マユ、カトーに思いを馳せる
簡易的な衝立のようなもので仕切られた場所に、子供たちは隔離されている。
先程の女性の声も聞かれている可能性もあるわけで、気が重いったらない。
「泣き叫ばれるかのぅ」
嫌なこと言わないで・・・ルーディスさんにとって何度でもあった出来事の一つだろうけど、私には何もかも初めて。疑似体験的なことはしたけど、遺族を引き取り育てるなんて真似がちゃんとできるのか、不安だ。
衝立をどけて御対面、10歳程度の男の子三人と女の子二人。この子たちの親を私が殺したんだと、今更ながら実感する。
「お姉さんが、母たちを解放してくれたのですね」
一番年長っぽい男の子からの解放という言葉に、色々察していると判断した。
この子たちは理解している・・・誰一人泣いてないけど、それでも男の子の一人は無言で壁を殴りつけている。
やはり親子関係だね、理性では仕方ないという気持ちが溢れるが、感情部分である「この子たちの親を奪った」という事実は消えてくれない。
「姉ちゃんありがとな。まさかこんな感じで救われるとは、考えてもいなかったぜ」
お礼の言葉も力が無い。複雑なのだろうと
助かったのに怒りが収まらない・・・そんな感じだ。
「ええっと・・・ガンドとの契約では、お母さんたちがノーマを十体・・・僕・・・あいつが倒されるなんて・・・もっと・・・」
気の弱そうな男の子が遂に泣き始める。泣き声が反響すれば母に聞こえてしまう・・・抑えていたものも、今は我慢する必要はない。それでも未だに他の四人は平然とした顔、正確には一人が怒り、一人が泣き、他三人は無表情。逆に心配になる・・・何なの?これ。ルーディスさんが堪らず口を開いた。
「先のこと、母のことは、後から話せばええ。弔いが先じゃ・・・どこか良い場所に心当たりはあるかの?」
私はマップを皆に視認できるようにすると、それを見せる。ルーディスさんだけが驚いていたが、子供たちはそうでもなかった。カカロに墓地があり、そこに共同でお爺さんお婆さんも埋葬されているらしい。埋葬されてから直ぐに農奴にされ、開拓村で暮らしていたので覚えていると・・・。
「じゃ、そこに行こう。皆で手を繋いでね・・・そうそうそんな感じ、ルーディスさんは村長に説明しに行ってくれますか?」
「わしだけ歩くのか・・・」
「いえ、村長のところに跳ばすので、解決したと伝えて下さい」
返事すら聞かずに人差し指でルーディスさんに触れ、発動。多分これでいいはずだ・・・村長をイメージして跳ばしたけど、融合とかしてないよね?
「それじゃ、私たちも行こうか」
カカロの墓地、転移しまくりだったので、未だに昼にもなっていない。
「土葬?火葬?」
「聖水を買ってかけるんだよ、お姉ちゃん」
「そうよ・・・穴を開けてそこに入れてから聖水をかけるの、その後は埋めるだけよ」
私の質問に気の弱そうな男の子と、何か醒めてる女の子が答えてくれた。
空いている土地に魔法で穴を作る。長方形のを五つ、死体をそこに入れる。
聖水?どうすれば・・・見本があるなら作れそうなんだけど。ああ、忘れていた存在を思い出したわ。
「ナビィ、出てきて」
ポンという擬音で現れた忘れてた相棒。大抵のことは詳細鑑定で分かるし、仕方ないよね?
「姉御ぉぉぉ!忘れてたでしょ!」
「うん、ごめん。で、聖水ってどうすれば作れる?」
軽くスルーする。
「酷い・・・聖水なら魔法で出せますよ。我に聖水を与えよって言えば出せるかと」
・・・セリフは無くていいよね。無詠唱で死体に振りかける。うぉ!何か出た・・・聖水かけたら黒い煙?ナニコレ。
「ナビィ、この黒いのは?」
「ノーマとこの女たちの負の感情ですね。聖属性の聖水で浄化すると出てきます・・・この人たちは長期間汚されていたので・・・」
嫌なことを聞いちゃったな。
「さっきから独り言?いきなり聖水かけるし・・・凄く黒いの出てきてるし、お爺ちゃんの時と違う」
大人しいけどハッキリ物を言う女の子、醒めた感じはしないがツッコミは的確。
「ナビィ見えるようにしといてよ・・・」
「そうポンポン姿や声を晒すと問題になる!自重しようよ姉御」
文句を言いながらも姿を見せたのか、子供たちが驚く。
「魔物か?」
「目玉キモッ」
ヤンチャな子と醒めた女の子がナビイを貶める。ナビイは「だから嫌だったんですよ」とか言って私の肩へ。
「いいかガキ共、自分は姉御の相棒のナビィ。普段は見えないから内緒にしとけよ」
子供たちは口も無いのに喋る目玉蝙蝠に注目する。
「ノーマは負なるものだから、汚されたらあーなってしまう。あのままなら死体からでも魔物化して、墓から這い出てくる。あの黒いのが全部消えれば、もう母親たちは綺麗な体だ。安心して埋葬してやれ」
もう安心だとナビィに言われると、子供たちはそれぞれで祈る。手を組み何かに祈るのは大人しい子たち、年長者の子は敬礼?ヤンチャな子はただ綺麗になった自分の母親を見つめる。醒めた子は私の方へ来ると気持ちを吐き出す。
「安心したいから、聖水かけて」
「あなたに?」
「そうよ、駄目なの?」
確かにあの場にいたわけで、影響を考えてもおかしくないか・・・。私は聖水の雨を降らせる・・・何故か他の墓からも黒い煙が出た・・・ちゃんとしときなさいよ!
埋葬も終わり、今後のことを話し合わねばならない・・・あ、その前にカト村のルーディスさん回収してこなきゃ!
子供たちはオーエンの宿屋で食事をさせて部屋で待たせて、その間にルーディスさん回収へと向かう。
「お?帰って来おったぞ」
「早くないかのぅ、子供たちはどうしたんじゃ・・・」
お爺さん二人、ゆったりとお茶してる・・・暢気なものね。
「ちゃんと伝えてくれました?」
「変な目で見るでないわ・・・ギ・ノーマの脅威は消え、女たちを天へ返し、子供たちは保護したと・・・ちゃんと伝えたよな、村長」
「ああ、聞いたとも。今はニーハの実の利用法、殻をどうやって割るか話しておったとこじゃて」
ニーハの実、私なら割れるけど・・・ナビィ、何か方法は?
先程の失敗を教訓に思念だけで話しかける。情報料とかでお金になりそうだし、子供たちのために稼がなきゃね。ナビィの言葉が頭に・・・思念だけで会話する。
魔力が浸み込んだものを分断する方法・・・姉御、付与魔法で武器にそういう力を付けちゃえば、ナイフでも切れますよ。姉御なら使えます。
他の人は?私にはやることがあるし・・・。
ルーディスの爺さんに光魔法のレーザー使わせたじゃないですか、あんな感じで誰かに教えたらどうです?教育費も取れて一石二鳥、いや三鳥。魔断の付与魔法使えたら、ゴーレムなんかもサクサク切れるようになるし、教えて欲しい奴直ぐに集まりますよ。
じゃ、提案してみる。
「マユ、何か手はないか?考えてくれているのじゃろ・・・」
バレてた・・・流石はルーディスさん。
「ナイフでも切り割る方法がありますけど、付与魔法の魔断使えないと駄目なんです」
「魔断?そんなものがあるとはのぉ、わしも使えるかの」
村長からナイフを借りて、ルーディスさんを操り試すが付与されない?魔法さえ発動しない。
ルーディスの爺さんは付与魔法苦手なようですよ姉御。
早く言ってよナビィ!
「ルーディスさんは使えないみたいなんで、私が実践しますね」
「光収束魔法は使えたのに・・・」
村長が用意したナイフに魔断付与、ニーハの実の殻をすぅーっと割り二つに、思っていた以上に楽々に切れる。通販番組で実演してる気分。
「おお、これはあれじゃのぅ。付与魔法の得意な探索者とか、募集せにゃいかんのぉ。そんでマユに実地で使わせてもらえば覚えるじゃろ」
「教えてもいいけど、魔力回復薬とかその他が売れたら一割くださいね」
「継続的に?」
「勿論、この木から魔力が枯れて消えるのも鑑定して調べますから。それまでこの木関係で発生した利益の一割、よろしくお願いします」
一割は取りすぎだろうか?この木に魔力が詰まってるのも、カトーがそうしたからで・・・これでは彼の功績を利用して儲けるようで気が引ける。だけど私のチートが無いと、実や木材を有効活用できない。
あいつは金になったと知れば、必ず利益を要求してくるだろうから・・・。
「村長、カトーがこれは金になる!って助言してきたんですよね?本当にお金になったら、カトーが利益寄こせって言うと思いません?そういう要求があったら、私が間に立ちますよ」
「即契約しよう・・・奴なら半分は寄こせと言うじゃろう。一応功績があるしのぉ、一割か二割は覚悟するが、それ以上要求してきたら何とかしてくれ」
カトーへの信頼が高くて面白い。違った意味での信頼だけど、信頼は信頼である。
「それじゃ付与魔法使いが見つかったら連絡・・・あ、手段がないね」
ナビィ、何かない?
ん~、魔力が尽きないマユなら一方的に思念を届けられるけど、村長は無理だから・・・あ、この木を利用して魔具でも作ればいいかも。思念伝達魔法を村長に教えて、枝を加工してそれを繋げて・・・姉御の世界の無線みたいな感じに。距離や会話の長さで魔具の魔力を消費するけど、100回くらいは使えるし。姉御が魔力補充したらまた使える。ケータイ?スミャホ?みたいに便利じゃないけど。
それでいこう。私は村長を脅した際に切断した枝をナビィの指示で加工、二つのお守りみたいなものを作ると、その一つを村長に渡す。
「なんじゃこれ?」
「思念伝達魔法補助装置」
「通信の魔具とは違うのじゃな」
ルーディスさんが興味を示す。通信?そっちのが便利なんじゃ・・・ナビィどういうこと?
思念伝達に特化した魔物がいるのですよ。その魔物の素材で作るものですねそれ、それ単体で魔力が少しあれば使える代物なんですよ。素材がないとどうしようもないので、今回は仕方ありません。
専用の物が必要なのね。
「枝の魔力を利用して、思念伝達魔法に必要な魔力を肩代りさせる道具なんです。両方に私の魔力を刻んでるので、思念伝達魔法が使えれば私に連絡できますよ。そんなわけで村長、覚えてください」
強制的に思念伝達魔法を発動させる。今度は上手くいった・・・何でよ?簡単だから?
簡単じゃないですよ。
失敗か?マユの声と違う声も聞こえるが、誰と喋っておる?
あ、混線した。村長秘密でお願いしますよ・・・呪いますよ。
了解じゃ・・・おぬしなら呪いとかもできそうじゃしな、わしは何も聞いてない・・・。
「ルーディスさん、成功しました」
「思念伝達、わしにも教えてくれ。1000年以上生きておるでな、顔は広いしコネもある。損はさせんぞ」
「えー、んん・・・何か面倒事押し付けられる可能性が高そうだけど、仕方ないか」
ルーディスさんにも同じ物を作り渡すと、操って魔法発動。楽勝で使えた・・・付与の時は失敗したのに何でだろ?
わしに資質が無かったのじゃろうよ・・・詳細鑑定で調べてくれると助かる。
乙女の思考に横入りするとか・・・はいはい、やってみます。
ええっと光が一番高いですね、そんで風に植物、ああ!本当に付与の資質がない。闇もダメですね・・・あれ?自己老若操作って特殊なものが・・・何ですこれ?
そこまで見れるのか・・・では見せよう。
爺が変身した。
「イケメン!なんで?さっきまでお爺ちゃんだったじゃないですか!こんなの詐欺です・・・二十歳くらい?嘘でしょ?」
「驚きすぎだと思うが、エルフは寿命が長いが外見の変化に乏しい。故意に老化して、外見だけでも威厳を高めねばならんのよ・・・ハイエルフならもっと変化しない」
若返りすぎでしょ。長髪美男子がそこに・・・さっきまでヨボヨボの爺だったのに。
あ、また爺に戻った。若いイケメンのままでいいのに、そういう訳にもいかないのかな。
「なんじゃい分かり易くガッカリしおって、女はこれだから・・・」
「イケメンが嫌いな女子なんていません。ほら、子供たち待ってるだろうし行くわよ」
イケ?なんじゃそれと疑問に思っているルーディスさんを無視して、ルーディスさんを掴むとオーエン支部に跳び。今はイケメンじゃない爺を放置して、子供たちのところへ即跳んだ。
待たせているかもしれない。結構長くなったし、大丈夫だろうか?
「ただいま、待たせてごめんね」
「遅い」
「金策しててね」
「それじゃ問題ないわ。お姉さんにお世話になるのだから、文句は無いわ」
醒めた女の子は冷静、自分たちの立場をそれなりに理解している。
「とりあえず自己紹介を・・・私はマユ、初級探索者よ」
ヤンチャ君が派手に驚く。
「それじゃギ・ノーマを倒したのは、あの爺さんなのか」
「いいえ、私が処分したよ」
皆の視線が痛い。どう説明したらいいやら・・・。
「えっと、まぁ初級だけど特別に強いのよ私」
「マユさんにも色々あるみたいだし、聞かない方がいいかも」
皆、微妙な表情・・・別の世界から~とか言っても信じないだろうし。いやいや、チートだから納得してもらえる可能性のが高いかな?大人しい女の子に聞かない方がいいとか言われちゃったしどーしよ。
「マユさんのことは置いておいて・・・この五人の中で一番年上のデュー12歳です」
「クロー、11。俺は探索者になろうかと思っててな、直ぐに独立する気だ」
独立ねぇ・・・この御時世では難しいかもね。
「えっと・・・笑わないでくださいね。ハインロード11歳です・・・名前負けって呼ばれてました」
うぉ・・・これまた強烈、ハイン君でいいかな。
「リア、9歳よ。探索者とか無理ね・・・綺麗に成れたら、金持った男を捕まえたいかしら」
ふむ、お嫁さん志望と考えれば可愛い?かな?
「キールディアです、10歳・・・怖いけどノーマ狩りしたい」
気が弱そうなのに物騒な子・・・っていうか、気が弱い組は名前が派手ね。デュー、クロー、リアが地味に感じる。
「探索者に成りたい子は・・・私が鍛えてあげる。私は資質っていうのが鑑定魔法で見れるから、長所を伸ばせると思うよ」
早速デューを詳細鑑定、この子は斧?と闇?はぁ?
聖騎士でも似合いそうなイケメン予備軍みたいな顔して、斧と闇ってあんた。似合わない・・・けど仕方ないから伝える。デューにはショックだったようで、ベッドに突っ伏すデュー。やっちゃったかな?
クローは・・・適正武器が無い。魔法は・・・風、水、光、聖、空間、付与、ええっと・・・何だこれ?魔法使いだよねこれ・・・肉弾戦とか盗賊系似合いそうな元気な子が、まったく似合わないものが得意だと・・・。この場合杖系?じゃないよね適正武器無しだもん。何も持たないでぶっ放す、凶悪な魔法使いになれそうだ。クローに伝えると「金かかるじゃん!なんだよそれ何かの間違いじゃねぇのか?」とのこと・・・私は二度目の詳細鑑定してみるが、やっぱ立派な魔法使い系です。せめて火とかあれば似合うのに、まるでエルフ系の資質だ。魔法は私が教えられると告げると一転、「大魔法使い狙うぜ」と調子の良いことを言い始める。
探索者を望む最後の一人、キールディアちゃんを鑑定。
うぉい!適正武器、己の体って何なの?肉体言語で語り合う系ですかそうですか。それ以外には資質が無い・・・別に格闘とかそういうのは無い。どう伝えるべきかすっごく悩む。私は教えられないだろうし、我流?正直に伝えるしかないとぶっちゃけると、何故かキールディア以外全員が納得した。どういうことよ?
「ディアはたまにデューとかクローの顔を木に描いて蹴ってたしね」
「クローはともかく、僕は紳士だろ?何で僕まで・・・」
リアの暴露にデューは心外だという態度だが・・・小さな声で「そういうところが気に入らない」とキールディアが呟くのが聞こえた。怖いよ怖い・・・クローなんて跪いて謝罪してるじゃないの、何か身に覚えでもあったのかな?
「探索者志望の子は鑑定したけど・・・リアとハインはどうする?」
「ハイン・・・いいですねそれ、開拓村じゃロードって言われて遊ばれたりしてたから・・・クローなんてロードが責任を持て!王なのだから・・・とか言って、いたずらの責任を僕に押し付けるし、やり返すためにも確認します」
「悪かったよ。だから、すげぇ資質があっても復讐とかやめろよ?過去の話だろ、流そうぜ」
何だろう・・・クローは誰かさんに似ている。
「私も一応確認したいわ。魅了とか商才とかあると助かるし」
リアはのし上がることしか考えてないっぽい。あんな地獄を9歳で体験したのだから、仕方ないかな。
まずはハインロード君から鑑定・・・ありゃ?
適正武器、剣、魔法は植物、火、治癒。騎士適正・・・って、まんまかな?ええっとセブ及び盾の適正に優れる・・・正統派じゃないこの子。でも伝えると嫌がられた・・・セブを使った運搬系の仕事で良いと、戦うのは怖いと・・・勿体無い。デューの恨めしいという態度が伝わってくる・・・闇なのも道理かもしれない。
続いて恐る恐るリア鑑定、適正武器、槍、魔法適正無し、んん?これ何?流天槍舞・・・技なのかな。
もう一度鑑定、駄目だ・・・女の子二人が肉弾戦大好き武闘派過ぎる。魔法適正が無いし・・・言い難いけどぶっちゃける。リアちゃん大丈夫だろうか?壁にもたれ掛かりブツブツと何か言ってる。
「えー、以上が皆さんの資質・適正です。今後の参考にして下さい」
「で、マユ姉。私たちの生活資金はどの程度出してくれるの?」
リア、いきなりそこから・・・そりゃ重要だけどさ、さてどうしよ。
「私が持ってる資金は970万ドーンかな。五人でどのくらい必要?」
リアが考えている。クローは何も考えていなさそう・・・デューは考えているようで考えてなさそう。
そんな調子でいるとキールディアが提案する。
「まず探索者志望だけで組んで、どの程度活動してどの程度稼げるか確認したらいい」
そんな言葉に待ったが入る。
「私も探索者として戦ってみるわ。何か使えるみたいだから、確認が必要でしょ」
ああ、リアの技っぽい何かね。ナビィに聞いてみようか・・・出ておいで。
「最初から出して下さいよ姉御」
「いいから、流天槍舞って何?」
「ああ、槍舞系ですか。適正武器が槍の人が稀に獲得するものですよ、技とかじゃないです。技は師匠を見つけて習うか、自分で編み出すかどちらかで覚えます。資質には記載されません」
「どういうものなの?」
「槍捌きが最初から上手く、技も戦ってたら勝手に覚えます。習得が早くてしかも上手いので、槍特化型ですね」
「一番年下の癖に棒捌きが上手いのか、流石はリア」
クローがセクハラ紛いの茶化しをするが・・・。
「捌けるような棒が無いと無理だけどね、クローのじゃ・・・ちょっと無理かしら?」
舌で上唇を舐めながらクスクス笑う9歳。クロー、押し黙る・・・顔を赤く染め俯く・・・手玉に取られてる。女の子は精神年齢が男の子より高いとか何とか、高過ぎじゃないかな?突き抜けてるって。
そんなセクハラ返しを見物していると、ハイン君が慌てた様に声を上げる。
「ちょっと・・・僕一人留守番みたいな流れやめてよ。僕も行くよ、置いて行かないで」
そんなこんなで最初の方針は決まった。それぞれの武器を明日にでも見繕って、迷宮にでも行きましょうと提案してみたが、皆の反応が悪い。
「迷宮ってオーエンですか?無謀です」
デュー君拒否る。
「マユ姉は凄いのか無知なのか分からないわね。中の上から上級探索者専用みたいなところなのよ、オーエンの迷宮って。ガンドやギ・ノーマを倒したマユ姉がいても厳しいわ」
リアはチートを舐めてるわね。私が本気なら・・・って、ガンドは倒してない!
「あのあの・・・皆、勘違いしてそうだから言っておくわ。私は白いガンド倒してないからね!私の知り合いが倒しちゃったのよ」
「あのお爺さんかな?エルフっぽかったし魔法で倒したとか?」
ハイン君・・・それならどんなに良かったか。
「あの人じゃないわ・・・言い難いのだけど、力で倒したわけじゃないのよ。ガンドを倒した初級探索者は性格はクローを成長させて、もっと狡猾にした感じの人なんだけど・・・白いガンドは知性があったでしょ?言葉も話せて意思疎通できた。だから、追い込まれたその初級探索者は・・・ガンドを騙して罠に嵌めて、ガンドの核を破壊したのよ」
「ちょっと待て!そんな詐欺師臭いのと俺が何で似てる!」
「ちゃらんぽらんなとこかな・・・その探索者はカトーっていうのよ」
「ああ、確かにクローが当て嵌まるね。不真面目が服着て歩いてるのがクローだからね」
デューが手厳しい。
「クローに似てるなら、言い訳とか上手そうかも」
キールディアが的確なことを言う。
「皆酷いよ・・・クローはたまに優しいよ、極たまにだけど。そのカトーって人も微かに優しいはずだよ。100回に1回くらいは、さりげない優しさを見せてくれるんだ」
フォローなのかしらそれ?ハイン君。
「どーせ金のためか、逃げられなくて仕方なくでしょ、もしそうなら凄くクローっぽいわね」
リアは流石ね、ビンゴ!
でも何のためであれ、彼はこの子達の恩人に当たる。白いガンドが開拓村を滅ぼしてあの洞穴に帰ってきた場合、女たちの恐怖が続行されただろう。それは子供たちにとっても同じ恐怖だ。
夕食を宿屋の食堂で食べ、皆をお風呂に入れる。服や靴も明日揃えてあげよう・・・今頃カトーはどこにいるのだろう。
別れてから二日目が終わろうとしている。まだネスカ辺りかな?もし出会えたらこの子達の話をしてあげよう。キールディアにクローと一緒に寝ると、わざと胸に顔を埋めようとすると指摘されたので、女の子たちとベッドに入る。クローは「寂しいのかもな俺・・・無意識に温もりを求めてしまうのさ」と言い訳。ていうか、それ否定してないよね?
こいつをカトーに会わせてやりたいなと思いながら、リアとキールディアに挟まれながら眠る。
彼女たちを腕枕していると少し冷たく感じる。どうして?とは思わない・・・当然だから・・・。
私は腕の部分が濡れてしまうのも構わずに、目を閉じた。