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「ええと、ここを右かな」
時刻は昼になろうという頃、私と点睛くんはまず行方不明者の人柄を知るために彼女の家を目指して二人で歩を進めていた。
夏。日は肌を刺し頬を伝う汗を輝かせる。点睛くんは水を飲みながら汗を拭き、私は季節外れの黒い制服のせいで暑さにやられかけている。
「ミキさんが言ってたこと覚えてますか?」
地図を見ていた彼が訪ねてくる。少し水が羨ましい。
それにしても言ってたことって、"注意点"のことだろうか。
ミキさんは私たちが出かける前に気をつけるようにといくつかのことを私に教えた。
一つ。
「想像を実際に見ることができるからといって未来を見ようとしないこと。」
一つ。
「広い範囲で過去を見ようとしないこと。」
一つ。
「"もしも"を再生しようとしないこと。これはできる限りでいい。」
全てに共通してミキさん曰く、あまり過去視から逸脱しないようにするためらしい。これをしてしまうと脳の容量がパンクしてしまうとかどうとか。
「覚えてるけど、それがどうかした?」
「"ねーね"ってなんですか?」
―――そっちか。
不意をつかれた私は思わず足を止める。
天然なのだろうけれども、彼はまた。
「点睛くん。そういうところだと思うよ。」
「えっ。」
「いやいいです。『この事実はキミがたどり着くべきもの。』だから。
それより"ねーね"かぁ・・・」
「あ、ええ。どうしても気になってしまって。」
こうやって、疑問をよく投げる。純粋であるが故に彼は少し残酷だ。向き合うことをせかされているように感じてしまう。
少し悩んでから私は口を開く、足取りは暑さのせいか少し重かった。
「ねーねっていうのは、私が子供の頃。いえ私が過去を見るときに必ずいる女の子のことです。」
「過去を見るときに必ず…?」
「そうです。子供の頃からよく視る子で、今でも何なのかわからない。ミキさんがいうには私が再生するのは過去の事象で、私が得た情報から視ることができた"誰か"なのでしょうけど…」
それがわからないのだ。
でも、それは私が目をそらしてきた証拠でもある。
「だから、向き合うことだったんですね。」
「そういうことです。」
納得したのか彼はまた地図を見る。
それにしても、そうだ。
ミキさんがああ説明した過去視。その通りであればねーねは私が知る誰かのはずなのだけれど。私の記憶のねーねは―――。
"何してるの?"
視界が点滅する。
景色が塗り変わっていく。
"あなたはだあれ?"
錆のあるブランコが揺れている。
座っている彼女は私に―――。
「あそこですよ。」
「―――あ。ああ、うん。」
気づくと少し離れた点睛くんが私を見ながら一軒家を指差していた。
ここが、釜中ユキナさんの家。
さて、ここからは探偵として頑張らないと。