的を察する俺。


こいつ核が弱点だとあえて俺に教える気だ。こりゃどっちかの腕から核が出てくるかな?


切り落とした腕が砂のように崩れ白い玉、多分ガンドの核が転がり出てくる。


「カ、カラダガ…カラダガクズレ…」


わざとらしい演技とともに白い体が崩れていく。何ともまぁ手抜きだ…よく考えたら腕の方は核があったんだからそのままじゃなきゃ駄目だろ。見せたかったから先に自分で腕の部分を消滅させて核を露出したのだろうがよぉ。演技だってバレバレだっての。


核から切り離された体から消滅して、切り落とされた腕をウネウネ動かすのが正解だ。


こいつのヘタな演出に呆れるが、それだけ核を破壊されない絶対の自信があるのだろう。


上げて落として楽しむのが目的なら、今転がっている核に色々してみるか?


楽しみが終われば俺たちの処分が実行されるだろうし、核が露出しているチャンスは少ない。


まず剣で核を叩き切る!普通に剣が折れた。高かったのにコレ。


火の玉発動、火を近づけると火の玉が消えた?吸い込んだのか?


今試せるのはこの程度、弱点は見えない。物理攻撃は効かないし、魔法攻撃も何やら吸い取られる。

この糞ガンドがわざと見せつけて遊ぶのも理解できた。どうすんだよこんなもん、破壊不能じゃねぇか。糸口が見えない…あまり時間を使うと奴が「ザンネンデシター」とか言って復活するだろうし、どうする?


チッ、そろそろまずい。せめて考える時間を確保しようと、白い玉を蹴り飛ばす。


森の手前の草むらにスポッと入り込む。蹴りそこなったのか飛距離が足りない。


タイムリミットだったようで草むらからニョキっと生える白い体と羽。一足飛びに俺の目の前まで接近、ニタリと笑う。


「ザンネンデシター」


予想通りすぎてリアクションに困る。ここは驚いたり悔しがるところだ、演技だ演技、切り替えていこうぜ俺。


「ど、どうして…こんなにすぐ復活するなんて!」


「フッカツスルノヨソウシテタ?」


やべ…怪しまれてる。でもまぁ、もういいかどうでも。


「どう見ても核だろアレ、アレが破壊できなきゃそのうち生えてくると分かってたさ」


無言、警戒させたか?もうちょい油断しててくれると助かるのだがねぇ。


「君、僕が思ってたより色々と考えてるみたいだね」


流暢に喋り出すガンド、知ってた、そんなこったろうと思ったよ。

片言なのも演出だったか、ちょいまずいな。警戒され、さらに仮面まで剥がして晒してきた。これはあれか?「君に敬意を表して少しだけ本気を見せてあげるよ」的な流れか?

勘弁してほしいね。それでも、あえてドヤッて挑発しよう。


「お前が思ってる以上には考えてるよ。騎士団が来る三日前を狙ってきた時点で、お前が結構賢いと読んでたさ」


「……」


完全に絶望していないのがバレた。いや、何故絶望しないのか不思議に思っているのか?


理由が必要だな、適当な理由が、もう一度核を晒して俺に無駄だと思わせたいと考えてくれるように誘導しなきゃ勝てない。

どうする?核という弱点らしきものを見つけて、調子こいてる馬鹿のフリでもするか?


村人が集結しつつあるし、利用することにした。


「一斉に攻撃して核を見つけろ!弱点は見えた!斧で叩きまくりゃ壊せそうだぞ」


嘘である。核を壊せるわけがない。今の状態では斧の方が壊れそうだ。

この隙に下がる。逃げるわけじゃない、もう逃げない俺の考えが上手くいけば核は破壊できる。


不確実な方法であるが、どうせ逃げられないしやるしかないのである。


飛べないと思ってたのに一瞬であの距離を飛んでくる移動能力、逃げられないわな。


じゃ、何とかして倒すしかないわけだ。


村人は希望を感じたのか、ガンドに群がる。知らないって幸せだな、あいつが本気になったら三秒耐えられるだろうか?


あいつが舐めプ継続してくれることを祈りつつ、目当てのやつを探す…いた!村長!


首根っこ掴むと一番近い小屋まで拉致する。外では叫び声、呻き声と色々聞こえてくる。戦いの音や叫び声が俺の味方をしてくれることを願い、極力小声で村長に指示を出した。


「総員、攻撃やめぇ!下がれ下がれ」


小屋から飛び出し開口一番、村人を下がらせる。たとえまぐれでも、核が露出されるのはまずい。

折角準備させているのだから、ここぞって時に働いてもらわなきゃ困るのだ。


「どういうつもり?諦めたのかな?それはとてもつまらない。足掻いてくれなきゃ楽しくないよ」


「安心しろよ、ちゃんと足掻いてやるさ、みっともなく無様にな」


こいつ結構表情に感情が出るな、めちゃ不可解って顔してやがる。


「分からないって顔してるなぁ、希望が見えたから戦うの止めたのよ」


ガンドは笑う。その笑い声は聞いていて気持ちの良いものではなく、不快な怖気のするようなものだ。


「希望?そんなものがあると思っているのかな?力の差が未だに理解出来ていない。これだから人間は駄目だ、僕が手を抜いていたのも気が付いてないだろ?」


は?何言ってんだこいつ。


「バレバレだったぞ、二度目の腕での攻撃なんて一度目と違いすぎて驚いたわ。一度目だって全力で手を抜いてたんだろ?おまえが本気ならこんな村、三十ピノあれば皆殺しに出来ただろうよ」


三十分もあれば楽勝だろう。隠れているやつを探すのが少し手間なくらいか?


表面化する怒りを感じた瞬間に左腕が貫かれる。ガンドがキレて人差し指を伸ばし、俺の腕を貫いた。


キレちゃいましたか、攻撃が見えなかった。車庫入れに失敗して、擦った後から後悔するようなもんだな。気が付いたらこの様だ堪らなく痛い、勘弁してほしい。引き抜かれた指は瞬間的に白に戻る。俺の血は吸われ、吸収されたと考えていいだろう。また推測出来る材料が増えたな、それはともかく痛すぎる止血せねば!包帯を背負い袋から取り出し、グルグルと腕に巻く。酷いことしやがる出血多量で死んだらどうする。


「嫌な気分にさせてくれたお礼だよ。何のために気が付いていながら、僕と遊んでくれたのかな?確か名前はカトーだっけ?答えて、早く言わなきゃ次は足を狙うよ」


即答え始める俺氏。


「じゃ、説明させてもらいますよ。まずガンドさんを発見、即撤退を選んで南まで全速力で逃げたのは気が付いてますよね?追ってきたのだから」


「そうだね、僕は人間の強さってのがある程度感じられる。雑魚の中では一番強い君が、一番最初に逃げたから面白くてね。ギリギリでお出迎えしてあげたんだ」


そうだろうよ、厭らしいタイミングだった。


「こちらも追いつかれて逃げられないことを認識しましてね。どうせ死ぬなら立ち向かおうかと、幸いあなたは手を抜いていた。観察し考え続けてあなたがどんなガンドなのか、推測ですが分析は終わりましたよ」


あえてニヤニヤと笑う。もしかしたらこのまま殺されるかもしれないが、こうする必要があるのだ。

相手は魔物とはいえ知的生命体、探究心はあるはず、どんな分析をされたか気になって聞き出そうとするだろう。なるべく引き延ばすのだ生き残るために。


「分析?僕の何を分かったっていうのさ、挑発のつもりかい?」


「挑発だなんてまさか…全力であなたを倒す方法や効果的な対処の仕方を考え、あなたを屠る方法はもう見つけましたから…完了ってやつです」


顔怖いよガンドさん、やっべぇオコですわ。激オコ?まぁ俺が怒らせたのだがね、早まるな!攻撃してくるんじゃないぞ!


「完了、終わったって意味だよね?僕に何も変化はないよ?君、嘘はいけないねぇ」


「丁寧に話すのはここまでいいか。嘘じゃねぇさ、俺にできることはすべて終わった。もうお前への嫌がらせは完了してるのよ。何で俺が小屋に引っ込んでたか分かるか?お前の核を破壊する方法を遠方の人間に伝える為だ。つーか、もう伝えた。この後に俺たちが皆殺しになろうが、どうなろうがもう関係ねぇんだわこれが。お前はその方法を知ることなく、対処する方法も考えることができず、お前を消滅させようとする奴らと戦うことになるな、御愁傷様」


攻撃…すると思ったが寸前で堪えた。良い子でちゅねぇガンドちゃん。


「伝えた?伝える方法などあるものか!それにどんな方法か知らないけど、僕の核をどうにかするなんて出来るわけがないでしょ、見苦しい!」


「そうだな、効果があるかは試さなきゃ分からん。破壊できるかは不明だから確実じゃない。絶対じゃないわけ。だから、お前は知らなくていいよ。あとさ、伝える方法なんて腐るほどあるんだよ。特に開拓村は何度も崩壊してるだろ?お前等に滅ぼされてさ。流石に情報を伝える方法くらい考えるさ、仮に全滅しても有益な情報だけは欲しいと上は考えるわけ。で、お前の知らない方法で俺が伝えたってわけ」


俺はドヤ顔でそう言った。


「これから俺たちはお前に皆殺しにされるだろうけど、お前の核の壊し方は死んでも教えてやんねぇから、ソコントコヨロシク!」


俺は片言でそう言った。


「……」


考えてますね、考えろ考えろ。俺だって腐るほど考えて、どうしたらいいか追い込まれたんだ。

何で俺が苦しまなきゃならんのよ馬鹿らしい。どうせ死ぬならやりたい様にやってやんよ。

奴の次の行動なんて読めてる。俺はクルリとターンすると素早く村人の集団に突撃する。


「お前等!俺の首に槍を向けろ!奴が俺に吐かせようとしたら迷わず俺を殺せ」


吐かされて堪るか、そんなことしようとしたら死んでやるんだからね♪


「何のつもり?」


「俺の考えた方法が正しいなら、おまえはそれを知ったら対策ができるじゃねぇか。だからまぁ、拷問されて口を割る前にこうしたわけよ」


ガンドが呆れているのが分かる。死を前にした人間なんてこんなもんだぜ、必ず苦しみを植え付けてやる。ただでは死なんぞ。立つ必要のない苦境に、立たされていると勘違いしたガンドが聞いてくる。


「カトー、君の望みは何?命を助けると約束すれば…いや、君のような人がそれで信じるわけないか…どうしたら核を破壊する手段を僕に教えてくれるのさ」


釣れた、生き残る可能性はここだ!


「教えるのは簡単だ。実際に核の破壊をやって見せ、お前に体感させてやるよ」


さてどうする…普通なら拒否一択だ。


「僕を舐めてる?その方法が効果的なら、僕は君にやられてしまうじゃないか」


予想できた予想通りの答え、ここから…ここからだ。


「それでいいだろ。もう遠方に伝えてあるから、そいつらがお前を倒そうと準備してるだろうよ。遅かれ早かれ、俺の考えた方法で攻撃されるのは確定しているわけだろ?俺なんかの考えた方法でやられちまうなら、所詮お前はその程度の存在ってことだ」


これがすべて真実ならそうなんだろう。遠方とかどこのことだよ?知らないなぁ。


事実も混ぜてある。俺が気が付いた方法で倒せるか…これはマジでやってみなきゃ分からない。


こいつを言いくるめて実行出来たとしても、生き残れる可能性は限りなく低い。


効果があるかは微妙だ。ガンドの一番正しい行動は、詐欺師臭い俺を無視して皆殺しにすることだろう。


仮に俺の見つけた方法が効果があるものだったとして、皆殺しにしてしまえば伝えられない。


だから俺はもしかしたらと考えさせて、それを封じるしかないのだ。


「ふん!そんな方法があるとは思えない」


「そうだな。じゃ、試さずに俺たちを殺せよ」


動かないはずだ、動くんじゃねぇぞ!疑え!自分の考えを疑え迷え迷え!死ぬのは怖いので、動かないで下さいお願いします。


「試してやる。僕の存在を見せつけてやる。カトー、やれるものならやってみなよ」


ハイ、キター来ましたよ生存チャンス到来。やべぇ…村長、村長はまだか?


振り返るとヨタヨタ歩いてくる村長のお姿、歩いてんじゃねぇよ!急げオラ!


俺の元までハァハァ言いながら近づいて、例のものを渡してくる。


「ハァハァ、こんなもん役に立つのかの?大丈夫なのか」


村長の不安は正しい、俺だって大丈夫かなぁとか思っているのだから。それでもやるしかねぇ、可能性があるならやるんだよ。ファンタジー生物を利用した実験開始といこうじゃないか。

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