カレーは2日目からが美味いものなのだ
白いシーツに白いカーテン。白い天井をバックにイケメンが僕の顔を眺めています。
切れ長の目が目尻から垂れていて、フェロモンが有り余ってる感じ。
「原田君?」
「泡沫?」
何を隠そう、この保健室で僕の顔を珍しいものを見るような顔で覗き込んでいる、どういうシチュエーションだよ、とツッコミたくなるこの人物こそ、我が公立若林学園高校一のイケメン・原田 雅樹様々。でも、原田が何でここに?
「いやあ、でも見事に化けたなぁ」
原田が何の嫌みもない非常に爽やかな笑顔で語りかけてきた。
「何が」
「泡沫」
ウタカタって、僕が? 何に化けたって? まさか、バ○タン星人の亡霊に乗り移られたとか?
わけがわからず戸惑う僕に、原田はクックッと腹を抱えて笑い出した。あれ、原田ってこんな笑う奴だっけ。
「ああ、ほらメガネ! メガネだよ。お前、メガネ美男子だったんだな!」
「ああ!」
あれか。僕がメガネを外そうとしたそのとき。
「ウェイトォォオ!」
ゆりかが右側から 膝ごと突っ込んで……って危ないってば馬鹿死ぬ死ぬ死ぬ!
「ぐはあっ」
「うーわ、泡沫大丈夫かぁ? ていうか萩本って案外猟奇的?」
そう言いながら爽やかに笑う原田は馬鹿っぽいっつうか、馬鹿かまさか! お前、確か顔良し頭良し体力良しの三良君じゃなかったのか!
そんなことはお構いなしに、ゆりかは未だ僕を睨みつけたままだ。あれ、僕何か勘違いしてたのか。ゆりかってもっと大人しい子じゃなかったか。ゆりかが鋭い睨みを利かせながら叫ぶ。おーい、忘れてるかもだけどここは保健室だ。
「杏ちゃん! まさかこのメガネ美男子好きの私の前から1人のメガネ美男子を消すつもり!?」
「消すつもり……うわぁごめんなさぁぁあ!」
いやこれはもう、メガネ美男子好きどこじゃなくて、メガネ狂じゃないか。うわぁ、ショックだ。あの大人しくて可愛いゆりかはいずこ。僕17年間ゆりかの何を見てきたんだろう。僕がこんなにショックを受けているのに、突然の原田の気持ちの良い笑い声に何だか吹き飛ばされてしまう。
「あははは、萩本最高」
「は、原田ー!」
この状況で一番まともそうな原田にめで助けを求めてみる。
「泡沫、お前の彼女面白れえな」
あ、ダメだこりゃ。通じてない。溢れそうな涙をこらえて、勘違いを受けている僕とゆりかの関係を修正にかかる。
「いや、ゆりかは彼女じゃない」
「そうなの? じゃあなお面白れえわ。萩本がさ、イケメンになったお前のカテキョして欲しいって言うんだよ。どういうことするのか知らねぇけど、何か面白そうだし俺でいいならやるぜ」
ああ、ありましたね、そんな話。
「って、え?」
ゆりか……あの子! マジでそんな変なお願いしちゃったの? あの原田様に? 何て無礼な。原田良い奴だから、協力してくれちゃいそうじゃん! いけない、原田にそんなことさせられないぜ。
「あのさ、その話なんだけど……」
「ああ、だから任せろって!」
抜群の笑顔。あっ、いっけねー! 原田がやる気だわ。
「本当に? 良かったね杏ちゃん!」
「……」
「よろしくな。泡沫」
「あ……」
うわぁ爽やか! 今更ごめんなさいとか言えねー!
「ほら、多忙な原田君がカテキョやってくれるんだよ! 杏ちゃんからもお礼言いなよ!」
ゆりかお前のせいで原田が更に多忙になるんだろ。
「あー、わかったから。僕は泡沫杏佑。原田、そういうことだからよろしくな」
こんな下らないことに付き合うなんて原田も相当お人好しだな。
「おう、よろしくな! 俺、原田雅樹。お前、友達たくさんいるから、友達になってみたかったんだよなぁ。やっぱり面白いんだな、友達多いヤツってさ!」
まぁ、原田が楽しそうだからいいか。って俺なんか感覚麻痺してる?
ああ、カムバック俺の平凡な日々。