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そんなものは無いっすよ  作者: G・スー
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暖かい存在とカトー

「使命を果たす、それはマユが了承した契約だ。おまえが止めることは不可能だ」


ツェルギは宣う。御尤もな御言葉ですなぁ、俺には止められない・・・正しいねぇ事実だね。


「知ってるよ、俺もそうだと思う。契約は契約した者以外にどうにか出来るわけじゃないしな。契約した本人か、契約を無効にできる力のあるもの以外には無効にできないよね?それじゃ本人がその契約に従わなかったら・・・マユを処分でもしますかツェルギ君、どうなの?」


マユはぬぼーっと亡霊のような姿になって立ち上がると、備え付けの風呂場にフラフラと入っていく。

少しすれば立ち直り、契約を果たすかもしれないな。ツェルギ曰く、契約を果たすことはノーマの被害者を無くすことに繋がるそうだから、清い清いマユは犠牲者が増えることを嫌い、動くかもしれない。

俺という枷が存在しなければの話だがな。


「世界を捨ててまでここに来た彼女が、使命を拒絶すると?ありえんな」


そっすね。俺、彼女なら立ち直るって信じてる!な~んてな。自分が彼女のように清く正しくイケメンでツェルギに選ばれし勇者だったとして、自分が異世界に行く前に、ちょっと性格が捻くれてるけど憎めないおバカな女が、何の説明もサポートも資金も異世界行きを拒絶する自由も無しに強制的に異世界に放り出され、生きるために現地の不幸な人の命を断ち開放するお仕事を金のためにしてましたと知ってしまったら・・・さぁ、俺ならどうする?分らんなぁ、清く正しくないから想像できませんわ。


「想像してみたけど、どうなるかは分らんよ。ツェルギ君、心配なら本人に聞いてみたら?」


「この程度で揺れることはないと我は信じている」


「そっすね、この世界の現実を知ったくらいなら揺れないと思いますよ。それだけならね・・・」


まだ気が付かないのか・・・ガチで神なんかではないな。別の何かだねこいつ・・・世界のために使命を云々、不完全な神?いや、世界の管理者みたいなもんと考えた方が正しいような気がするわ。

俺の思いも読めないし、彼女の気持ちも正確には理解していない。本物なら俺を放置なんか最初からしないか・・・邪神かとも思ったが、こいつには邪でも神は勿体ない。勘違いした管理者と断定する。


人は体験しないと本当の意味で苦しみを理解できない。仮に俺が言葉だけで理不尽を伝えたとして、マユが使命を果たさなくなる可能性は二割在れば良いくらいか?

ゲロ吐くほどの追体験をして、事情を詳しく・・・というか始まりから終わりまで理解している場合はどうでござんしょ?俺も自信があるのですよ・・・マユが動きたくても動かなくなる自信がね。

根拠は俺の実体験・・・ってのが、悲しいところよね。


顔を洗いサッパリした顔で風呂場から出てくると、自分の吐き出したゲロの処理を魔法で行うマユ。

敷物が綺麗に!水なのか風なのか・・・高度すぎて分からん魔法で驚きの洗浄力!

処理が終わるとこちらに顔を向けることなく、ルマルマ(ベッド)に力無く腰掛け呟く。


「神様だと思ってた、神様が私を助けてくれたと・・・この世界の人たちを救うのは賛成かな。酷い状態だし、救いたいと思うけど・・・カトーを無視してそれをする事が出来ない」


「ありがとよ」


流石っすよ、ビッチ臭いとか考えちゃってすんませんしたー。マユたんは裏表の無い優しい人です。


「マユ、救いたいなら救えばいい。カトーなんぞどうでもよいではないか!」


お?焦り始めましたね。どうでもよいかぁ・・・俺程度の性格の人間は、この世界にだって腐るほど存在するでしょうに。それを切って捨てるって=使命はどうでもいいってことになるのですが。


「この人の記憶を覗いたから・・・碌な人間じゃないって知ってるけど、私と同じ世界の同じ国から、ツェルギが同意も無しに連れてきたわけでしょ?やってることはノーマって魔物と変わらないじゃない!」


ええぞ、もっと言ってやってくれやマユの姉御ぉ、年下だけどな・・・若いのにしっかりしてんなぁ。


「我がカトーをこの世界に送り込んだのではないのだぞ?あちらを管理する者が必要ない者として、切り捨てただけなのだ。我が選びこの世界に招いた訳ではない。カトーがこの世界で辛い目に合っていたとしても、我の責任にあらず」


他人のせい入りましたー。管理ねぇ・・・推測は結構当たってるようだな。あっちでもこっちでも適当に扱われたから、あんな苦労をさせられたのね。しかし、おかしい・・・あっちの世界から俺が投棄されたとして、こっちの許可を取らないはずがないと思うのよ。管理してる場所にゴミを勝手に捨てたら不法投棄だし、そもそもマユをこの世界にってのも無許可ではないはず。つっこみますかねぇこれは・・・。


「なぁツェルギ、おまえが頼んだわけじゃないのか?同じ国出身で、消えてもどうでもいい人間をこの世界に送ってくれと・・・これなら選ばなくても招かなくても、あちらの管理をしてる奴が勝手に送り込んでくれるだろうよクズならな。さらに言うなら頼んだくせに頼んだものが送られてきても、なーんもしなかったんじゃねぇか、お前?」


俺は畳み掛ける。


「あちらの管理してる奴も俺からの了解を取らずに勝手したクズだが、頼んでおいて何もしなかったお前もどうなんだ?俺には同じゴミにしか見えないがね」


「捨てられた者に何かしてやる必要があるか?」


「捨てられ、放置してきた奴を都合良く案内人として彼女に吹き込んだのはどこのどいつだ?教えてくれよツェルギ。マユ、おまえはどう思う?そんな奴のために動きたいか?マユは俺の記憶を見た、見たからには俺の汚い部分も駄目な部分も知ったはずだ。知った上で聞きたい・・・ツェルギは俺以下の存在にしか思えない。マユは同意してくれるか?」


「するわ・・・カトーはノーマの被害者の命を奪う前に必ず実行していいか確認していたし、開拓村の村人にどうしたいか選ばせていたからね」


「・・・・・・」


決定的なのいっとくか・・・情報次第だけど、ここを攻めておかないとまだ揺れるかもしれない。


「マユ、肝心なことを聞いてなかった。おまえ、なんでここに来た?元の世界じゃ生きられないくらいヤバイことやって逃げてきたのか?」


「あんたねぇ・・・何もしてないし。元の世界にいたら死ぬのが決まってたの、こっちに来るしかないでしょ?」


ほほぅ、決まってますかそうですか。


「このままではおまえは死ぬ。だが、我なら助けてやれる。今の世界では生きられないだろうが、別の世界なら生きていけるだろう・・・とかなんとか、誰かさんに唆されて来ちゃったの?」


マユが驚く。デジャヴでも感じたのか?


「でも、ツェルギに教えてもらった事故が本当に起こって・・・」


予知的な力か・・・そんなもんがあるはずなのに今の状況、使命を果たす者には拒絶されて、どうでもいいと認識していた俺には言われたい放題、何かおかしくねぇか?

ツェルギは万能じゃないはず、これはあれかねぇ・・・まず使命を果たせそうな相手を選ぶ、選んだ相手の未来を予知、視ようと思っている相手の未来なら視える。んで、事故に遭いそうなのでそれを理由にして異世界へ。これなら「俺に邪魔される」という未来を、意識して視なかったツェルギ君がやらかすのも仕方ない、となると・・・。


「なるほど、ツェルギ君はマユの命の恩人なわけだ」


「そうなるな、助けたのは事実だ。代償に使命を果たしてもらわないと困るが・・・」


流れが有利になってきたと勘違いしたツェルギ君、また出張ってきた。そんじゃ、活躍してもらおう。


「何となくだけど想像できるぜ、事故りそうなマユを予知して、助けてあげたわけだな。ツェルギ君やるじゃん、凄いよ!参考までに聞きたいのだが、その事故回避から先の未来は予知してあげたの?」


「・・・・・・」


何故答えない?おいおいおい、もしかしてマユはここに来る必要が無かったのではないか?

一度事故を回避した後、お礼でも言ってツェルギを放置可能だったのでは・・・助けたのは事実らしいが、答えないってことは元の世界では生きられなかったわけじゃねぇって話になる。

俺は選択を提示もされることなくここに放り込まれたが、マユは選択した様に見えて騙されてここに来たのか?


「ツェルギ、おまえ一体何なんだよ。俺は放置するわ、マユを騙して連れて来るわ・・・何様のつもりだよ。あちらを管理する者とお話できる立場ってことは、こちらを管理する者か?だとしても、何でこんなことまでする必要がある?この世界で生きてる奴にチートでも何でもバラ撒いて、使命でも何でもやらせりゃいいじゃねぇか。無駄に被害拡大させてんじゃねぇよ、糞っ垂れ」


「お察しの通り、この世界の管理をしているものだ。カトー、おまえが言う予知を我は行い・・・この世界の者に力を与えたこともある。だが、視えた結末にならぬ・・・何度実行しても、ある程度まではノーマ共を削れるだけで、根絶することが出来ない。ならばと考えて出た答えが、マユなのだよ」


自分とこじゃ駄目みたいだから他から調達ってか・・・。

俺の扱いは糞すぎるが、マユに対しては一応は一度命を救った実績がある。

だからってこのまま使命を果たさせるかって考えると・・・どうなんだ?俺はマユを止めるぞ何を犠牲にしても。しかし、このままだと埒が明かない。ツェルギには何もかも戻してもらい、仕切り直しさせたほうがいい。


「はぁ・・・ツェルギ、俺たちを元の世界に戻せ。そんでもって、他の奴を誘えよ・・・日本人がオススメだ、チョロいぞ?凄い力、チートを与えると正直に勧誘すれば、楽勝で来てくれるさ。流行ってんだよ異世界」


身も蓋もないが・・・事実だ。虐められてる奴とか、受験に失敗した奴とか、異性に振られた奴とか、借金で首が回らない奴とか・・・腐るほどいるだろ。死にたいと思ってる馬鹿の逃げ場にもなる。

望んで来た者がこんなはずじゃなかった!って言うなら、選んだのはおまえだ!の一言で封殺できるじゃねぇか。いきなり飛ばして放置するとか、そこにいたら死ぬとか言って唆して連れて来なくてもどうにでもなるだろ。


「お前もマユもこちらに来るにあたって、あちらでの存在を消しているのだ。もうお前たちの世界では、おまえたちは生まれてこなかったということになっている。申し訳ないがもう戻せない・・・在ったものを無かったことには出来る。消すだけだからな・・・しかし、逆は不可能だ」


ツェルギは無慈悲に続ける。


「おまえたちの世界にはパズルというものがあるだろう?それを世界と考えてみろ。おまえたちというピースは消去され、別のパズルに嵌め込まれている。元に戻そうにも、元のパズル・・・世界にはもう隙間が無いのだよ。もう嵌め込む場所は無い。消去された時点で調整された新しいパズルのピースが嵌り、世界になっているわけだからな。新しくパズルに組み込む・・・転生という方法もあるらしいが、我にもあちらの管理者にも、そのような力は無い。」


理不尽な力で椅子取りゲームを強制され弾き出されたってわけか・・・座れたのは別の部屋の椅子。

あー、やる気にならねぇ。俺を送り込んだ奴の目的だけは邪魔したが、人の力で出来るのはこの程度。


管理者という危険な存在はこのまま放置か?普通こんな奴に任せない、それじゃ首にしようか。

誰だ?俺の中から別の何かが?どうも、管理者に力を与えて放置した者だよ、よろしく。

糞面倒臭い・・・何も考えないでやるからキリキリ伝えろ。ありがと、手短にいくね。

簡単に何もかも作った存在かな?多分。自由に作り、自由に放置、気が向けばたまに見るし、関わる。

なるほど、続けろ。上からだね、君。もう何もかもどうでもいいからな・・・面白いよそういうの。

面白いと思うならお前の力で何とかしてくれ。無理じゃないけど面倒だからやらない。

んだよそれ・・・責任取れよ。どうでもいいって考えてたくせに、責任を取るか取らないかは自由だろ?そういう存在なのだから。そっすか、何もしないなら何故接触してきたのですかねぇ?気が向いたから二つの世界の二人から管理者としての力は取り上げるよ、良かったね。良くねぇよ俺を元の世界に戻せ!それは面倒だからこの世界で生きてよ。その後なら自動的に記憶持ち越して勝手に帰るようにしといたから・・・そんな感じでよろしく。は?ここで生きて死んだら転生して記憶持ち越して元の世界ってか?そういうことになるかな、二度人生歩んでよ。戻すのは面倒だし、こっちで君が暴れるのを見る方が面白そうだからね。軽い・・・めちゃ軽い理由だな。存在がそういう風に出来ているというか、君の頭借りて意思を伝えてるから、元々が軽いのかも。失礼な、俺は軽くねぇ・・・多分。とりあえず、元の世界とこの世界の管理者をどうするか・・・君に決めさせてあげる。俺にか?ん~、何もかもを奪って能力はこの世界に来る前の俺以下にして、ここじゃない別の世界に放置で・・・んで、俺より長く生きられなきゃ、あんたが考える一番きつい境遇に落としてやってくれ。チャンスを与えるの?そうだ、その方が俺も生きようと頑張れるからな、奴らが苦しむためなら長生きしてやるよ。採用する・・・それと力は要るかい?お前が必要だと思う力をくれ、欲張ると嫌な予感がするからな。慎重だね君、多くを望むと思ってたよ。こんな接触できる奴にか?それもそうだね・・・君なら慎重にもなるか。ところで、お前は何なんだ?俺たちを見守ってる存在か?いやいや、そうでもないよ・・・たまに観察して、たまに関わるだけの大したことがない存在だよ。そうか。それじゃ、頑張ってね・・・ああ、自称じゃない存在、ありがとよ・・・。



「ちょっと・・・カトー・・・聞こえてる?」


夢・・・じゃないとは思いたい。戻れないなら夢の方がいいのか?まぁ夢じゃないと仮定して立ち回るか・・・あれが夢ならお笑いだがそうだったとしても、もうどうでもいいのだから。


「何かが接触してきて俺の頭で直接会話しちまったよ」


「何言ってるの?大丈夫なの?」


ドン引きで心配される・・・しかし、あいつやれるくせに、戻す気はないようで悲しい・・・そこはまぁ大丈夫ではないが、頭はスッキリしている。そういう意味では大丈夫。


「問題ない。ツェルギ、おまえの処遇が決まったぞ。俺以下の存在になって、こことは別の世界で何の助けも無く、何もない状態で生きることになったらしい。んで、俺より先に死んだら罰ゲームだとさ」


「不遇な境遇と帰れない事実で、壊れたか?カトー」


「否定はできねぇなぁ、何か知らんが声が聞こえたというか感じたというか・・・意思が伝わってきた・・・混ざり合った?かな。お前も多分感じたことがあるだろ?管理者にされた時とか、ソレだよ」


ツェルギの姿が俺には何故か見えている、見え始めた。何で見える?与えられた力の効果なのか?まぁなんでもいいか・・・今迄声だけだったし、30代くらいの筋骨隆々の男が、褌のようで褌じゃない下着?一丁で腕を組んでこちらを見ている。俺は今迄こんなのと会話していたのか・・・。


マユにも見えているようで「誰?ツェルギ?何で?Tバック?」と、小声で言うのが聞こえた。


ありえない・・・あるはずがない、そんな表情のフンドシ野郎が地味に震えている。身に覚えがあったのかな?接触するはずの無い存在と俺が接触した可能性を感じているのか?それとも自分の処遇に恐怖したのか判断がつかない。


まぁどうだっていい。これから俺はこの腐った世界でなるべく安全に楽しく生きる方法を確立せねばならんのだ。ツェルギの姿が見える=マジもんですた・・・そんな感じなのだから、もうツェルギを責めることもない。罰は下されることが確定している・・・もしかして、姿が見えるのはアレか?処刑される罪人を晒しているつもりなのか?だとしたら、こんなに素晴らしいプレゼントはない。


「カトー、戯言で我を惑わせても意味は無いぞ」


「そっすね」


俺が答えたのを合図にでもしたのか、ツェルギが足から消えていく・・・めっちゃジワジワとやり方がえぐい。カーッ、良い眺めだ・・・胸がスーッとしやがる。


「ちょ・・・カトー、あれ、ツェルギだよね?ツェルギが消えていってない?てか何でツェルギが見えるの?何で!」


「暖かい誰かさんからの贈り物じゃね?」


マユに教えてあげると・・・あ、膝まで消えた。


「・・・・・・我は間違えたのか?・・・・・・」


今更何か反省し始めた?あえて黙って見ていよう。こういう手合いは、構ってほしくて言ってるのだろうと推測する。じーっとニヤニヤ眺める・・・ああ、戻れないのはキツいがこれは良い、実に良い。


ツェルギ君はこれから別の世界で、俺以下の存在となって生きるのだ。努力すれば俺よりも長く生きられるかもしれないし、もしかしたら幸せになれるかも・・・そう考えると心が痛い。


俺以下の存在・・・虫にでもされて、踏まれて即死してくれねぇかなぁ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] カトーにすごく共感出来る。 無双じゃ無い。 [一言] 今回も面白い。
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