こちらの商品は10回まで返品できます
シリアスモードをやっと抜け出します。
皆さんこんにちは。泡沫杏佑です。僕は今、1人ワックで黄昏ているわけで。
「君、格好いいね。今暇なの? だったら私達と遊ばない?」
僕は変わってしまうのが、怖い。それがわかったから。
「僕、全然格好良くなんかないんです」
「はぁ?」
「だから、君達には釣り合わない」
行動しなきゃ。この場所から進めるように、努力しなきゃ。
僕が立ち上がった瞬間に、背後から原田の声がした。
「そーだぞ!」
「原田」
驚く逆ナン女子大生達をよそに、原田は僕だけを見ている。
「決着はついたのか?」
「……うん」
原田が、嬉しそうな、爽やかな笑顔を浮かべた。そのまま、僕に背を向けて歩き出す。いつの間にか、女子大生達はいなくなっていた。
「じゃ、行くぞ。萩本も外で待ってる」
あまりにもあっさりと歩き出した原田に、少し戸惑って足が止まる。
「あの」
「何だ?」
「怒ってないのか?」
僕が頼んだ訳じゃないとは言え、親切にカテキョしてくれてたのに、あんなことを言ってしまった。きっと原田は怒っているはずだ。
「必要ない。これは俺じゃなくて、お前自身の問題だ」
「……ありがとう」
再び歩き出す原田の背中に向かって言うと、原田はやはり背を向けたまま手をヒラヒラとさせた。痺れるぜ。
ワックを出ると、ゆりかが少し退屈そうに壁にもたれかかっていた。夕日は沈みかけていて、少しだけ暗い。ああ、いつもこうならゆりかは完璧な美少女なのになあ。
「杏ちゃん!」
「ゆりか……ごめんな。ここ、わかったんだ?」
「だって、杏ちゃんいつもそうでしょ。爆発すると、自動車で必ずワックに来るんだもん。発想に進歩が見られないよね」
「うん……?」
あれ? 若干、最後失礼じゃなかったか? まぁ、今は気にしてられないよな。
僕とゆりかの様子を眺めていた原田が、手を2回叩いた。
「さってと。じゃ今から泡沫改造計画開始しますか」
原田が腕を頭の裏で組む。ん? 改造計画って何ですか?
「はは、面白い顔をしているな、泡沫」
「あのねぇ、杏ちゃん。杏ちゃんが進歩しないから、私と原田君で計画を……」
怖えぇえ! ゆ、ゆりかが笑ってるよ!
「私のメガネ美男子が更に格好良くなるためなら、何でもするんだから……!」
「……」
「あははは!」
原田絶対おもしろ半分だ!
「さっ。原田君ん家行くよ!」
「ぎゃぁああっ! 助けてえ! 話せよゆりか! うぅ……一体何をするんだ!?」
「ハハハハ! ククク……萩本……最高」
僕はいつまでも止まない原田の笑い声をBGMに、すっかり暗くなった原田家への道をゆりかに引きずられて行った。