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「それじゃあ、結局よく覚えていないんですね」
「――そういうことになります。」
タクシーの中、窓の外は目まぐるしく風景が変わる。それでも登りきりつつある日は位置を変えずに私たちを照らし、窓の反射が少しばかり眩しかった。
私は今ちょっとした事情聴取を受けている。結局うやむやになってしまったなんで私が身投げしようとしたのかを。
でも、実際のところよく覚えていない。
朝学校に向かおうとしたところまでは覚えてるのに、それから彼に止められるまでの2時間、記憶がごっそりと抜け落ちているのだ。これじゃ、なんで私がああなったのか理由すらわからない。
「そっか、それじゃあしょうがないですね。」
少し残念そうに話す彼
「なんで、そんなに知りたかったんですか?」
「僕は、あまり人と接したことがなくて、だから身投げする人がどんな思いでその行動に至ったかを知りたかったんです。」
―――これは、多分天然だろう。
少し話して知ったのだけれど、彼は純粋なのだ。思った通りに言葉を話す。でもそれが人によってどう受け取るかがわからない。だから、こんな言い方になるのだ。
お人好しな彼のことなら、きっと止める手段を知るために知りたいのだろう。私の時みたいに、無理やりじゃなく。
「それは残念でしたね。でも、あれでよかったんだと思いますよ。
きっと、ああでもしないと今の状況はなかったと思いますから。」
「それなら、よかった。」
安心したような顔で笑顔を作る彼。
そうだ、気になることがあるんだった。
「それで、私と同じものが視える人ってどんな人なんですか?」
「ミキさんって言うんですけど、あの人は―――あ、ここです。」
ちょうどいいタイミングでタクシーが止まる。
会う前に少しその人のことを知りたかったのだけど。もうすぐ対面するらしい。
そうしてタクシーを降りると、少しばかり汚れのあるビルがあった。ガラスは少し曇っていて、1階に至ってはまるで使われていない。2階には新品の大きな看板がこれでもかと存在感を発揮していた。
前代未聞の探偵事務所。
すごい店。慎ましさの欠片もない。
「ここがミキさんの探偵事務所、多分上にいるから。」
「え、」
どうしよう、もう共感できる要素が見当たらない。
だというのに、私を放って彼はどんどん2階の外付け階段を上がっていく。
「まって、まだ心の準備が―――」
「え?」
時既に遅し、彼は私の言葉より早く扉を開けてしまったのでした。
過ぎてしまったことは心の奥にしまい、とりあえずは覚悟を決める。
大丈夫。きっと。大丈夫。
ビルの中に入ると切れかけた電灯の下。書類の山積みになった机に座ったスーツの女性がそこにはいた。
「おかえり、点睛。そしていらっしゃい。
私はマエシロミキ。迷える少女と同じ過去視だ。」