プロローグ
「泡沫君て、あと一歩のところでフツーなのよね」
皆さんこんにちは。僕は泡沫 杏佑17歳、至って普通の公立高校に通う高校生です。さて、それはさて置き、冒頭の決して悪口ではないのに、軽く傷付く言葉をご参照下さい。
これは、ある女子生徒が僕に向かって言った言葉です。そう、その通り、僕の顔は普通です。格好良くも、不細工でもありません。しかも、身長180センチ、体重69キログラムの超平均的体型にプラスして、超普通の学力アンド体力。個性的と言えば、苗字くらいですが、これは親から受け継いだものであって、僕が何か努力して手に入れたり、身につけたものではありません。
「ともかく、僕はかなりの度合いで凡人なのです」
「泡沫、何言ってんの?」
「んー? 何でもないよ山咲君。ただの独り言だよ」
おっと、心の声が口から漏れていたようですね。今僕の隣にいて、屋上で同じく黄昏でいるのは、同じクラスの山咲君。普通の友達です。僕には特別な親友もいません。そりゃ、僕が女の子なら1人くらいはいそうですが、男子はあまり誰かとずっと一緒にいるような機会もないので、親友はまだできていません。多分、一緒にいて楽しければ自然にいつも一緒にいるようなものだと思うのですが。
こんな僕ですが、昨日、人生初ではないかと言うくらい、特別な経験をしました。それは、僕が日直として日誌を職員室にいる先生の元へ提出しに行ったとき。
「ん?」
僕は廊下の窓辺にキラリと光るものが置き去りにされているのを発見しました。
「何だろう」
僕は何故かそれが無償に気になって、近づいてよく見ようとしました。
「メガネ……?」
それは正に、学級委員長がしていそうな、涼しげなデザインで、黒縁なのですが、細部にさり気なく凝った装飾が施され(ほどこされ)ていました。僕はそれを手にとり、落とし物を届けるためにポケットに入れました。で、結局昨日は持ち主を探す前に帰宅時間になってしまい、今に至ります。今日は持ち主を見つけ出して返すつもりです。皆さんにしてみると普通かもしれませんが、これは僕の日常の中では、結構ワクワクする日に入ります。
「でも誰のかよくわからないんだよなぁ。だいたいこんなオシャレメガネ、誰がかけてるんだ?」
ポケットからだして、暫く眺めた後、かけてみます。度がキツいかも。でも見えたのは、意外にもクリアな世界。
「あれ、これ、ダテ……?」
まぁ予想はしていたけれど。
「う、泡沫」
突然、山咲君に声をかけられたから、メガネを外すのを忘れて、山咲君の方を見る。
「へ?」
「お、お前……!」
山咲君は、何やら口をパクパクさせて、何かを言おうとしています。何だろう。
「山咲君?」
「裏切り者ー!」
そう言って山咲君は全力疾走して屋上を出て行きました。え、僕何かしたっけ。とにかく、追いかけてみないと。そしてこのとき、僕はメガネを外して追いかけなかったことを激しく後悔することをまだ知りませんでした。