開拓村を救うため立ち上がる探索者カトー
開拓村、国の方針で無理に作らされたそれは酷く簡素なものである。
懐の寂しい者は借金を返せない。返せなければ農奴にさせられて、こんなところを押し付けられる。
それは罰であり這い上がる機会でもあるので、家族を引き連れここに定住する。
這い上がるためにはこの村を維持し、税を安定して納める必要があるのだが…開拓村という所は安全などとは言えない。
だからいくつもの村が崩壊するわけである。
崩壊の原因、戦争?あるにはあるがそうそう勃発するものではないそうだ。
盗賊?これも開拓村崩壊の原因の一つだが、その対処は国で行う場合もあるから、簡単には盗賊にまで身を落とす者もいない。
国にとって威信を示す良い機会、むしろ盗賊被害は歓迎されるそうである。
税を徴収する側は仕事してますというアピールになるわけで、盗賊は狩られる獲物である。
崩壊の原因、それはここが俺が知っているものとは違う異なる世界だから…未知の生物が存在するからである。
RPGなんぞではお約束だよな、魔物怪物モンスター。
そんなのがガチで溢れているのがこの世界であって、それが特に多いのがこの辺境。
でもって、ここは辺境の最先端である開拓村というわけだ。
魔物なんて存在しない方がこの世界にとっては良かったのかもしれない。
いや、世界というのはおかしいな…人にとってと言うべきか。世界にとっては魔物を生み出す明確な理由ってやつがあるのかもしれない。
そして世界と同意見なのが俺である。紛れ込んだ異世界人が生き残るために手っ取り早く金を手にするのに魔物を狩ったり、それ系統の依頼をこなしたりするのはテンプレでよくあること。
あるのだが…シビアすぎる。
こんな世界への転移後、現地の人との会話は可能だったので、これはもしや俺って何かしらの超絶チートでもあるのかな?とか思うわけよ。
しかし、それを知ろうとする段階で躓いた。自分の能力を閲覧する方法が無いのである…定番のステータス閲覧は無い、無いのである。
色々試したし自分では出来なくとも他の人が知っているのではないか?と調べてみたわけだが、サッパリ無いのである。
その間、一年くらい。正確に元の世界と同じか確認しようが無いのでくらいとしているが…。
まぁ一年、色々とやった、戦いの中で力が!とか考えて、ヤバイ敵に向かっていって死ぬ寸前まで追い込まれたこともあった。
火傷も手足欠損も魔法様があるおかげですんなりと治ったが、高い高い治療費を取られてしまい、無茶するのはもうごめんだと学んだなぁ。
発見したことは、ちゃんと戦うと身体能力や魔力が上がった気がするということくらいである。
魔力、それに望みを賭けたこともあった。
結果、魔力を調べる方法があったので試したが普通であるそうだ…普通だよ普通。
無限の魔力がスゲーとかいうパターンも無かったわけですよ。
何も無いのだ…何も…出来ることは肉体労働の道だけだったわけよ。
普通である魔力も魔法を覚えるのに金が必要であるため断念。かなり高額であることを知って浮かれた自分が恥ずかしくなったり。
知識チートも無駄だった。元の世界の化学技術等、広めたらと考えたこともあるが、そもそも異なる世界な訳で金属の種類さえ違う。しかも、大体が魔法で何とかしてしまい出番が無い。料理もそもそも材料が違うしな。
色々やろうと思えば思うほど手詰まりになり、結局は肉体労働というわけである。
現地の人は馬鹿ではない。魔法と生活がちゃんと交わった工夫された世界なのだ。
そして二年、現在は立派な?探索者として開拓村にいるわけで…。
冒険者じゃねぇーのかよとも思ったが、それは別に存在するのよね。
海があり、船もある。新たな大地を求め旅立つ奴らが冒険者、せこせこと近場の魔物を狩ったり、色々な依頼をこなすのが探索者稼業なわけだ。
一番の理由は、迷宮と呼ばれるダンジョン的なものからお宝を頂戴している職業だからそう呼ばれる。探索する奴ら、それ以外もしますよってなもんだ。
冒険者はめちゃくちゃ金がある。魔法の才能のある奴を雇い、砲台代わりにして船に乗り、海の魔物を蹴散らし進む。
才能のある奴らってのは探索者の上級者ってわけで、冒険者様に雇われるのは名誉なことだそうだ。
ぶっちゃけ貴族の次男とかそのへんが冒険するわけなのよ。
何も知らない俺が「冒険者になりたい」とか言って酒場の探索者たちに笑われ、恥をかいたのも仕方ないことだよね。
黒歴史を思い出しながら巡回作業、見つけたノーマを石槍で突く。
ノーマ、小さい魔物、ゴブリンっぽいなにか。
呼び方が違うから最初は混乱したものだ。
オークは存在しない、豚亜人はいなかった。その代わりに四足歩行の猪っぽい魔物はいる。
ピドとか呼ばれてたな、成長した奴はでかくてヤバイ。
害になる魔物は基本、ノーマ。こいつが成長するとギ・ノーマになるそうな。
ぶっちゃけオーガやんけと…初めて御対面した時は思ったものだ。
ノーマはノーマだけで繁殖するが、人間の腹も代用することがあるそうで厄介だ。
一種の寄生、男女の区別無く腹を借りて産ませる。知ったときは震えたもんだぜ。
人から生まれたノーマは魔法を本能的に使うこともあるそうで、そいつらが成長してしまうと呼び方が変わる。
ガンドと忌み嫌われる最悪の魔物になるそうで、優先排除対象がこれにあたる。
俺が立ち向かってやられた相手がコレである。
そんなこんなでノーマその他魔物の溢れる辺境で村を作るってのは、罰ゲームだよねってのは御理解いただけると思うのだが、そんな危ないとこに何故?と考えるよね。
ここら一帯で開拓村作りをさせること四回、すべて失敗したので御領主様も考えた。
金だ、金を増やしてやるから誰か警護しろやと。
細々と生活したら二、三年は何もしなくても暮らせる金額をポンと出しやがった。
前金で200万ドーン、成功報酬800万ドーン。
まぁ日本円と同じような感覚で考えてもらって構わない。上手くいけば一千万貰えますって話である。
ただし、参加人数で割られるけどな…半年間何とか守りきれという依頼である。
ところがだ・・・蓋を開けたら参加人数が七名しかいなくて二ヶ月で二人、三人と逃げ出しやがった。
ノーマが100体以上で攻め込んできたのだから、そりゃ逃げたくもなるわな。何とか撃退できたが次があればヤバイ。
俺も逃げたいが違約金は前金の二倍、400万ドーンなので厳しい。貯金は300万ドーンあるから借金すれば俺も逃げられるのだがねぇ。
結局は四人逃げ出し、三人になった時に四人分の違約金1600万ドーンは俺たちが貰ったとか浮かれていた。
違約金も依頼達成者で山分けできるのである。逃げた奴らは前金の返還&違約金を払わなくてはいけない。そんなこんなで達成報酬と足せば一人頭1000万ドーン近く貰えるのだ。このまま何も起こらず平和なまま期限まで過ぎればしめたものだ。
ところがギ・ノーマがどう考えても三体はいるのでは?と判明してから状況が変わった。
偵察し足跡を見つけた一人は真っ青になり、報告を聞いた二人も驚愕した。これはまずい…と。
俺以外の二人は探索者を生業にしている夫婦という事実、そこから導き出される答えを俺は知っていた。
夜中に二人は逃げ出したと偶々その姿を見た村人が泣きながら告げる。
俺たちは終わりだと。
残り一ヶ月、国が動いて騎士団が魔物狩りしてくれるまで俺一人で守れるのか?まぁ無理だ。
村人も逃げられない、こいつらは集められた農奴で奴隷に等しい。奴隷の逃亡=死罪なのでどうにもならない。逃げれば人に狩られるし、留まればギ・ノーマの餌食。
俺は井戸の前に村人を集める。村人の男だけ四十名ほど…10歳以上の子供も含めてだ。皆、無言である。こんな状況では仕方ない。
「聞いてくれ、俺は探索者のカトーという。探索者は俺一人だけになった。他の奴らは逃げ出し、俺まで逃げ出したらこの村は終わるかもしれない。正直、俺も逃げたいが今俺の依頼達成報酬は逃げた六人の違約金を足して3400万ドーン、めちゃくちゃな金額だろ?」
村長は口元を歪ませながら聞いてきた。
「おぬし何が言いたい…金のために最後まで頑張ってくれるのか?」
俺は笑う、こんな状況は笑うしかないのだから笑いながら言葉を吐き出した。
「俺だけが頑張っても無理だな、犠牲覚悟でおまえたちの協力が必要だ」
犠牲、その言葉に一瞬沈黙するも自分たちが逃げられない立場であると思い返したのか、重苦しい空気が漂う。こいつらは逃げられない逃げられないのだからやるしかない。
「なるべく危なくないようにするさそれでも絶対は無いからな、そのあたりは覚悟してもらう」
俺は何でもないかのように告げる。死刑宣告に等しいが、誰かが死んで混乱すれば勝率が下がる。
勝率が下がればもっと死ぬ、死に過ぎたら俺の成功報酬から引かれる可能性もあるのだから。
「まず斧だ、開拓には必須だろ。何本ある?」
「二本だ」
村長の答えに愕然とした。この村は100人程度の村だ。
それでも開拓を主目的にしているはず、少なすぎじゃね?石槍でも作らせるか。
ノーマには石槍で十分であるが、ギ・ノーマとなると貫けるか微妙なところだ。厚い皮と筋肉が邪魔をするかもしれない。理想は刺せて抜くことが容易い武器であるが、贅沢は言えない。
あとはやる気を上げるくらいか、やりたくないが背に腹は代えられない。
何とか少しでも生き残る可能性を上げたいので、俺は村人たちに向かって叫ぶ。
「なぁおまえら、武器も無いわ人もいないわ絶望的だろ?そんな状態で奇跡的に村を守れても、おまえらが手にするのは少しの土地と農奴から平民への昇格だけだろ、違うか?」
「違わねぇよその通りだ。ここで奴らにどうにかされるくらいなら、盗賊になった方がマシじゃねぇか」
俺の問いかけにまだ若い十代半ばの少年が吐き捨てる。
盗賊になるリスクを理解していても、現状よりそちらの方が良いと考えるのはあながち間違いでもない。
上手くやれば生き残れるし、略奪すれば女も抱ける可能性すらある。勿論、騎士団に殲滅させられるのは確定しているようなものだが、生きられる時は少しだけ延びる。
そして最大のメリットは、ノーマに犯され寄生体に体を蝕まれることなく、人の手により死ねるということだ。
村が崩壊した時にノーマ共に殺されるならまだ救いはあるが、捕獲されればその先は地獄だ。
男は寄生体を埋め込まれたなら、寄生体に体の内部から食い破られて死ぬ。
この場合、寄生体も無事に成長できる可能性は低い。女の場合は悲惨だ、死ぬこともできない。本能なのか生命の神秘なのか、女の胎内でまるで人の赤子と同じように産み出される。見た目は普通のノーマのガキらしいが、成長するとギ・ノーマかもしくはガンドに変貌するそうだ。そんなこんなで俺は少年の言葉を肯定する。
「盗賊になる方がマシってのは同意するぜ、だから俺から提案だ。村の防衛に活躍した奴に金をやろう!」
ヒソヒソと小声で相談する者、本当かよと疑う者、金より命だと達観する者、そして目がギラついている一部の野望を持つ者。色々いますね、人間って面白いよね。
「いいか、活躍を評価するのは俺じゃねぇ。村長にやらせるから安心だろ?成功報酬の合計は1200万ドーン、活躍したものにそこから村長が分配する。俺が逃げた探索者の違約金の半分を村長にくれてやり、村長がおまえらを観察して分配を決める。おまえらにも俺と同じ立場になってもらうってことよ」
俺はニヤつきながら都合の良いことだけ教えてやる。生き残れたとしても開拓村は貧乏なのは間違いないし、苦労が想像できる。どうせ死ぬかもしれないのだから俺とは条件が違うこいつらにとってはこの話は美味しいはず、こいつらは生き残ってもここでやっていかなくちゃいけない奴らなのだから。
戦い、ヤバくなったら俺は逃げる。何とかなるようなら残りの成功報酬800万+違約金合計の半分1200万を貰えるわけだ。計2000万ドーン、ワンチャンあるならやり遂げる。
ダメ押しが必要だな…俺は村人に視線を飛ばしながら宣言する。
「俺と村長で魔法契約を行う。俺が依頼を達成して成功報酬と逃げた奴の違約金を手に入れたなら、村長に逃げた奴らの違約金の半分を村防衛協力金として支払う」
魔法による契約は過酷である。村長なら使えるようにされているはず、でないと揉め事の解決は出来ない。
集団をまとめるのに必要不可欠なのが魔法契約。破れば指定した罰を強制的に受けるので、対立を鎮める効果は絶大だ。使用方法によっては命さえ奪うので、慎重に行わなくてはならない。
「手に入れたのなら、か…領主様が失敗続きで金を惜しむとの判断かの?」
流石は村長、気が付くのね。
まぁ気がつくよな、如何に領主であろうとここまで大金だと考えも変わる可能性がある。何度も失敗してるしな。
一応は魔法契約で縛られているが、穴が無いわけじゃない。たとえば払いたくないから俺を殺すとかな。
そうすれば報酬は払わずに違約金徴収して大金がまとめて手に入り、開拓村も確保して税まで徴収できる。
四度の失敗の穴埋めをしようとするのは自然なことだ。村人相手には少々金を流して機嫌でも取れば文句は言わないだろう。
「俺が領主なら奇跡が起きて村が無事なら俺を殺すぜ」
「ほほほ、わしが領主でもそうするわ」
俺も村長も互いに笑顔、目は笑ってませんがね。村人の立場も俺の立場もそうは変わらないということである。
一応逃げ道はある。戦う前にとんずらかます、もしくは戦いながら不利ならとんずらかます…つまりは早々に逃げた探索者たちが一番賢いってことだ。
一人の強欲な愚か者と逃げられない者たちの防衛戦の始まりだ。