僕達には8%の可能性がある!って格好いいセリフじゃね?
今回、ちょっとシリアスめ。ギャグは少ないです(いつもギャグっぽくないですが)
「赤い炎だから……あれ、何だっけ?」
「リチウム」
「あぁ、そうそう」
「原田君、ナトリウムって黄色だよね」
「うんうん、萩本、進歩してるな」
進歩するゆりかと対称的に、全く進歩しない僕。化学は難しいから、まず暗記分野の無機から始めようって原田は言ってくれたのに、申し訳なさが募るばかりだ。
「……」
「泡沫。落ち込むなよ。お前この前の中間10点上がっただろ」
「でも、そんなん石ころみたいな点数だよ」
52点。因みにいつも通り、ジャスト平均点。10点上がったのは、クラスの平均点が10点上がった(皆、理論はわからなくても、暗記なら頑張るしね)からなわけで、僕のレベルが上がったわけじゃない。
「はぁ〜」
泡沫杏佑17歳、只今自分に絶望中です。こんな僕に、更なる追い討ちが。
「あの、泡沫君」
まただ。今日は3人目。
「なに?」
「私と、友達になってくれないかなっ!」
真鍋さんに相談を受けてから、毎日これだ。でも前から言ってるように、僕は友達って言うのは、気が合うからこそ一緒にいる時間が増えてきて、友情が深まっていくものだと思ってる。つまり、頼んでなってもらうものじゃあ、ない。
「僕今彼女いるから」
この手の女子には、これが一番効く。彼女がいたら、諦めてくれる子が多いんだ。結局は誰も本気じゃないってこと。
「はぁ〜」
またしても溜め息。何か、僕の外見だけが先走りをしている。僕自体は、中身の人間は全く変わってないのに。
普通に勉強して、普通に友達がいるだけだ。原田やゆりかにだって、助けて貰うばかりで、僕は何も返せていない。
「情けないよな」
溜め息が出そうになるのを、これ以上不幸になってたまるかと、飲み込む。
「泡沫杏佑!」
あ、飲み込んでも、心の中で溜め息ついたらダメみたい。僕の目の前には赤いオシャレメガネ、牧山春風が立っていた。
「なぁに?」
「何か、大変だな、お前」
え、どうしたんだ急に。
「あれだけ女子に言い寄られるのもストレスだろう?」
「牧山〜。わかってくれるのか?」
あっれー。もしかして、牧山って良い奴なのか?
「ま、僕があの日君を押し倒したのが効いているみたいだしな。女子半分譲って貰ってもいいぞ!」
「……」
あぁ、ですよね。昨日あんなにウザかった牧山が今日の今日で良い奴になるわけないですよね。
「おい! 泡沫! 何故無視する!?」
「僕にこれ以上ストレスを溜め込ませないでください」
「敬語!?」
「さようなら」
牧山を相手にした僕がバカだった。余計にストレスだぜ。廊下を歩くとまた女子がいそうだから、僕は教室に戻った。
「泡沫じゃん」
「おかえり」
「やあ、山咲君、後藤君」
僕は自分の席に座って溜め息をついた。
「どうしたんだ泡沫。元気がないじゃないか」
「大丈夫だよ、後藤君」
「悩みがあるなら俺達が聞くよ」
「ありがとう山咲君。でも大丈夫」
女子に言い寄られて悩んでるなんて、言えない。モテ過ぎるのも悩みものだけど、僕なモテない奴の気持ちもわかるからな。
「話したくないなら良いけどさ、話す気になったら話せよ泡沫。吐き出すとスッキリするもんだ」
やっぱり良い奴だな、山咲君。後藤君も頷いてくれた。
「ありがとう」
午後の授業は化学だった。原田が教えてくれたお陰で良くわかった。
放課後。校庭ではサッカー部が練習をしていて、気合いの入った声が、校舎中にこだまする。僕は溜め息をついた。
「僕、何で進歩しないのかな」
「だって」
原田は、今日はサッカー部の助太刀らしく、練習に出ている。僕とゆりかは練習のようすを、教室の窓から見ていた。
「だって?」
「杏ちゃん、本気で変わろうとしてないもん」
「なっ……!」
ゆりかの奴何てこと言うんだ。僕は一生懸命やってるつもりだ。
「本気だよ。だいたい、ゆりかが言い出したんだろ! 僕は別に変わらなくても良いんだ!」
「杏ちゃん……」
「くっ」
ゆりかが、いつもはしないくせに、悲しそうな顔をする。それに、ますます苛立ってしまう。
「そうだ。僕何で悩んでたんだろう。バカみたいだ。変わりたくなんて、ないよ!」
「何で?」
いつの間に練習が終わったのか、そこにはユニフォーム姿の原田が立っていた。
「わからない。でも……」
「変わるのは悪いこと?」
「原田にはわかんないよ!」
「あっ、杏ちゃん!」
気付けば、僕は教室を飛び出して、自転車で走り続けていた。どこまでなんて宛ては無かった。ただ、ひたすらに走り続けた。