永遠はあるよ
人生の頂点を感じたのは初代国王として君臨し、その栄華を享受していた頃だろうか?
それとも奴に出会って魅了された時だろうか?
長い長い年月を迷宮内で過ごす。この体に定着できたことは幸運だったが、寿命と魔力の回復効率以外はポンコツ過ぎて使えない体だ。
奴に王国を崩壊させられ三千年、この体に定着できて二千年。我の目的は奴の力、奴の体を手に入れることだ。
あの力を破壊ではなく生存することに使えば、長い年月をまた生きられる可能性がある。
迷宮を掌握し、研究施設として利用してここまで生き延びてきたのも、あの体を確保する為だ。
王都の防御結界さえ軽く消し飛ばすあの魔力、王国内の女は死ぬか感染させられるかどちらかの結果に終わった。男で生き残った者がいるかは不明だ。種としての本能なのか、子孫を残す行為をしなければもっと生きられただろうに。奴は王国を崩壊させ、生き残った女たちに限界まで種を植え付け、その命を削ったかのように屍となった。
失敗作からとんでもない成功例が発生した。
あの体を手に入れ我は生き続ける。死を超越した存在として生き続ける。
意思を継続する。心を、思いを途切れさせないために。
いつからなのか、自分の意思が消えることに恐怖し怯え、それを克服しようと足掻いてきた。
魔法による他生物の体の乗っ取りもその為に編み出したのだ。
王位継承を餌に一番魔力がある息子を選ぶ為に競わせて、継承の儀と称してその体を奪った。
我が産ませた子を我が使う。我の意思を繋ぐ為には必要なこと、必要な犠牲だ。
何代も繋げてきたそれも続けると何故か魔力の扱いが困難になってきた。意志は力、ということなのか継承させ続けると限界に達するということが判明した。
血縁者が駄目ならと国内、国外からも才能ある者を集めて継承してみたが、人族では限界がある。
人で駄目なら造り出せば良い。新たな種族を生み出せば良いのだ。
自然物である迷宮を操作、管理するすべは前々から実現できている。その内部で新たなる種を造り出す。
それでも限界が近い。意思を感情を思いを繋げる器ができない。
迷宮内で絶望したまま意思が消えるかと思っていたが、奇跡が起きる。
部下からの連絡が途絶え、迷宮外の様子が不明となり、仕方なく様子を確認しようと外へ出た。
崩壊、何もかもが崩壊していた。隆起させた大地の上に王国を作り出し、そこに国があったはずなのに、隆起した大地そのものを削り取ったかのように綺麗に削られ消えていたのだ。
原因は直ぐに分かった。僅かに残った隆起した部分に避難していた女たちを貪るように犯す亜人、目にした瞬間にその魔力、その存在感に魅了された。
本能なのかまさか意思があるのか不明だが、奴はその力を女たちに注ぎ込んでどんどんと弱っていく。
馬鹿な!やめろ!お前は我の器にこそ相応しいというのに。
止める力は今我が入っている器に無く、その無為な行為をただ眺めているしかなかった。
それでも可能性を見た。奴は失敗作だったはず、その失敗作から稀に強力な存在が誕生することは報告を受けていた。つまりはその稀の中の稀というわけだ。
種は蒔かれている。狙って生み出せるのか?これが問題だ。
生まれ落ちたノーマの幼体を迷宮に持ち込み、研究を継続する。如何にしてアレと同等の存在を生み出せるのか。生き延びた国民をノーマの苗床としても、成果は出せない。
王国崩壊後に獣人種が跋扈してきても放置したままで、アレを生み出すすべを探す。
体が限界に近い。次の体を考えねば・・・我に相応しく移るのに支障がない体。あるにはあるが支障がある。意思を消すのに時間がかかるハイエルフ種。魔道具を利用し意思が消えるまで継続して魔法をかけ続ける。器から意思が消えるまで、自らを仮死状態化して眠ることを選択した。勿論、体の腐敗は魔道具で防ぐ。結局、800年も費やした。
長寿の体を手に入れやる気に満ちた我に、絶望が舞い降りた。
王国崩壊後、生き残った者の一部が西に存在していたが、その国の王がノーマ狩りを積極的に行って数が激減していた。許されざる行為だ・・・我の器の種を実る前に狩り取るとは。
復讐と実験を兼ねて大型のノーマを数百体用意し、ダインの王ツェルギとやらが遠征している合間に留守を襲わせた。様子を観察していると妻の方はただのノーマを産むだけでつまらんものだったが、その娘がガンドを産み落とし絶命した。若い個体だからか?悲劇が香辛料となったから?生まれたガンドは暴れまわる。しかし我が求めていたものではないので、駆逐されるまで様子だけを窺うことにした。
一人の王子が兵を連れてガンドと戦う。勇敢な行為だが、ガンドは簡単に兵を屠っていく。これは王子も殺され食われて、ダイン国内の女を漁りに行くかと思い観察を続けていたが、気絶した王子をあろうことか、ガンドが犯し始めた。
男性の苗床なんぞ見たこともなかったが、王子の体を食い破り生まれてきたのは透明な女性型のノーマ、いや・・・ガンドだった。思わぬ出来事に我は狂喜乱舞する。
親ガンド、娘ガンドは会話を始める。自分は強くないが同胞を産み出せると、餌があれば永遠にそれを続けられると。我は思い浮かべる・・・どれだけ駆逐されようと産み出される器の種。魅力的ではないか・・・その種から理想の器が生まれるのだ。
ガンドはノーマと違い知性がある。我は接触してみることにした・・・危険な行為だが、この規格外の永久器製造機を逃したくなかったのだ。
ハイエルフの男の外見、女性型ガンドの誕生に興奮したおかしなエルフの我の様子にガンドたちは戸惑っていたが、話せば分かり合えた。利害が一致したのだ。娘用の迷宮を紹介し、そこで存分に同胞を増やしてもらう。
親の方にはその同胞を率いて減らされたノーマを増やしてほしいと提案すると、受け入れられたのだ。
娘はツェルギの妻を餌として食らい始めた。この女にノーマを産ませなくても、ガンドの娘が産み出せるわけで、餌として利用した方が効率が良い。
その食事姿を急いで遠征から帰ってきたツェルギに目撃されたが、慌てた我が二人を迷宮へと転移させた。我が器の種を狩り取った復讐は成された。とても心地良い気分だ・・・その後、ツェルギが死す時まで奴はノーマを狩り続けたが、どれだけ減っても女王がいれば産み出され続けるわけで、無意味な行為である。
親ガンドは狩りの途中で探索者とやらに殺されてしまったが、娘は女王として迷宮でノーマを産み落とし続けている。中々ガンドさえも生まれてこないが、何かしらの法則があるはずだ。
それからしばらくして、中央大陸の統一を神の使いとやらが成そうとしていると情報が入る。ついでにノーマまで狩られまくるという障害があったが、ダインと同じように何かが得られるかもしれないと留守を突いて大型ノーマを送り込む。
読まれたかのように隠れた手練れに殲滅させられてしまった。それでもしつこく目の届かない地域にノーマを送り込み、ガンドを生み出すことに成功。これでニヨブとかいう異世界から来たなどという愚か者を排除できると喜んだが、その男は金属の筒を召喚したと思ったらそこから何かを飛ばし、獣人種を巧みに統率してガンドまで屠ってしまった。
これが切っ掛けだろう。獣人種は強き者に惹かれる習性からか統一の駄目押しとなった。屈辱だ・・・ニヨブの手助けをしてしまう形になってしまうとは、奴が君臨している間は中央大陸での活動は難しくなった。隙が全く無いのだ・・・本当に異世界からの使者だとでもいうのか?その後200年も生き続けた・・・300年も生きた人種。本当に異世界から来た人間だったのなら、実験材料として貴重だったかもしれない。器作成の好機を逃した気分だったが、獣人族は種の壁を越えて交わり始めて多くがウォーダという混血に変わる。これはこれで新たなる素材だ。長寿であるが故に楽観的に実験を続けたが、思うようにいかない。生み出されるのはガンドまで、その先は目にすることなく長い長い時が無為に過ぎていった。
そして、我の現在の器にも限界がきていた。長き寿命でもアレを生み出せない・・・悉く失敗を続けた。
発想を変えてガンドが生まれたら知恵を与え、規模の拡大を促すようにしむけた。
田舎の脅威ではない農奴を餌や繁殖用にし、攫った女を隠して実験をしてほしいと白きガンドに願う。
「面白い。女王を守護する者よ・・・その実験やってみよう。私も同胞の強化には興味がある」
我の時間はあと2、300年というところだろう。考えうる限りあの手この手で器を生み出す方法を試すが、もし辿り着かねば厄介だ。ハイエルフの器確保も容易ではない。奴らも長い時を得て成長しているのだ・・・精霊魔法を使われ、この今の器を攻撃されたら何もかもが終わる。純粋なハイエルフは人族と交わり減っているし、長い年月で鍛えているのだから・・・。この先百年で結果を出せねば、新しい器を危険を承知で確保に踏み切る羽目になる。終わりたくない・・・我の意思を永遠のものとするのだ。
しかし、弱い者しか居ないはずの僻地で、白きガンドは植物に魔力を吸われ倒された。その様子を事細かに観察したが、相手は雑魚。完全にマグレ勝ち・・・実験場が無事なのがせめてもの救いだ。
と、思っていたら即実験場が制圧された。よく分からん女の探索者が物凄い魔力をその身に纏い、大型ノーマをあっさりと駆逐した。人族はここまで強くなっていたのか?それともこの女が特別・・・。
ダイン南方の田舎でノーマ自体を強化させていたガンドも、実験場を潰した女が育てて鍛えているガキに蹂躙された。見た目10歳くらいだぞ!何なんだ・・・。
ダインは駄目だ。あの女の居ない場所で生み出すしかないと、中央大陸の山脈近くにノーマを潜ませて見つからない様に女を攫わせて苗床にできた。沢山用意したノーマ実験場の一つが成功したはずだった。
おか・・・しい。夢でも見ているのか?我の記憶では双子の強力なガンドが誕生したような・・・いや、そんな夢を見たのか?何か魔法が干渉している?まるで記憶が塗り替えられたような錯覚に陥る。
いや、大丈夫だ。洞窟には苗床が存在して・・・何だ?この男、もしかして白きガンドを偶然倒した奴じゃ?奴は迷わず井戸を発見して洞窟に入り込んだ!不味い・・・こいつそれなりに強い。大型では抑えられんぞ・・・まるで知っているかのように、生まれる寸前のガンドを苗床ごと処理している。
躊躇なんて一切なく、止める間もなかった。予知か何かの能力でも持っているのか?
殺したいが、傍にいる得体の知れない格好の女から凄い魔力を感じる。何だこいつ?
もう一人、30過ぎてそうな男はもっと不味い。力が読めないだと?
どうして獣人族の街に・・・獣人種でもない人族がいるのだ。的確に我の計画を潰していく・・・この感覚はニヨブの時と同じだ!
我の意思を継続させない為、送り込まれた神の使徒なのか?
ふふ、良いだろう必ず超えてみせるぞ!
などと思っていたが、例の予知能力でも持っていそうな男は迷宮に引き籠り出てこない。やる気が無い様で素晴らしい。とんでもなく強い女が迷宮内に軍と共に入っていった時は、流石の我も絶望したが・・・追い返されるように出てきた女を見て小躍りすることとなる。奴らは組んでいない・・・まだ何とかなる。
やる気を回復させノーマを各所に飛ばすも、ダインではあの女かその仲間が対処し、中央大陸はあの謎の30超えたおっさんと幼女と何故か竜族が各地を回りノーマが苗床を確保しても潰され上手くいかない。
迷宮内に引き籠っている奴の指示だろうか?この体では直接排除する方法が取れない。いざという時の為に器が出現したらその意思を排除する魔法、そして意思を移す魔法と貯め込んであり、邪魔者排除には使えない。
我はどうにもならない状況に追い詰められていた。