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そんなものは無いっすよ  作者: G・スー
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敵わぬ敵相手に挑むカトー

知ってた…これで終わるはずねぇんだって。


運命は俺の敵で、嫌がらせばかりしてきやがるのをこの世界に来てから嫌というほど実感体感してきたのだ。


始まりの記憶無し異世界への理不尽転移、サポ無し金無し状態での放置、何とか探索者稼業が軌道に乗り始めると強敵の出現、何も出来ずに情けない敗北と手足が焼かれる痛みを与えられ、おまけに魔法を習うための貯金を吹き飛ばしたあげく、苦境を超えて勝ち得るはずだった一攫千金に水を差す。


マーベラス!最高だぜ糞っ垂れが!


森からゆっくりと一歩、また一歩と白い恐怖が歩いてくる。


背中には白い羽が右側だけに生えている。


無意味に片方だけなのが否応なく恐怖を掻き立てる。何のために付いてんだよその羽、ファッション?

絶賛したら見逃してもらえますか?


タイミング最高だよお前、反吐が出る。


「カトー、聞いてもいいかのぅ」


村長の質問を軽くスルーする。答えたくない認めたくない。きっと夢だまだ夢の続きなんだ早く起きなきゃ…。


バサッと羽が動き五日前の戦闘で使った石だろうか?風圧か魔法か不明な力で弾け飛んで森の木にめり込む。パワフル~。


「そんじゃ村長、宣言してた通りに俺は逃げるから…お前等も早めに選択して動けよ」


オロオロする村長を放置してくるりと反転、別れの挨拶にしてはそっけないが長々と話していたら物理的に首が飛ぶ。脱兎の如く逃げる体制に入る。

苦楽を共にした思い出の背負い袋を肩にかけ、白いのに背を向ける。緊張して動かないかと思ったが、意外にも軽快に足が動く。奴と反対方向の森に逃げ込んだ方がいいか?それとも村が壊滅しているうちに街道を全速力で走った方が…いや、相手が相手だ時間稼ぎにもならないだろう。

ここは森一択だ。






事は依頼完了まで三日、最後まで気を緩めることなく防衛陣地強化を図り、偵察隊が数体のノーマを狩って帰還したことから始まる。


「何か変じゃね?こいつらいつも棍棒振り回して攻撃してくるのに、今回は全員手ぶらだぜ」


見回りをしてきた村人が不審がる。


「臭いから早く解体場へ持っていけよ。まぁなんだ…統率者のギ・ノーマを俺らが倒しちゃったからよぉ、逃げ出す途中だったんじゃねぇの?んで、お前等に狩られたわけ」


「なるほどな、そうかも」


納得した偵察隊の面々は、小脇にノーマを抱えて解体場へと運んでいった。いつものようにいつものごとく変わりない平和とこれから得られる利益に胸を弾ませながら。


俺はそんな会話を聞いてあの時と同じ感覚が蘇る。ギ・ノーマを同時に穴に落とさなきゃまずいと感じたあの時と同じ感覚。いや、その時より見えない不安が大きい…なんだこれ?


冗談だろ気のせいさ、勝利は目の前だし=大金は目前。風邪でも引いのかもな、だから寒気がしたんだよ、うん。


ふらふらと村の中心の見張り台に吸い寄せられる。安心したいこんな不安は間違いだ!見張り台に人がいない?馬鹿野郎!


「クソガキ!見張りをサボるとかありえないだろ!どこ行った?」


とてとてと小走りで現れるクソガキ、少し感心して使えると思ったらすぐこれだよ。


「すいません、糞しに行ってまして」


「いいから、とっとと上がれ」


駆け上がるように登っていく。


「全方位報告!各方向十セル(十秒)数えながらじっくり調べろ。何かあるならすぐに言え、何でもいいからおかしなものはとりあえず報告しろ」


「慎重っすね了解!」


十秒、この十秒が嫌に長く感じる。


「一番、異常無し。次、二番確認」


東西南と順番に確認作業、何も出てこない。最後の四番、北側も特に何もないようだ。何だこれ…本当に何もないのか?いや、あっちゃ困るのだがね。


「おいクソガキ、本当に怪しいものはないのか?」


「森の木の間からたまに鳥の羽かな?そんなのがたまに見えるくらいで、それくらいですよ」


鳥?


「色は?」


「白ですね」


数秒固まる。ここらに白い羽の鳥なんていない、存在しないはずだ。それじゃ、クソガキに見えている白い羽はなんだ?迷子の白鳥か?ありえないんだよそんなもん!


俺は見張り台によじ登り、ガキと並んでガキが見ていた方向を眺める。この目で直に確認しないと我慢ができない。


「どのあたりだ」


「あれです、北側の森の木と木の間にほら」


ガキが指を差して場所を示す。俺の目にも確認できる白い羽。確認できたと思ったら視界から消えた。


「ありゃ?また消えた。五日前もこんな感じに消えたので、報告はしなかったですけど。あんな感じで見えたり見えなかったりするわけです」


「……」


見張り台をスルスルと無言で降りる。クソガキから「どーしたんですか?」と声が飛んでくるが、答えられる気力はない。


真顔のまま村に用意された探索者用の宿舎であるボロいほったて小屋に飛び込むと荷物をまとめる。

村長のところへ駆け出し、報告をしようとする前にそれは動き出した。


そして「知ってた」に繋がるのだ…知りたくなんかなかった。





走る、ただ走る。村人?もう駄目だろ、勝ち目なんかないしあの羽に撫でられるだけで首ちょんぱされるんじゃね?


村を南から抜ける。畑を無視して森へ飛び込もうと全力ダッシュだ!俺はここにはいなかった…最初から来ていないので、何が起ころうと知ったことではない。


違約金?払う払う。借金だろうがドンとこい、地味に安全に働いて返す。だから神様、俺だけは俺だけは助けてくれ。


南の森が見える。あと三十ルーネ(15メートル)、森を直進すれば川が見えてくるはずだ。そこで全身を洗って匂いを消そう。携帯食料は少しだがある。腰に吊るした剣が重く感じる。いっそ捨ててしまおうか?いや駄目だ。森にだって他の魔物がいるかもしれないのだから。


剣をどうするとか考えるだけ無駄だった。俺の足が止まる…止まらされる。バサッという音、死の音、至近距離で見る白い全身と満面の笑顔、笑顔が確認できるほど近くにそれは舞い降りた。

息が切れる…「じょ…ふざけ…ありえな」と、言葉にならない発せない。全力疾走してきたのだから、声が声にならない。


戦う?無理、このまま殺される?嫌だ。でもそれは俺の我儘だ。

おかしいだろ…村の反対側…まだ北の森から出て来た段階のはずだ。それを見た村人からの悲鳴で、近づいてくるのは分かっていた。俺が逃げたから追ってきた?そんな馬鹿な話があるか。


後退る。

どうしようもねぇ、剣に手をかける。無駄だと心が叫ぶ、どうせ死ぬ意味はない。


鬱屈した感情が恐怖を塗り替える。冗談じゃねぇ、俺はこいつにビビらされて殺されるためにこの世界に送られたのか?自分が主人公だなんて考えもしないが、それでも何かしらの役割のためにここにいるはずじゃねえのか?


「コワイコワイコワーイ?」


しゃべ…嘘だろ。でも意思がある証拠じゃねぇか?交渉、そうだ交渉だ!まだ道筋はある。


「俺をどうしたい?言葉はわかるか?」


「ワカルわかる分かるよ~ドーシタイって?あひゃアヒャアヒャヒャヒャ、タノシイタノシイヨ」


やべぇ、通じてるけど反応がアレだ。何なんだこいつ、色が白のガンドはこんな感じなのか?

瞬間、殴られた。


「ん、何しやがる!」


骨までは折れてない。右頬を右手で払うようにまるで手加減されているように払い、殴られた。


「お遊ビ」


舐めた発言と同時に俺の横っ腹に衝撃が走る。蹴られた…白い足で…また折れていない。


「てーこー?ていこう?抵抗シヨ、ガンバレー」


馬鹿にして遊び、手加減して挑発、圧倒的な力で遊びたい子供。これならどうにかする隙が見えてくるかもしれない。


後ろに軽く飛ぶと同時に剣を抜く。鉄なのかどうかは知らないが、この世界では普通レベルの剣である。斬れるか疑わしいがこんな状況だし、駄目であたりまえだからな。足掻いて足搔いて殺されよう。

体勢を低く、白いのに突っ込む。もう恐怖はない…どうでもいいからだ。

下から上に斜めに斬り上げ、白い胴体に傷をつける。上がった剣を振り下ろし、そのまま相手の右腕を狙う。


「ふん!」


切断できた。まるでノーマ、ノーマを斬った時と同じ感触であり手応えがない。


即動く、瞬時に斬れると切り返し首を狙う。接近、跳躍左から右へ横薙ぎに斬りつけ首が飛ぶ。

あっさりと飛んだそれは転がり、砂のように消滅するけど、何となく分かった…これは罠だ。


奴の股間から瞬時に頭が生え、手が足に、足が手になり、まるで片足だけの男が逆立ちしているような状態になる。股間から声が飛んでくる。


「シッテタって顔?オドロカにゃい?二本目イコッカ」


恐怖は消え、苛立ちだけが増幅してそこにあった。

いつの間にか片腕じゃなくなっているそれは、ヒョイっと腕の力で飛び上がると股間が顔に昇格する。斬り飛ばしたはずの腕、今は足だが…それも瞬きする間に生えている。


こういうタイプはお約束で核みたいなものがあるはず、希望が少しだけ湧いた。



村長が様子見に来たのか、人の声が聞こえる。偵察か、あいつらも考えるようになったな。

後ろから聞こえる村人からの声援に、俺は唾を吐いて答えた。

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