9回裏からが野球の醍醐味だ!とか思ってますスイマセン
シリシリシリアス
走って走って走って。どこに行くかもわからずに走ってたと思う。いつの間にか僕は、やっぱりいつもの場所に来ていたみたいで。
「ワック!?」
いや、これはちょっと普通すぎだ。いくら闇雲に漕いだとは言え、僕達の行き着けのファーストフード店だなんて。
「でも、いつもここなんだよな」
考えてみれば、何かに迷ったり、悩んだりしたらいつもワックに来てたな。窓際の席で、ワクスペバーガをかじりながら。
「いらっしゃいませ」
さすがは笑顔0円。ま、定員の笑顔まで売ってたら、今頃ワックは日本にはないだろうけどな。そう思いながら、いつものように注文する。
「ワクスペバーガ1つ」
「ワクスペバーガ入りまぁぁあす!」
で、いつも思うけど、声張り上げすぎじゃね?
僕はいつもの席に座り、ワクスペバーガをかじりだした。窓からは、楽しそうなカップルや数多の家族が見える。
変わるのは悪いこと? 原田の質問が頭の中に木霊した。教室を飛び出した時から、頭に焦げ付いて離れないその言葉を、何回も反芻する。僕は変わりたくないのだろうか? それは何故だろう。いや、違うな。こういうのが答えじゃない。ポテトをかじりながら、コーラを飲む。
「怖いのか」
自然と口をついて出た言葉に、心臓がドキリと音をたてる。ああ、そう言うことか。僕は変わってしまうのが怖いんだ。全く違う自分になってしまうのが、寂しいんだ。今までの自分がどこかに行ったまま、二度と帰って来ない気がして。 僕は再びコーラを口に含んだ。
一方原田達はと言うと。
「泡沫、行っちまったな。何の話をしていたんだ?」
未だに杏佑が去った教室にいました。
「杏ちゃんがね、僕は何で進歩しないんだろうって言うから。そんなん、自分でもわかってるはずなのに」
「本気じゃない、だろ、泡沫。俺は泡沫との付き合いはまだ日が浅いけど、わかる。アイツ、何でも本気が出せない奴なんだろうな。頑張れば一番になれる実力もってるくせに、どれも適当なんだよ。勉強だって、スポーツだって。だって、あんなに適当にやってて、平均点いく奴なんていないぞ?」
原田の言葉に、ゆりかは驚いたように目を見開いた。
「原田君、意外と杏ちゃんのこと見てるんだね。何も言わないから、てっきりわかってないのかと思ってた」
「まぁ、ね。でも、アイツの性格わかってて、あそこまで言える人は萩本くらいだよ。……フフ、本当に好きだな」
「な、何がよ!」
「自覚してるくせに」
ゆりかの顔は赤く染まっていたが、それが夕日のためなのか、果たして原田が言った言葉のためなのかは、残念ながらわからなかった。
「で、わかるんだろ。泡沫がいるところ」
原田が不敵な笑みを浮かべた。
「大体は見当付くよ。杏ちゃんが何かあったときは必ずあそこに行くの」
ゆりかが少し拗ねたようにそう言ったので、原田は笑って頷いた。
「じゃ、どっかの困ったメガネ美男子を迎えに行くか」
ゆりかは原田を自転車の後ろに乗せ走り出した。
「ってコレ立場逆じゃね!?」
「あっ。今日は原田君がツッコミなんだー」
自転車は原田が漕ぐよりも遥かに軽やかに校舎を後にした。後日談によると、この日自転車が脇を通ったような錯覚を起こした人が沢山いたらしい。