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そんなものは無いっすよ  作者: G・スー
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信じてくれる友人に感謝するカトー

オーエンまで送ってもらい悠々と街に入る。お貴族様のセブ車を阻む者なし!

予定としては、宿を取る、食糧を買う、宿で休む、次の日に王都に向け旅立つ・・・こんな感じだ。

ここまで来たら流石にマユも諦めるだろう。


オーエンの街を歩く。オーエンは探索者が多い。通り過ぎて行く人々は、武器持ったり鎧のまま歩いてる奴もいる。ここには迷宮があるので、街中でもこんな感じなのだ。ぶっちゃけ上級者向けなので、俺は入らない。道端には旗を掲げて仲間を募集する者までいる。回復魔法持ち募集と書かれた旗を振って必死な姿、回復魔法は人気がないからな・・・後衛で回復、需要はあるが強くならないのが人気がない理由だ。システムを知っているなら避けるが、知らないはずの現地の人たちでさえ中々覚えようとしない。回復魔法はお高く、覚えるのも手間で、優先されるのは攻撃系のモノが多い。ただぶっ放すだけなので、繊細な魔力操作に拘らなくていいのだ。対して回復や強化などは時間が掛かるのである。回復なら傷の程度に合わせて使用しないと、治癒力が活性化しすぎて逆に傷が広がる。逆手にとってそれで敵の傷口を広げる、何てこともやっていたらしいが、魔力を大きく使いすぎる為やれるけどやらない。戦法としてはお蔵入り状態になっている。


結局は敵を倒し終わってから、集中して治療を行うスタンダードな方法が基本だ。つまり敵にとどめを刺せないので、強くなれない傾向にある。死霊系には特効なのだが、そういうのは中級・上級の迷宮にしか出現しない。結果、迷宮に挑むような者にしか需要がないのだ。

俺は習得したいけどな・・・もしもってことがあるしねぇ。


ん?あれ?おかしい・・・何かがおかしい。リンネさんや、ちょっと聞いていいかねぇ・・・。


どしたっすか~って、何で俺文字が読めるようになってんだよ!リンネ最高だ愛してる~って言いたいなら言わせてあげるっすよ?


やっぱりかよ、教えろよそういうの。旗に書いてあるの読めたのに、普通にスルーしそうになったわ。文字が読めるのも必要な力の範疇ってわけか?


そんなところっすねぇ、書くことも楽勝なはずっす。


あああ、長かった文盲時代・・・何か読むもの・・・騎士団長に書いてもらったやつが読めるな。


何々?この者、探索者カトーはハイクリス領騎士団長、ルルド・シンクが身分を保証するものである。この者ガンドを滅した者なれど、性格が歪み捻くれておるので、くれぐれも扱いに注意すること。


・・・・・・あの野郎、余計な事書いてんじゃねぇよ。俺はこんなものを門番に堂々と見せていたのか・・・しかも、ドヤ顔で。

のぉぉぉぉぉぉぉぉ!ちくしょう、領主に騎士団長最悪でしたよとか、チクっておくべきだった。

俺の不利益にならない程度に、奴をへこませてやりたい。力だ!何かないのかリンえも~ん!


そんなものは・・・おっとこのネタは二度目、やめておくっす。文字が読めたのは言葉を話せることのバージョンアップみたいなもんで、最初から可能だったっすよ。今現在使えるのは、限定召喚のみ・・・戦うっすよマスター。存在力をそして魔力を伸ばさないと快適な生活は出来ないっすよ?


さよか・・・努力って嫌いなんだよなぁ。


虚しさを抱えながら宿を探す。そんな時、見知った顔を発見するとダッシュで近づく俺・・・逃がさないわよ!よくも捨ててくれたわね!相手の肩を掴むと振り返らせる。


「何だよ、あれ?カトーじゃねぇか、お前さんも逃げてきたのか」


「逃げてねぇよやり遂げた。お前等の後始末はすっげぇ大変だったぞライオ、速攻で逃げやがって」


「ギリギリまでは残っただろ?最低でもギ・ノーマ三体、下手したらガンドまで出てくる可能性があった村だぞ。守りきれるわけがねぇ。俺が偵察したんだ確かだぜ」


俺は横で吃驚しているライオの妻兼相棒のエスティラにすーっと近づくと、騎士団長からのお墨付きを見せ煽る。


「奥さん、コレ読めます?旦那のライオの奴、信じてくれないんですよ」


「嘘よ、何これ・・・ガンドを滅した者・・・あの開拓村、守りきったの?本当に?本当みたいね・・・偽造は無理だし。あんた!ヤバイから逃げようって言ったのに、依頼達成してるじゃない!」


「エスティラ落ち着け、運が良かっただけだ。それが本物ならガンドも大したことがなかったんだろう」


馬鹿夫婦め、悔しがるがよいわ。


「違約金、二人で800万ドーン・・・こいつの総取り・・・」


奥さん・・・嫌な目で見てくるねぇ、残念だが総取りではないのだよ。


「逃げた奴の違約金なら半分しか貰ってねぇ、残りは村人動かすのに使ったんだわ」


「そうか・・・逃げることも出来ない村人を買収して動かしたのか。なるほどな、無理を通すならそれくらいはやらねぇと駄目か」


「あんた!感心してる場合?」


「どうもこうもあるか、俺たちは逃げた・・・違約金も惜しくはない。仕方ねぇだろ、カトーが乗り切るなんて予想できるか?不可能だ」


「そりゃそうね、なんせガンドだし・・・ごめんなさい」


夫婦喧嘩は結構早く終息した。チッ、殴り合いでも始めたらいいのに・・・相手がガンドというのはかなり大きい。俺でも逃げたくらいなのだから、説得力は増す。


「おい、カトー・・・ガンドはどんな奴だった」


「情報はタダではやれねぇなぁ、10万ドーンで売ってやるよ。倒した方法を付け加えるなら20万ドーンだな」


「ケチケチしないでよ、カトーさん。お昼奢って下さらない?」


妖艶と言っていい色気を振りまくエスティラ。体を密着させてきたので、遠慮なくケツを撫で回す。

人妻っていいよね!ライオは平気な顔、この手のことには慣れている感じである・・・長年、探索者やってたら色々経験もするしな。寝取り感が無くてしらけた・・・腹も減ったし飯に行くか。


「奢りは無しだが飯にするか・・・まぁライオの情報で助かった部分もあるし、色々教えてやんよ」


三人で適当な店に入り、適当に料理を頼む。見栄の為に俺の食事は地味に豪華だ・・・こういうところがとても大切である。


「んで、ガンドはどんなのだったんだよカトー」


「まぁ待て、こういうのは最初から話さないと面白くないだろ」


肉にかぶりつきながら何から話すか考えてみると、アレしかないかなぁと思い浮かんだので話を切り出す。


「残ることに決めて、武器やら罠やら用意して迎え撃つ準備したんだがな。まず最初にノーマ共が100以上攻めてきたわけ」


「初級探索者一人に・・・村人で戦えるのは三十人から四十人くらいか。それならどうにかなるか?」


「あたしら七人いた時も100くらい来たけど、大混戦で苦労したじゃない?やれるのが不思議なのよ」


ノーマ程度なら楽勝だったがな。ノーマ程度なら・・・だけど。


「石槍を何本も作ってな、突くだけだから農奴でもノーマ程度ならヤレる。斧が二本しかないってのが衝撃的だったがな。あと石を飛ばした・・・簡単な投石機で遠距離から数を減らして、それから対応させたわけよ。このノーマ戦だが、俺は指示だけでほとんど戦ってねぇ」


「農奴も結構やるもんだな。ノーマとはいえ、100だろ?被害は?」


「負傷者も無しなんだわ、完勝した」


二人が呆れた目で見てくる。農奴たちは追い込まれやるしかない状況だったのだから、このくらいはするさ。ガキを餌に実戦もさせたしな・・・これは黙っておこう。話を続ける。


「んでもって今度はギ・ノーマの登場ってわけ、結構ヤバかったね。柵も破壊されてな、追い込まれた。だが、何故か二体だけでな・・・俺はライオが何か隠して逃げやがった可能性を考えたってわけよ」


「・・・・・・」


これ、他の探索者にバレたらまずいのよね。偵察の信頼性が下がるし、本人の信用度も下がるし、情報を伏せて逃げ出したのは大きい。違約金背負ったこいつらにはとても痛い・・・でも、俺は優しいのだ。


「なぁライオ、俺のお願いをちょっと聞いてくれたら、このお口が固くなるかもしれねぇ。どうよ?」


呆れた目が、何時の間にか恨むような眼差しに変わる。徐々に変化し、諦めの表情へと・・・良い子だ。


「聞いてやる。内容によっちゃやらねぇからな・・・」


「なーに、簡単なお願いだ・・・それどころかおまえら背負ってる違約金の借金あるんだろ?これを消し去って、さらにそこから儲けにまで変えちまう機会をやるよ」


ニマニマと笑顔を忘れない俺を、何言ってんだこいつって目で観察してくる馬鹿夫婦。マジでお得な情報をこいつらに伝えようと思っている。ライオは偵察に弓・短剣と、慎重で経験豊富な探索者。エスティラは剣に特化した探索者で、近接戦闘から強化魔法で武器の切れ味を上げる攻撃を使うテクニシャン。あいつの案内人に相応しい。


「とある探索者のお守りを頼みたい。お守りといっても日常生活や常識、暗黙のルールとか細かい世話を焼くだけでいい。依頼に連れ回すことも、本人の同意があれば可能だ。戦闘力は化け物、騎士団一万人で突っ込んでも、平気で皆殺しにできるだけの力を持ってる。扱いには注意が必要かもな・・・歳は十七、十八くらいの茶髪、おっぱいはエスティラより大きい、背はエスティラより小さいかな。名前はマユって言う女だ。見つけたら勧誘しろ!俺の名前を出せば、それなりには信用するだろう」


ライオはポカンとした顔で聞いてくる。


「その娘を世話して俺たちに得があんのか?」


「あるさ、ガンドを倒せるだけの力がある小娘・・・役に立つぞ。多分、強力な魔法が使えるし、守る必要が無い反則級の防御持ち、回復魔法も使えるから迷宮に誘うのもいいかもな。迷宮で値が張る物を確保できりゃ儲けまくりだぜ?マユに戦闘を任せて、マユを先頭に進むだけの簡単なお仕事。どうよ?」


「納得いかねぇなぁ、まずそんな美味しい相手をおまえが放置する理由がない。カトーが世話してやりゃさらに稼げるじゃねぇか。ヤバイ小娘なんだろどうせ」


「俺にとって因縁がある奴なんだわ。だからあいつの世話はしないわけよ・・・出来ないと言った方が正確かな。もうここの領主には話を通しててな。マユを見つけたらノーマ狩りさせるなり、娘の治療をさせるなりするはずだ。結果を領主が知ったら確実に囲い込む、断言してもいい。だから、早い者勝ちだ」


マユ争奪戦、力ある者は求められるが世の常よ。そんな俺をエスティラがジト目で睨む。


「カトーが若い女から逃げるって・・・ヤリ逃げでもしたの?」


「まずヤレないわ・・・瞬殺されちまう。仮に手を出せても、その後は縛られてしまいそうだ」


何故かうんうんと同意するように頭を上下させるライオ。おまえさん、縛られてるのん?

同意を示す旦那の頭を張り倒すと奥さんがこちらを睨む。


「縛られるのが嫌だから逃げてるんじゃないだろうね?」


俺はそんなことはないと首を振ると、続けてぶっちゃけた。


「ガンド倒してカカロの街に行ったら遭遇してな。マユと話して理不尽を感じて、俺がどうしたと思う?気がついたら殴りかかってた。マユの防御魔法で傷一つ与えられず防がれたあげくに、殴ったから拳がボロボロの傷だらけよ。そんな俺の拳もマユの奴は一瞬で治しちまって、絶望したぜ・・・俺とマユの間には色々あるが、それは色恋じゃねぇんだよ」


ライオもエスティラも沈黙する。このタイミングだな・・・。


「さて、もう二つお前等には美味しい条件を出そうじゃないか。マユと接触して世話すると魔法契約に誓ってくれるなら、これからガンドの情報を話そうじゃないか。ライオが流さなかった情報の話は、黙っておいてやる。信用させる為に俺も魔法契約で誓おう。お前等には得しかないこの条件、飲めないなら俺は速攻でこの街から去る。マユと顔を合わせ辛くてな・・・分かるだろ?」


「マユって娘が領主に囲われてたらどうする?」


ライオの質問は尤もだ。俺が派遣した奴らだと証明するものが必要だな・・・。


「その場合はカトーに頼まれたと告げて、これをマユに見せればいい」


A4用紙、ボールペン、加藤判子セットを召喚すると、こいつらが俺が派遣したこの地域の案内人だと、簡潔に書き込む。最後に加藤の判子を押す・・・これを見たら馬鹿でも分かる。


「マユはまだカカロにいるかもしれないが、もしかしたらネスカまで来てるかもな」


夫婦と魔法契約をする。


・マユが嫌がらない限り、一般常識から探索者の心得まで教え導く

・領主の願いを優先する

・期間は半年

・マユとの合意があれば、案内人をやめることも可能

・カトーは報酬としてガンドの情報を話し、ライオの失態を誰にも話さないと誓う

・誓いを破れば破ったものが違約金500万ドーン払う


「こんなところかな・・・んじゃお二人さん、聞き漏らさず聞いてくれ」


白のガンド発見から接触、そいつの性質に知識を有している事実、どのように騙しどのように倒したかを詳細に語って聞かせた。二人の俺を見る目が死んでいる。


「俺はよぉ・・・こいつと契約したことが間違いだったんじゃねぇかと今更に思うんだが、どうよ?」


「諦めるしかないわよ。ガンドでさえ口車に乗せられたのよ?私たちがどうこうできる相手じゃないわ」


お二人さんからの信頼にの厚さに涙が出そうになる。


「今回は騙し無しだ。命の危険もないから、お前等騙しても俺の得にならんし・・・ライオを潰したいなら、探索者連盟支部の前でこんなことがあったんです~って拡散してるわい」


「それもそう・・・いや、その方がマシだったってなるんだろ?」


「あんた冴えてるわね。ありえるわよそれ・・・」


こいつら・・・折角チート持ちのケツに張り付いて、楽勝で稼げる環境に派遣してやるのに、この信頼度の低さよ。


「ごちゃごちゃと・・・後から俺に感謝することになっても知らねぇぞ」


二人と飯屋を出ると俺は宿屋に向い歩き、探索者夫婦はネスカ方面へ歩き出す。

足枷追加、これでマユもお勤めを頑張れるってもんだ。


ツェルギもアホだよな、あいつらみたいなのにお願いしてたら、何の疑問もなく勝手に動いてくれるのに。

同郷何てのは、この世界じゃ些末な問題だ。言葉が理解できる外国みたいなもんなんだから、単独で馴染むか、現地の人間とつるむ方が良いのだ。同郷で固まっていたら外国人からは良い顔をされないのは、こっちもあっちも変わりゃしねぇ。


帰れないのだから、ここを居場所にするしかない。

そんなことを考えながら色々店を物色し、宿へ向かう。


ここに居場所を作れるのだろうか・・・。

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