村人を無理に協力させないカトー
契約成立後に即指示を出し、まずは武器製造である。
斧は二本しかなくノコギリすらない。
斧二本で切れるだけの木を切り倒させる。
どうやって家を建てた?と思うだろうが、魔法という便利なものがあるのでそれでサクサク建てたのである。
風の上級魔法が使える者一人いれば、この程度は楽なものだ。
スパスパと木を薙ぎ倒し、板状に裁断、組み上げれば終わりである。
開拓村の家なんぞ三日もあれば用意できる。
丁寧な仕事ならヤスリ掛けしたように木材を処理できる。
斧すら必要ない…魔法便利すぎるだろ。
上級ともなればその程度は出来るので、領主お抱えの魔法使いを派遣して作らせたのだろうさ。
その人、そのままここに置いておけばいいのに。
村人の力のある者に死ぬ気で作業をさせると、文句の声が出てくる。当然といえば当然だよな。
「おまえら二人が辛いなら作業を誰かと代わるか?俺もやりたくない奴にやらせるほど理不尽じゃないからな。もし敵が来てこの木材のおかげで助かったら、この木材を苦労して用意した者、つまりはおまえら二人が評価されるわけだが…他の奴に譲るか?」
二人は全力で首を横に振ると斧を担いで森へ戻る。
素晴らしい働き者で感心してしまった。
ついでに丸太を運んで来る者たちのペースが何故か上がった気がした。
村長がこちらへ歩いてくる。
穴掘り作業を委託していたのだが、問題でも起きたか?
「カトー、少しいいかね」
「構わんよ、何か問題が発生したか?」
村長は一旦俯くと溜息を一度、その後に口を動かす。
「村の周囲の穴なんじゃがな…あれほど深く掘る必要があるかと疑問でな」
まぁそうだろうなぁ、ギ・ノーマは小さいもので体長2.5メートルほど大きければ3メートル以上になる巨体だ。多少深い穴を掘って足止めを狙っても大した効果は望めないだろう。
「どれほど掘れた?」
「大人一人すっぽり入るのが三十ルーネかのぉ」
一ルーネが50cmくらいだから1.5メートル一週間もあれば要所はカバーできそうだ。
一応使い方を説明するか?俺が言うより村長からのが良いだろう。
「その穴の上に板を張る、その上から土をかぶせてな。で、底には尖らせまくった杭を何本も配置しておくのよ」
「落とし穴というわけか」
「いや、単純な落とし穴だと、様子見で送られてくるだろうノーマが落ちるだろ?だからノーマが乗っても大丈夫なものを作っておく。で、安心して突っ込んでくるギ・ノーマが一体でも嵌ってくれたらいいなぁと思ってな」
「嵌っても乗り越えてきやしないか?」
「風魔法で俺が木を削って石槍を作ってるわけだが、木屑が大量にあってな。有効活用しようかと思うわけ…で、火攻めしようかと」
村長は無言である。駄目だったか?何か問題があるなら言ってほしい。
「木屑程度でどうにかなるもんかのぉ」
「周囲警戒任務の奴らにノーマ狩りと草刈頼んでるだろ?狩ったノーマの死骸は搾ったら少しだけ油が出るし、それに合わせて草は乾燥させれば盛大に燃える。杭と杭の間に草を仕込んでその上に木屑、さらに上から油を撒く。ついでにノーマの搾りカス刻んで一緒に混ぜとけば効果的かもな」
「…まるで戦争じゃな」
「戦争だよ…村人は兵で、俺が大将で村長が副将だ。しかも大将だけヤバくなりゃ逃げれる最悪の戦争だ」
「逃げる気かな?」
場合による…情報通りにギ・ノーマ三体だけならギリギリなんとかなる…かもしれない。
数が五体とかだとかなりまずいが、犠牲覚悟で挑むので逃げはしないだろう。これも世の為、金の為である。
問題はガンドが出てくるかどうか。一体でも出てきたら即時撤退確定である。根本的に格が違うガンドは出会えばそこで終わりだ。
出会う前に逃げるつもりだが、そう簡単に出会うものでもない。
そんな事情を簡単に村長に説明する。
「そこまで危険な敵なのかね?ガンドってのは」
「探索者やって一年半、その時の依頼で初めて負けた相手がガンドだ。その時は俺一人じゃなく三十人もいてな、上級探索者も五人いて一人殺された。中級は何人もが手足欠損するくらい追い込まれて、そのまま死んだ奴も多い。下級だった俺は後方にいたが、あいつの魔法で左手と左足が燃え上がって黒コゲよぉ。生きてた中級探索者が背負って逃げてくれなきゃ死んでたね。結局、助けてくれた御礼と馬鹿高い治療費を払うハメになってな。儲けどころか貯金してた金まで大半が吹き飛んだ。一体いたらギ・ノーマ二十体分くらいに考えとけ」
もしかしたら特別強いガンドだったのかもしれない。魔法を呼吸するがごとく発動し、蹂躙していく様は地獄だった。体格は180cmあるかないかで、ギ・ノーマに比べたら大きくない。
ノーマの成長は、まるで少年漫画の変身するボスのようである。色も変わるしそれっぽいかもしれない。
ノーマはゴブリンに例えたように緑の小鬼、ギ・ノーマは黒い大鬼、そしてガンドは属性によって色が変わる。
炎を操るなら真っ赤な肌、俺はそいつしか見たことが無いので他のは不明だ。
つーか、もう会いたくないでござる。
村長と話しながらも風魔法を調節、何本も石槍を製造、棒をちゃっちゃと作り上げる。
あとは女子供にやらせる。先端に石、しっかりと研いで使えるようにしてもらう。
ガキには石や砂、毒草に薬草と見分けなくていいから根こそぎ取って来いと指示を出してある。
雑草だろうが何だろうが、老人に仕分けてもらい使えるなら使う気である。
俺は金のために、村人は命と金のために。
あ、大事なこと忘れてたわ。
逃走する時に有利になる方法も考えなきゃな。