五月と書いてさつきと読む
平和な日々に油断しまくっていた僕の目の前に突然表れた赤メガネ、牧山春風。
「泡沫杏佑!」
「何でしょう」
「僕と友達になれ!」
「嫌だ」
「何故だ!」
「見るからにウザそうだから」
ですよね、皆さん。どうも、毎度お疲れさまです。泡沫杏佑です。さて、とうとう牧山に捕まってしまった不幸な元凡人の僕ですが、どうやら牧山が僕を付け狙うのは、僕がある日突然メガネ美男子(決して自惚れじゃない。ストーリー上仕方ない表現だ!)になってしまったことにあるようで。原田やゆりかと平和な日々を過ごしていた僕はせっかく変わりすぎた人生を楽しみ始めたばかりだったのに早くもその平穏が崩されそうなのだ。
「つうか、早く僕の上から退けよ、牧山」
「……!」
「だから、顔赤らめてんじゃねぇぇええ!」
「うっ……赤らめてなどいない! さあ泡沫、メガネ美男子同士、仲良くしようじゃないか!」
差し出される牧山の左手、軽やかに避ける僕。
「くっ……何故だ! 泡沫のバカ野郎! この……メガネ美男子めが!」
「いやそれ褒め言葉だから」
「くそ、僕の方がお前よりも先にオシャレメガネだったんだぞ!? 何故お前だけがモテて僕はモテないんだ!」
うわ、おもいっきり僻みだ。確かに、牧山の赤メガネ、オシャレだとは思うけど。
「知るか。しかも僕別に格段モテるようになったわけじゃ……」
「ファンクラブあるくせにぃい!」
「ぇぇえええ!」
逆にビックリだわ。ファンクラブ? 原田じゃあるまいし? 原田のファンクラブがこの学校に留まらず、他の学校にも拡大してるってのは聞いてたけど。
「泡沫ー、牧山ー。授業始まるぜ?」
「山咲君!」
助かった! 早くこのウザいのを僕から遠ざけて!
「くっ……授業が始まるなら仕方あるまい。泡沫! 次は覚悟しとけよ! さらばだ!」
「……」
とりあえず一段落。助かった。全く、あんな奴この学校にいたか? 僕はじめて見たよ。
「いやあ、助かったよ山咲君」
「ん、牧山のこと? なんだお前ら友達じゃないのかよ」
「……違うよ。今日初対面」
「初対面から絡まれたのかー。お前も災難だなあ」
「うん」
本当にアイツ、何だったんだ? 赤いオシャレメガネに、坊ちゃん刈り。あれじゃ、まるでどこかの芸人みたいだ。僕が考えていると、山咲君が思い出したかのように話し出した。
「牧山はさ、隣のクラスに一週間前に来たって言う転校生なんだよ」
「転校生?」
「なんだよ泡沫、知らねぇの?」
「あ……申し訳ないけど」
そんなこんなで授業が終わり、今は放課後。近くのファーストフード店にて原田とゆりかと待ち合わせだ。
「原田」
「おっ、泡沫。遅せえよ、待ちくたびれてもうポテト食っちゃった」
「ごめんごめん」
「ところで泡沫、牧山に押し倒されたってのは本当か!?」
うわ、思い出したくないこと思い出したじゃねぇか。
「その顔なら本当みたいだな。俺がボコる?」
「えっ、いいよ原田!」
原田って確か喧嘩も強いって聞くよな。同じ様な立場になってみてわかったけど、イケメンって喧嘩を売られやすい。
「それよりさ、ゆりか遅くないか……?」
僕が言葉を言い終わらないうちに、それは起こった。
「ちょっとお! ゆりか本当に2人とは何もないわよぉ!」
店の入り口からゆりかの声がする。声色からしても、あまり良いことではなさそうだ。
「ゆりか?」
「萩本? なんかヤバそうだな」
あんなに怖くても、ゆりかは学年一可愛い女の子だ。もしかしたら、ナンパでもされているのかも。
「おい、泡沫。俺が萩本助けに行くから、お前はここにいろ」
「あ、うん」
駆けていく原田の後ろ姿を、僕はただ見ているしかできなかった。