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「まず最初に聞いておこう、キミは私に一体何を聞きたいのかな?」

 目の前の女性が私に声を掛ける。

 スーツ姿にポニーテール。美人で、仕事ができる人って感じ。

「ええと」

 そうだ。会いたいとは言ったけれど、私は一体何を話すのか決めてない。なんて間抜けだろうか。

 答えられずにしどろもどろしているとマエシロミキという女性は口を開き始めた。

「なるほど、決めてなかったのか。」

 顔が少し熱くなるのを感じる。

 恥ずかしいな…これ。

「なら、こちらが話す内容を決めようか。

 そうだね、キミの人生の悩みである"過去視"について話をしよう。」

「過去視・・・?」

「おや、そこからか、まぁ考えても見れば点睛がそこまで気を使える

 はずはないからね。いいよキミにはわかりやすく説明してあげよう。」

 目の前のマエシロミキという女性が彼の言う"視える人"なのだろうか。

 しかし、なんで私の悩みを知っているかのように話すのだろう。話したことなんてないというのに。もしかして、これが"過去視"?

「まずはそこに座りたまえ。ほら、君もだ点睛拗ねるんじゃない。

 事実だろう、大切なのは次に繋ぐことだよ。」

「「わかりました。」」

 方や緊張しながら、方や凹みつつ。

「それじゃあ、説明をしよう。まずはキミの目が我々になんと呼ばれているか、からだ。我々はね、キミのような人を異常能力者と呼んでいる。大抵の人間には無い、逸脱した身体機能を持つ者のことだ。そうしてその身体機能のことを異常能力、更にはその部位のことを異常部としている。

 さて、ここでキミには疑問ができただろう、果たして自分以外に異常部を持つ人はいるのか、とね。答えは当然イエスだ。でなければわざわざ呼び名なんて付けないよ。そしてもう一つ、同じ異常部を持つ人間はいるのか。これはイエスでありノーである。なぜなら全く同じものは存在しないからだ。

 人間は個人差がある。当たり前のように異常能力にだって個人差がある。つまり、点睛が言った同じものが視える人、というのは存在しない。限りなく近いものが視える人間ならいるのだけれどね。

 だから、ワタシを表現するとしたら、その限りなく近いものが視える人間。ということになる。

 そしてワタシとキミの異常能力のカテゴリーを"過去視"という。」

 膨大な情報量と現実離れした話に混乱しそうになる。

 信じがたい―――とは思っても自分が証拠なら信じざる負えない。

 けれどと、私は一つの問いを返した。

「ま、待ってください。私は過去視なんかじゃありません。私が視た

 のは過去なんかじゃないんですから。」

 そうだ、私が幼い頃に視たのは過去なんかじゃない。

 あれは、幽霊か何かで―――

「キミが最近視るフラッシュバックと、幼い頃に視た映像の根本は一

 緒なんだ。それにね、キミ嘘はいけないよ。今だって視ているだろ

 う。"ねーね"を。」

「―――っ。ミキさんの、それが"過去視"なんですね。」

「理解が早くて助かる。

 やはりキミは過去視だ。なにせ目がいい。そこまでの観察眼は異常能力の副産物だろうね。

 さて、話を戻そうか。キミには、二通りの再生方法があるんだ。一つはキミが最近視るフラッシュバック。

 これは記憶のリプレイ。キミ自身が体験したことを、ある一定の条件が揃うと再生するようになっている。ごく普通の人間でも起きうることだ。しかし、キミのそれは常人の比ではない。鮮明に体験し直すなんてことはごく普通の人間には出来ない芸当だし、それに何でもないことをそんなに鮮明に思い出しはしないだろう?。

 そして、もう一つはキミが幼い頃に視たと形容するモノだ。これは事象のリプレイ。」

「事象のリプレイ・・・?」

 思わぬ言葉に疑問が口から出る。

「過去に起きた出来事を、キミの目は再生する。普通の人間でいうならば"想像"だ。だれだってある一定の条件さえ整えば過去の出来事を想像することはできるだろう。そしてキミのそれはね、常軌を逸した想像なんだよ。

 "思い描いたものが実際に目で視える"くらいね。」

「それじゃあ、私が視ていた幽霊は。」

「死した猫と、そこを歩いた別の猫。この二つが重なれば、きっとあの猫はこの猫のように歩いていたのだろう。となり、毎日見た祖父の部屋の景色と、祖父の顔。この二つが重なれば、おじいさんのいつもどおり本を読む姿が想像できる。そして、"ねーね"だが・・・。」

 少し渋るようにミキさんは口を閉じた。

「どうしたんですか、ミキさん。」

 静かに話を聞いていた彼が声を上げる。即答すると思っていたのかその声は驚きが混じっていた。

「いや、こればかりはワタシが話すのは気が進まなくてね。」

「それは、私の記憶を視たからですか?」

 確信をもって私は発言をする。

 ミキさんの過去視。何も話していない私の記憶を読み取ったその異常能力。

「そうだ。ワタシはキミの過去を視て、事態を把握した。だからこそ、キミには言うべきではないと考えている。なぜなら、キミは過去視だからだ。過去が視えるキミにとって、この事実はキミがたどり着くべきもの。過去視は人生につきまとうからね、柵は自身で乗り越えなければならない。」

 教えるようにミキさんは口を開く。

 ―――きっと、これは彼女の優しさだ。

 私は今まで、逃げていた。

 視界を嘘で塗りつぶして、人の思い描く自分になりきって普通の人間を演じてきた。

 自分を殺してまで、この"目"から逃げてきた。

 でも、これできっと最後なのだ。向き合えなければ今までと同じ。今から、向き合えればきっと変われる。

 私は―――

「わかりました。私は自分で向き合います」

 ―――自分の思い描く自分になりたい。

 ミキさんは少し頬を緩ませると。

「頑張りなさい。」

 私に一言のエールを贈ってきた。

「さてさて、閑話休題だ。

 二つの再生方法の話はしたが、先ほどのある一定の条件の話をしよう。

 ズバリ、その条件とは"情報"だ。我々人間は、何かを思い出すために鍵となる情報が必要となる時がある。例えば、昨日の食卓。まず昨日の食卓を思い出すために点睛、君は何が必要だい?」

「ええと、何を食べたか。それから何を話したか。ですか?」

「そうだ、よりわかりやすく言うならその状況を構成した要素だ。テレビは見ていたか、その部屋はどんな部屋か、誰かと一緒に食べたか、それとも一人か。そういった情報を得ることで、人間は連鎖的に記憶を思い出すことができる。」

「なるほど、だから私の過去視の条件は情報なんですね。」

 意識的に記憶を思い出すために人は情報を集める。しかし、その人に記憶を思い出すつもりがなくても、情報が揃ってしまえば記憶は自然と思い出せてしまう。

 私の過去視もそう。フラッシュバックはその記憶の情景や言葉が集まると発生し、事象の再生は想像を行うための情報、人の顔やその時間。近しい状況があると発生する。そして、条件がわかっているということはつまり。

「――意識的にキミの過去視は使うことができる。」

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