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「意識的に、ですか」
正直なところ、あまり気は進まない。
私は人生の中でこの目に最も悩まされてきた。
だというのに、この目を活用しようとは思えない。
「ああ、キミが過去視だということは説明した。そしてキミはソレを知り得た。だが、まだ実感はできていないだろう?当然だ、長年の思い込みはそう簡単には変えられない。しかし、キミは自分の目をより深く理解する必要がある。」
ミキさんは一拍置いたあと、何かを企むように言葉を続ける。
「理解、とは何かと向き合うにあたって最も重要なことだ。何もわからないものと向き合うことはできない。だから、キミには自分の目を意図的に扱う方法を知り、実感しなければならない、実感は理解につながるからね。そして、実感する方法なのだが。」
嫌な笑みを浮かべるミキさん。
隣の点睛くんを見ると何やら目を見開き、驚いていた。
「ミキさん、本気ですか?」
いや、何をさせられるんだ私は。
「本気も本気だとも、でなければ君をここに座らせてはいない。いいかい?こと異常能力に至っては個人の感覚がものをいう。ワタシが言葉で説明をするのもいいけれど、それでは時間がかかりすぎる。」
「つ、つまり私は何をさせられるんですか?」
恐る恐る問いかけてみる。いや、妙に嫌な予感はするのだけれど、きっとそうではないはず。
「習うより慣れろなんだ。
つまりね、キミ今日一日探偵にならないか?助手は点睛、彼をつける。」
「きょ、今日からですか?」
声が震えるのを感じる。動揺しているのだろう。
それもそうだ、私は自分が過去視だなんてついさっき知ったのに。それが探偵になってみろだなんて。
けれど、そんな私を放ってミキさんは資料らしきものを机に広げる。
「今回の依頼は行方不明者の捜索だ。最近はそういう類の事件が多いからね。
心配性な親御さんが依頼をしてきた。性別は女性。年齢は16歳、髪は長髪の色は黒。メガネをかけているらしい。金曜日に学校に行くと言ったきり連絡がなく、家にも帰ってきてないそうだ。今朝こちらに依頼をしてきたから行方不明になって二日目ということになる。くわえてだが―――」
「待ってください。」
資料を淡々と読むミキさんに点睛くんが声を掛ける。
「探偵をやるはともかく、それは過去視に何の関係があるんですか?」
最もらしい疑問を提示する彼。
探偵をやることは反対しないんだ。
「なんだ、わからないのかい。点睛。これはね、彼女の目の条件を揃えるためなんだよ。探偵は職業柄情報を収集してソレを参考に推理をするものだろう?彼女はね、推理こそ必要ないが、その目は探偵に向いているんだ。天職とも言える。なにせ、事件を再現できるんだよ?だから、この依頼は彼女にも手伝ってもらう。」
―――なるほど、言われてみればそうだ。
私の目が過去の出来事を再生できるとしたら、探偵はこの上なく私に向いているのだろう。事件を再現できるのなら犯人もわかってしまう。行方不明者でも、追跡が容易にできてしまう。だって再生された人をついていけばいいのだから。
点睛くんも納得したのか少し晴れたような顔をしていた。
「それじゃあ、続けるよ。先ほども言ったとおり、最近は事件が多い、特に自殺や行方不明がね。今月だけで6件に及ぶ、そしてこの依頼。もしかするとだが、この依頼も解決しなければ事件になるかもしれない。年頃の娘がやんちゃしているだけだとたかをくくってはいけないよ。私も捜索をするが、しっかりとこなしてほしい。
で、愚問だが、一応聞いておこう。探偵になるかい?」
ミキさんは私に問う。
点睛くんは情報を聞き、着々と準備をしている。
――気は進まない。
でも、私は向き合うと決めたのだ。
なら頑張らなくちゃ。
「わかりました。手伝わせてください。」