拒絶、そして反省会
「ハハハ、それで遊ばれて否定されて帰ってきたわけですか」
直接抉るように遠慮ない言葉を平気でぶつけてくるハインロード。彼の性格は段々と危機の時に表に出る傲慢なものに寄ってきているような気がする。
ここはダイン王都のとある食事処。ハインにディア、そしてへこんでいるデューへ、カトー勧誘の結果報告をしている最中、のっけから笑われているのが悲しい。
「予想通りでしたね。あの人はマユ姉から逃げようとしてましたから」
器用に食事をしながらぶっちゃけるキールディアちゃん。そこまで露骨に周囲に分かるくらい避けられてたの?普通、同郷の女でしかも年下相手にそんな態度とるかな?まぁとっていたのでしょうね。私が気が付かなかっただけで。
「ふふふ、これでマユ姉も負け組の仲間入りさ・・・ようこそ歓迎するよ」
どす黒い笑顔で言うな・・・騎士見習いに成れなかったのが余程堪えているのか、デューは最近こんな調子。なんせハインロード騎士見習い様が誕生してしまったのだから、余計に闇が深くなっている。
モテたいという動機で試験に参加したハインだけ受かってしまった。
適正は所詮適正でしかないけど、私が余計なことをしたからなのか斧使いとして格段に成長したデュー。
それに比例して剣の扱いや槍の扱いがお粗末なものになったようで、実技試験で力任せ過ぎると御指摘までされ落とされた。
そんなデューを鼻で笑うハイン、何故か若干イラついている。
「お前が負け組とか何言ってるんだデュー、キールディアとイチャついてるの知ってるんだぞ」
「な、どうして・・・」
「バレバレだってーの、幼馴染なのに内緒にされて僕は悲しいよ・・・」
え?何?目の前の二人、付き合ってるの?男追いかけてロリコンおっさんに追い払われて、今度は軍まで動員してあげくまた追い払らわれてる間に、知り合いはイチャコラしてたと・・・私も悲しい。
私はキールディアに視線を向けるとサッとその視線をかわされた。
「ちょっとこっち見なさい。いつからなのよまだ子供の癖に生意気よ私が男追いかけてる間にコソコソとずるいわなんで私だけ不幸なのよチートなのに何もかもカトーのせいよどうして報われないのよぉ」
「マユ姉、落ち着こう・・・お前らがトドメ刺したわけだし何とかしろよ」
「どうにもならんな、どうするディア?」
「ハイン何とかして・・・あなたがマユを貰ってあげたら?」
「こ、好みからして年上好きだろマユ姉、僕じゃ役不足さ」
こっちだってガキはお断りよ・・・何で焦っているのよ。もしかして嫌なの・・・嫌なのね。ああ、消えてしまいたい。
「マユ姉?ちょっと・・・ハインにさえ相手にされないから泣き始めたわよこの人。ハイン、本気で貰ってあげなさいよ」
「断る!」
「お前本当に性格変わったな。ハッキリ拒絶できるなんて・・・立派になって僕は嬉しいよ」
三人が賑やかに話し続けるのをワインの瓶片手にぼーっと眺める。もう私にできることなんて飲んだくれることくらいよ。飲んで飲んで飲みまくって何もかも忘れたい。
「ここだけの話、カトー勧誘とか誰も成功すると思ってなかっただろ?僕もそうだけど」
「デュー酷い・・・私は無理矢理連れてくる可能性が二割はあると思っていたわ」
「快く協力してくれるとは誰も考えてなかったのかな?」
・・・・・・・・・
ハインがひょこりと手を挙げる。
「まずさ、二人の立場を変えて考えてみたら結論出ると思うわけ。例えば・・・マユ姉が何も持たずに王都に現れたとする。何もない状態じゃ女性の身だから凄く苦労すると思う。体でも売る気になれば少しは贅沢できるけど、その気は無い様だし探索者として稼ぐとして・・・どうなると思う?」
「ハインの想定だとマユ姉は魔法もまったく使えない状態ってことだね?カトーもそうだったらしいし同条件として考えてみよう。探索者は無謀だろ、強くなきゃ魔物に返り討ちにされてしまう」
「余程運が良くないと住み込みで働ける場所なんてないし、駄目ね・・・野宿かしら?」
「野宿・・・若い女性・・・これもうこの時点で終わりだよね?」
デューが何を想像しているか何となく分かった。確かに私の場合だとそこで人生が終わるか、もしくは悲惨な人生に転落だろう。
「こつこつとお金が貯められて武器を買い、探索者として底辺でも稼げる段階になったとする。そうなった場合は?」
「ハインは甘いわね。そうならない可能性激高なのに・・・」
「そうじゃないと話が進まないだろ」
「まぁハインの提案通り何とか食べていける段階までいけたとしよう・・・切り詰めて魔法習得に金を出し、習得はできても効果は微妙か、もしくは普通。この先、この世界でやっていけるのか?と悲観すると思うな。僕も見習い騎士になれなくて結構へこんだけど、その比じゃないね。別の世界の人の気持ちは想像できないけど、かなり追い込まれるだろうなぁ」
「まぁ、カトーは図太いから普通じゃない精神構造してると考えても・・・厳しいな」
「立場を逆にすると考えると・・・追い込まれたマユ姉の前に現れる同郷のチート持ち、カトー登場ね」
「うっわー、カトーの性格からしてすっごいマユ姉を馬鹿にしそう。逆の立場ということは、マユ姉がカトーに異世界を紹介する案内人になるわけだし」
私が反発しても、それがどうした諦めろフハハハッざまぁと・・・切って捨てそうね。カトーなら言う絶対言う。
「聞いた話だと最初にマユ姉に力を与えた存在と話すのよね?」
「体験した記憶をマユ姉に見せるって話だったよな。つまり逆の場合、カトーにマユ姉が体験した記憶を見せようとするわけだが・・・二人ともマユ姉がそんな発想すると思うか?」
「ハインもそんなことしないと思っているのでしょ?勿論、私もデューもしない派ね」
「勝手に言われた・・・でもまぁ、確かにそんなことしようとも思わないだろうね。それじゃ、マユ姉はどう行動するかな?」
「ツェルギだっけ?マユ姉、カトーの立場でツェルギに接触したらどうするの?」
私はどうするのかしら?記憶の共有なんてまずしないだろうことは確か。であるなら・・・力を求めるかしら?
「探索者としてそれなりに稼ぎたいと願っているだろうから、力を望むと思うわ。もしくは元の世界への帰還かしら?駄目だろうと知っているけど、一応は確認するでしょうね」
それを聞いたディアは小首を傾げ腑に落ちないという態度。
「その願い、却下されるでしょうね。ノーマ殲滅がツェルギのしたいことだから、力を与えられるならば与えていたでしょう」
「力も帰還も却下され、キレるだろうから・・・マユ姉は案内なんてしない宣言ぐらいはするかな?あ、本人に聞くのが早いね、どう?」
ハインにそんな質問をぶつけられても、するともしないとも言えない。
「自分でも分からないわよ。追い込まれて、言うことを聞いてくないとなると・・・拗ねるかも」
「拗ね・・・マユ姉弱っ!」
「そういう状態を想定しての話なんだから、心も弱っているのさ・・・女の子だもん!」
・・・・・・・・・・・・
「・・・いいのディア?デューみたいな寒い男が将来の伴侶で・・・」
私もちょっと地味に心配になった。
「デューは昔からこーだよ」
諦めたようにハインが教えてくれる。年長者でしっかり者ってイメージがあったのに、最近はへこんだり寒かったり忙しい。
「いいのよ、こういうところを支えてあげたいって思うもの」
頬を染め言い切るキールディアの惚気に、思わず真顔になる私。あっちじゃ寝取られとか流行ってるし、ハインを焚きつけたくなる。いや、この場合は新たな女性とデューが浮気でもしないと駄目ね・・・取られちゃえ!
「コホン、話を戻そうか・・・ツェルギってのから何も与えられず帰れず、拗ねて協力もしないとなると・・・カトーが接触した【自称しない存在】とやらに願いを叶えてもらえないよね」
「マユ姉がそいつに仮に接触できて生活に便利な力を貰えても、カトーがそれを見逃すかしら?」
皆の心が一つになる。あいつは見逃さない・・・私たちが考えつかないような方法で、力を手にした私をどうにかしようとするだろう。
「僕が思うに、豹変してマユ姉を口説いてくると思う」
「ハハハ、そりゃないぞデュー。僕、クローと魔法の練習で伝達魔法使って話したりするんだけど・・・マユ姉のことをカトーは地雷女って言ってたそうだよ」
「何それ、地雷?」
「踏んだら爆発するっていうあっちの世界の兵器らしいよ」
「それってどういう意味なんだろう?爆発っていうのもよく分からない」
「火の魔法を一転集中すると破裂しただろ?圧縮って言ったっけ?僕が使ったアレだよ。ああいう現象が爆発」
ああ、そういうことか・・・みたいな目で私を見ないで!
「えっとまぁ、そういうことだから口説くってのは残念ながら」
「無いわね」
「無いね無い無い」
無い無い言わないでよ・・・知ってるわよ、分かってるわよそのくらい。
「それじゃ力を奪うとか、魔法でマユ姉を操り人形にするとか?」
やりそう・・・ハインも意外と黒い考えしてるわ。
「奪えなきゃ操る、カトーならそうするかな」
カトーなら洗脳とか催眠とか、躊躇しなさそうだからね。否定はできない。
「既にツェルギから力を貰ってるのよね?マユ姉が好みならともかく、地雷って認識なんでしょ・・・カトーも力貰ってチート状態って想定なら、相手にしないと思うわよ」
「一理あるね。よく考えたらツェルギって、マユ姉とカトーが一緒に接触した時に処分されたんだっけ?同じように処分されたら、カトーは力だけ手に入れて使命を果たさなくていい自由の身って気が付くはずだし」
「そうなのか?あ、クローからの情報だなそれ。確かに実際・・・マユ姉もツェルギが処分されてもチートのままだし、カトーならしたいことをするはずだな」
「ダイン王を脅して暴れまくる男ですものね」
今更ながらにこの子たちが私たちのことに地味に詳しいのが何故か、すっごく疑問に思えてきた。
「ねぇ、皆はクローから色々聞いてるの?」
「あ、マユ姉には言ってなかったね。定期的にリアから手紙が届くよ」
「ハインだけに?」
「うん、昔からリアに振り回されるのは僕だったから・・・酷いんだよあいつ。新しい下僕ができたからあなたは自由よ!だってさ・・・え?僕って下僕だったの?って、その時初めて考えたよ」
あらあら、実はハインがお気に入りだったのかもしれないわね。そう考えるとあのチートロリコンの罪は重い。クッ・・・リアがカトーか、ロリコンから直で情報仕入れて流してるのね。嘘じゃないから否定もできないし、保護者としての立場が・・・。
「話が逸れ過ぎてるっての。その【自称しない】奴に力が貰えるかどうかは、立場が変わったら微妙。変わらなきゃカトーが手にするってことだよな」
「気弱だったハインがまとめ役みたいなことしてる・・・人は成長するものなのね」
「茶化すなよ」
ハインが話をまとめ、私はそれを考える・・・私がカトーの立場で何とか生き残れていたとして、ツェルギに接触しても軽くあしらわれるだけなのは分かる。ツェルギは私が案内人役なら力なんて与えないだろう。仮にカトーが願ったとしても無視するだろうね。ノーマへの増悪だけが原動力だったし、カトーが選ばれていたらそっちに全力を注ぎ込むでしょ。
そもそもカトーをこの世界に跳ばしたのはツェルギじゃない。元の世界の管理者とやらのはず。
そう、ツェルギは荷物でも送っておいてくれ的な感覚で頼んだだけ。自ら手間をかけることもしなかった。そんな相手に・・・力なんて与えない?
あの時、カトーにお願いされて接触したわけよね?おかしい・・・私が仲介したからって案内人の相手なんてする?何かが引っかかる。
「結局マユ姉はチートで強くなってそれで満足すべきだったって証明されたね。巻き込んだ者にまで協力させようとか、望み過ぎたってことかな。巻きこまれた相手が死んでなかったことに感謝するべきだね。マユ姉が巻き込まれた側なら悲惨なことになっていたわけだし、白いガンドも健在だっただろうから、僕等も無事だったかどうか・・・」
「そう・・・それよ!あの時、ツェルギと接触させた時にはもう・・・あいつガンド倒して結果出してたのよ」
「何マユ姉、いきなりどうしたの?」
「気が付いたのよ。力を与えられることなくツェルギの望んでいたことを実行したカトーに、ツェルギは何も残さなかったのかって・・・もしかしたら【自称しない奴】に処分される前に、カトーに自分に残った力すべて託したんじゃないかって・・・」
「それで?」
デューのそれがどうしたというリアクションに少し戸惑う。
「だからね、力を貰ったのなら少しくらいツェルギの目的のために動いてもいいと思わない?」
「「「はぁ?」」」
え?あれ?何か間違えた?
「デュー、マユ姉はもう駄目なんじゃないのか・・・立場入れ替えて考えてもまったく反省してないよ」
「・・・カトーのおまけでこの世界に連れてこられたと想定した話をしてもこれだしね。なんだろう?頼るのが当たり前みたいな習性でもあるのかな?僕が期待した反応としては、カトーへ負担を強いるのはやってはいけないことと考え直すってものだったから・・・真逆でびっくりした」
「マユ姉を恨んで邪魔してきてもおかしくないくらいなのに、そんな相手に手伝えって・・・しかも、力貰ったか不明だし。仮に勝手に押し付けたのだとしても、ツェルギが勝手にやったことだし恩に感じる必要ないでしょ」
「そ・・・そうよね。そうね、そうだわ・・・色々あったから疲れてるのかも私」
ここまで全否定されるなんて・・・味方はいない。私は御都合主義的な考えに囚われているのだろうか?
冷静になるのよ。カトーからしたらツェルギの願いを叶えるのは不可能ではないが嫌=私を手伝うのは不可能ではないが嫌。
結局は嫌なんだ。それでも私は同郷三人が力を合わせてこの世界での困難を乗り越えるという甘い夢を見た。この世界に来た理由としては、カトーは強制、私は半分強制、あのロリコンはよく分からない。
「ねぇ、セーガっておっさんは何でこの世界に来たのか知ってる?」
クローやリアから話を聞いているなら、こいつの情報も知っているかもしれないしハインに聞いてみる。
「望んでこっちに来た人らしい。ツェルギがいなくなったから、その穴埋めだってクローが言ってた」
「管理者にしろって自称さんからカトーの元へ送り込まれたって聞いたけど?」
管理者候補?ということはあいつもノーマ殲滅が目的なのかしら?顔に出ていたのかそんな私にツッコミが入る。
「ノーマの殲滅は命令されていないから手伝わないって、ハッキリとクロー経由で伝わってるから言っておくね」
クローからハインへ私宛のメッセージ。セーガはBBAと組む気はない。そっちはそっちで勝手にやれ、迷惑行為をしてきたら潰すとセーガさんがお怒りだそうな。舐めやがって・・・でも、実際に暁から手も足も出せずに追い返されたのは事実。ロリコンおっさんは強い・・・というか、チートの質が違う。
「おっさんはノーマと戦うの?」
「戦うそうだよ。でも、マユ姉が関わってきたら幼女化の魔法の実験台にしてやるって」
ゾクッとした。お手上げね・・・協力関係はこちらからお断りしたい。あいつには私の魔法は通じないし、完全に抑えられ魔力を枯渇させられる。枯渇してどうしようもない状態で幼女化みたいな怪しげな魔法を使われたら防げない。幼女化したら・・・あれ?多分だけど元に戻す以外のお願いはかなり叶えてくれそう。もしかしたら幼女化した方が得なのでは?いやいや・・・。
「マユ姉追い込まれてブツブツと幼女になればとか洩らし始めたぞ。ハインどうにかしてくれ」
「僕に振るなよ。マユ姉が望むなら幼女になってセーガって人に囲われるのもありなんじゃ?」
「私がお願いしたら言う事聞いてマユ姉の手伝いしてくれるんじゃ?」
それだ!と私が言う前に、デューに止められる。
「生贄反対!幼女愛好家にこれ以上餌は与えられないよ」
彼女だしそりゃ止めるか。あー、転移でディアをロリコンの元へ送ってやろうかしら?なーんて、黒い感情が湧いてくる。いつから私はここまでヨゴレになってしまったのか・・・何もかもカトーのせいだ。
何時の間にかラッパ飲みしていたワインが空になってる・・・私は店員に大声で要求する。
「ねぇちゃん、ワイン追加ぁ!瓶ごとよろしく」