セブに跨り高く飛ぶカトー
帝国と王国さ間違えて王都連呼さしてただよ
修正面倒だし、王国でいくべ
おらは悪くねぇだ!
オーエンからダイン王国王都ペネまで、それほどの距離があるわけでないが金はある。
金があるなら前から欲しかった足を買ってもいいのでは?この世界地味に広いので、移動だけで結構面倒臭いわけ。足、つまりはセブである・・・大体が借金の形に取られる高級品である。セブの寿命は人の半分くらいで、長く使え、運搬・移動・戦闘と用途は多い。だからこそ誰もが欲しがるが、まずは軍があるだけ持って行ってしまうし、次に商人が運搬から移動にと確保してしまう。余ることがない人気の魔物である。
野生のセブもいるにはいるらしいが、手懐けて繁殖し子供を増やして調教して売るまで、投資が必要になる。
需要のあるセブを捕獲し、これを上手くやれる者は少ない。金、経験、そして運、犀と馬の掛け合わせみたいなこの動物を使った商売は情熱なくして行えない。
どーすっかな買っちゃう?レンタルとかねぇわけ?高いからさぁ、手軽に使えるようにしてほしいぜ。
金ならある!って成金みたいなこと考えてたじゃないっすか、良い子が揃ってるかもしれないっす。
やめろよぉ、キャッチみたいなこと言いやがって・・・俺そういうの期待しちゃうタイプなんだよ。
オーエンの街にもセブの飼育場があるので、誘惑と物欲負けた俺はそちらに足を向ける。
まぁなんだ、高過ぎるとか駄目過ぎるようならやめときゃいいのだよ、リンネ君。
財布の紐ゆるゆるじゃないっすか?俺は風になる!とか言いそうっす・・・。
リンネを軽く無視して歩みを進める。しばらく歩くと金属の背の高い柵が見えてくる・・・木の柵とかじゃぶっ壊されるのだろうか?まぁあのガタイだから逃げられないようにしないと、高級品だし。
柵に沿って進むと見えてくる施設。厩舎?だろうか。
「こんちわー」
躊躇とか無しに突撃する。怪しい営業職をしていたので、こういうのは慣れている。
「なんだべ?お客かい」
典型的な田舎のおっさんが、顔をひょこっと出してこちらを見る。
「セブを買いに来ました。見せてもらってもいいですか?」
「売り物は少ないべ、、殆どが軍用になるだ・・・売れるのは三頭だけでよぉ、しかも特殊だべ」
特殊?おっちゃんはしばらく待ってろと告げると、その三頭を連れてきてくれるようだ。
結構な数いると思ったが、軍用か・・・新しく騎士になるものにでも振り分けられるのかねぇ。
おっちゃんが連れてきたセブ、こりゃまた確かに特殊だ。バカデカいのが一頭、デカいのが一頭、小さいのが一頭。普通サイズの3~4mくらいなのがいないし、デカセブは一番デカいのか5.5か6mくらいある。
一方、小さい奴は2.5mくらいで成長途中のようだ。
「普通くれぇの大きさのは全部軍用に抑えられてっから、残ってるのはこいつらだけだべよ」
「デカ過ぎじゃね?十ルーネ(5メートル)超えてるじゃねぇか」
「一番デカいのがグゥオークだ、十二ルーネ(6メートル)あるだよ。二番目のがルーフー、こいつも十ルーネ(5メートル)超えてるだよ。んで、こいつがおすすめのトアンジー。まだ若いけっど乗り心地もいいし、何より素直で言うこと聞くだよ。こいつは五ルーネ(2.5メートル)だけんど、力はある程度あるし、軽い荷物や移動だけなら問題はないだ」
営業トークが開始されたが、一頭しか推してない・・・まぁ乗ったこともないと判断されて、初心者用をプッシュされているのだろう。デカ過ぎだしなこの二頭。
「それぞれ試乗って出来ますかね?デカくても使えそうなら問題ないし、1000万ドーンまでなら予算として考えてますから」
「若いのに金持ってんなぁ、乗るのは構わねぇが何かあれば賠償だど。事前に魔法契約さしねぇと乗せらんねぇかんな」
おっちゃんの目が一瞬怪しい光を放つが、見逃してしまうほど一瞬で元に戻った。金だけじゃどうにもならんと判断したのか?こういうのは相性とかもありそうだしな。相手は生き物で大人しいが魔物である。
「では、契約を」
あっさりと受ける。高級品だからね、当然壊されちゃたまらんだろうしデカいので建物にぶちかましをさせて破壊して、逃げるなんて奴もいるかもしれない。契約書類を見せてもらうと予想通りに逃げるの禁止されてる・・・やった奴いるのだな。
落セブして怪我しても魔法で治してもらえるサービスが強制で付けられている。つまりタダでは乗せられないということかよ・・・。
「一万ドーンだべ」
ちゃっかりしてやがる・・・金を払って乗セブ方法などレクチャーしてもらい、いざ試乗である。
「全長もバカデカいだが、高さもあるだ。台使って乗るべか?」
「フン、そんなものは必要ない」
用意されたグゥオークの背に飛び乗る。この世界の身体能力向上システムは頭おかしいからな、2.5mくらいの高さなら余裕で飛び乗れる。あー、魔物を倒す職業じゃないと最初からハードルがあるわけか・・・金だけではなく自前で乗れる身体能力、それから相性による操作、最後は維持できる経済力。おっちゃんのやれるものならやってみろ的な態度も、これならば仕方ないのかもしれない。
「どーよ」
ただ乗れたってだけでこのドヤ顔っすけど、怖くないっすかマスター?
めちゃ怖い・・・最早これ犀じゃなくて象だろ。象なんて乗ったことないけど、多分このくらいだわきっと。これで走ったらどーなるのか・・・。
「しっかり手綱握るだよ。あと足を使うだ・・・きゅっと挟み込むようにするべ」
胴回りも太いし、挟み込めてる気がしねぇ。振動で吹っ飛んで、回復魔法のお世話になる奴がいるのも道理。金取るの?とか思った俺が悪かった・・・助けてー。
レクチャーに従って試乗用のコースへと進める。こいつデカいくせに結構指示通り言うことを聞く。
「事前に言っておくだよ。ヤバかったらほれ、藁が積んであるべ?手綱放してでもそこさ飛び込むべ」
脅しか?グゥオークは正に今、俺と一体になっているのだ。華麗な走りをお見せしようじゃないかね・・・心配なんて吹き飛ばしてやんよ。
「二周回って終わりだな、行くぜグゥオーク!」
「ブヒィー」
マスター、体感したいから中にお邪魔するっすよ。
リンネを同化吸収して走り出す。速い・・・想像以上に速くてビビるが、この程度ガンドを目の前にした恐怖程でもない。手綱を使ってカーブを上手く曲がらせる・・・俺にだって出来るじゃないかリンネ君。
その割には心臓バクバクしまくりでうるさいくらいっすよ。
こいつに隠し事は無理でしたね。一周目を軽快に走り抜けると、二週目に突入。二週目も思う通り操作出来て気持ちいい。ゴールして手綱を引いてとめ・・・ん?おいちょっとグゥオークさん?止まれの合図だよ引いてる引いてるのに何でえぇぇぇうぉこれがお前の本気?いや止まれって前、前えぇぶつかるからそれちょ・・・。
三周目、止まることなくコーナーへ。コーナーを曲がることなく直進、怒涛・・・正に怒涛の勢いで藁に突っ込む。んだよあの超加速、聞いてねぇぞ・・・スポンと放り出された俺は、運良く藁に頭から突っ込み・・・何してんのお客さん?とか考えてるようなグゥオークさんに足を咥えられ、引きずり出されて顔を舐められた。おまえがやったことだろ?惚けた顔してんじゃねぇよ!
「大丈夫だか?グゥオークの奴、基本優しいだが偶にヤンチャするべよ」
「ヤンチャで済ますな」
文句を言うが、途中までは良かったのだ・・・最後がアレだっただけでな。
凝りもせず二頭目、ルーヒーに試乗するも・・・乗った瞬間から元気に跳ねる。
「うぉ!跳ねるなドードー落ち着け」
何とか抑えるも不安過ぎる。
「こいつもヤンチャで・・・跳ねるのが趣味みたいなもんだべ」
おっちゃん!ヤンチャなのしかいないのか?
「このまま走って大丈夫かこいつ?どうなんだ、おっちゃん」
「・・・・・・死にはしねぇ。こいつは特別体が柔らかくて、跳ねても衝撃が余りなかったべ?」
確かに・・・本来硬いはずのセブの体にしては柔らかい。だが、一瞬目を逸らしたおっちゃんが、何か隠していそうで嫌な予感がしたので飛び降り手綱を渡す。
「何かあるだろこいつ」
「何もねぇだよお客さん、しいて言うなら飛び跳ねるのが好きなくれぇだべ。・・・普通に走る時も偶に飛び跳ねたり、壁があると飛び越えようとする習性なんてそんなもんねぇべさ」
ねぇべさとか言われても信じられるか!
おっちゃんにいいから三頭目にいこうと促す。小さく乗り降りもすんなり、乗った状態でも指示がないと勝手なことをしないトアンジー。スタート地点まで走らせて止まるという行動をさせてみたが、完璧だ。
「こいつは生粋の良い子だべ。言うことを例外以外は何でも聞いてくれるだ・・・だけんど、その例外が厄介なんだだべ」
「今度は何だよ・・・こいつすげぇ乗り心地いいし、めちゃな懐くよ?何なのこの従順さ」
爆弾があるらしいが・・・大したことないといいけど・・・。
「ノーマさ見ると突撃して角で突き殺しまくるべ・・・優しい顔してもう、三十体以上は突き殺してるだよ。一応は止まれの指示は聞くだが、戦わせてやんねぇと機嫌が悪くなるべ」
マジか・・・。
マスター、この子の存在力・・・小さいくせにかなりあるっす。他二頭は流石に桁が違うっすけど、成長期と考えると化けるかもっす。
「とりあえず走らせてみる・・・行くぞトアンジー」
「ブフーン」
グゥオークほど速くはないが、安定感が違う。遅く、速くと切り替える指示を試してみると完璧にこなした。前の二頭とは呼吸の仕方もなんか違う・・・ブフブフっと安定した呼吸音、何だこいつ?
停止も完璧。挟み込んだ足をキュっと締めるだけで、ああ・・・止まるのですね止まりますねって感じで先読みしたように停止するお利巧っぷり。ノーマ程度一々俺が攻撃しなくても、こいつに乗ったまま突撃させて突き殺せば楽かもしれない。ギ・ノーマとかだとヤバいけど・・・欠点も利点に成りうる。
「おっちゃん、こいつに決めた!」
「正直売りたくねぇべさ、欠点以外は完璧だべ?貴族のぼっちゃんとかに売れそうでねぇか?」
「大事な息子を乗せたまま、ノーマに突っ込んでいくセブだぞ?無茶言うな安く売れ」
値切りたい。100万ドーンくらいが理想だ・・・無茶か?
「仕方ないべな、諸々付けて250万なら売ってもええだ」
高くね?
「小さいし250はねぇだろ150」
「舐めてんじゃねぇだよ、もう二年も育てれば軍に卸せるだ。そしたら250どころじゃねぇど?400は固いべさ。まぁ世話も考えて200万、これ以上は無理だっぺ」
軍で400万だと・・・ありえそうな金額で大きく出たものの50下げたか、こりゃ何かあるな。
「軍じゃ規律が求められてる。気を緩めたらノーマに突っ込むような奴は、仮に優秀でも売れねぇぞ。売れ残れば維持費がかかる。180万で手を打たないか?」
「流石に安いだよ・・・利益が・・・」
「いいか?ノーマに突っ込むことを黙っていればあいつは売れるさ・・・だがそれだと、信用が消える。後からこんなの聞いてないと言われるしな。だから、おっちゃんは話してくれる優しい人だ。でも、話せば規律重視の軍や大事な荷物を預ける商人には売れない・・・そこで俺のような探索者だ。色々な場所へ行く探索者は勿論、ノーマに遭遇し続ける。何度も「まだ突っ込むな」と指示が出せる。4,5年後なら体が大きくなり、ノーマを見ても突撃しない優秀なトアンジーの出来上がりだ。俺も将来的には家を買う気だし、トアンジーはその時必要じゃなくなるだろう?高値で売りたい俺は調教したこいつをおっちゃんに売りに来るさ。事情も知ってるから説明が楽だしな。というわけで180万、これ以上あげられると苦労分俺が損になる」
「ん~確かにここで腐らせるより、実地で改善した方が効果的だなや・・・。仕方ないべな、他に売らないとしっかり魔法契約さ交わすだよ。調教分先に引いてやるだで、売る時には上乗せは無しとも契約交わすべよ。それでいいべな、あんちゃん」
チッ、しっかりしてやがる。契約で縛られたら他で売れないじゃねぇか・・・ここに持って来たら買い叩かれる。
「分かったよおっちゃんには負けたぜ、それじゃ150万。どうせ買い叩かれるならこれくらい安くしろよ」
「あんちゃん・・・絶対死なすでねぇぞ。もうそれでええだよ・・・契約すんべ」
マスター・・・予定より高くないすか?
普通なら300万くらいかな・・・ここまで優秀だと350くらい考えてもいいくらいだ。ここに売りに来る?馬鹿め、家買っても厩舎も作り、共に暮らせばいいのだ。遠出をすることなんていくらでもあるし、その頃には元は取れてる。そもそも家作れるだけの金を貯めるのに、何年かかることやら・・・。
おっちゃんと俺、笑顔で別れる。
「リンネ、すげぇ乗り心地最高だぜ。得したなこりゃ、トアンジーじゃ長いから、トアって呼ぶことにするわ」
「何かマスターを取られたようで、地味に嫉妬するっすよ」
「おまえに実体があれば、こうやって撫で回すのにな。隅々まで・・・」
「ブブヒヒ」
「いやらしい触り方でトアを汚さないでくれっす。それに雄っすよ?」
「おぅ、テリトいるかい?」
「一杯やってるところだべ。おまえもどうよ、良い酒買ってきたからよ飲め飲め」
「上機嫌だな・・・高値でセブが売れたか?」
「いや、買い叩かれた・・・まぁ賭けだな。生き残りここに売りに来たら良し、ダメなら諦めるだよ」
「もしかしてトアンジーが売れたのか?ヤバくねぇか?あいつギ・ノーマにも突撃かますセブだろ?」
「調教さしてくれるとよ、おらには送り出すことしかできねぇだよ、ううう」
「顔が笑ってるじゃねぇか・・・」