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私が結局なんの意図があって声をかけられたのかという疑問を思い出したのは一品平らげ外を見ていた時である。
今更問いかけるのもどうなのだろう。
いやいやしかし、問いかけねばこれではナンパが成功を収めた
だけではないか、そうなっては私が尻の軽い女と勘違いされかねない。
「それで、一体何のようなんですか?
これではご飯を奢られただけです。
初対面の人への対応にしては納得できません。」
「いやぁ、その。なんて言えばいいのかわからなくて。」
「ズバリ言っていただいて構いませんよ。」
はぐらかせないように、しっかりと理由を聞かなくては。
「・・・それじゃあ、自殺をするのが視えたから。」
――予想はできていた。
あの時の私が正気だったとは思えず、記憶が曖昧である以上傍から見ても呆然としていても自分では気づけない。
しかしまぁ。
まさか、そこまでの極限状態を見せていたとは。
ともかく、心配はさせないようにしなければ。
「その節は――」
「止めたのは、見えたのならやらなくちゃいけないと思って。」
これは、また。
鈍器で殴られたような衝撃。
この人は、私の言われたくない言葉を口にした。
"そんなもの見えないって言いなさい!"
視界が点滅する。
夕暮れの道路。
繋ぐ手の先には母親がいる。
隈が深い。
少しやつれている。
私は何でもない方向を指差している。
"でもおかあさん"
やめて
"あそこに"
やめてやめて
"ねーねいるよ・・・?"
「――目を覚まして!」
「・・・あ、れ?」
あぁ、そっかまた見たんだ。
思い出を。
記憶力がいいのか、なんなのか。
私は稀にああやって思い出す。
とてつもなく鮮明な記憶でつい今さっき経験したかのような新鮮さのある光景を。子供の頃に見てきたものがフラッシュバックする。
「大丈夫ですか?戻ってきてますか!?」
出会ったのは数分前、他人であるはずの彼が真剣に焦っている。
とんだお人好しなのか、でなければ私にご飯なんて奢ってないか。ならさっきの言葉も本心なのだろう。
ただ、私には良くなかっただけで。
「大丈夫です、大丈夫です。なんともないですから」
誰かに聞かせるように私は話す。
先にお礼を言っておかないといけない、話を中断してしまったようだし。
「その節はどうもありがとうございました。
疲れていたみたいで、無事正気に戻ったので大丈夫です。」
「それなら、よかった。」
笑顔で彼は答える、それが先のお礼のことなのか、それとも私の無事を案じてなのか。多分両方なのだろう。
「それで、なんであんなことをしようとしたんですか?」
「あんなことって…?」
「いえ、だから身投げなんて」
そういえば、なんでだろう。
私は何をしてたんだっけ。
目線を右上にあげて思い起こす。なんであんな場所なんかに、もう
10時だというのに―――って。
「――あっ、もう10時!?学校行かなきゃ!」
目の前の彼が平然としてるから忘れてたけど今日金曜日じゃないか。
というかなんだってあなたはそんなに平気なの、もしかして不良!?
「え?今日学校あるんですか?」
「今日学校ってそりゃあるでしょ!」
「土曜日なのに?」
「土曜日だからっ―――え?」
スマホを開いてみる。うん。今日は土曜日だ。
「ホントだ。じゃあなんで私制服で学校に向かってたんだろ・・・」
"あぁ、おはよう。明日は土曜日だから今日ばっかりは遅刻すると損だよ"
「―――っ」
まただ、今日はよく思い出す。
あれ、でも私の子供の頃こんなことあったかな。
「まただ。もしかしてなんですけど、あなたも視える人なんですか?」
体が強張る。
この人は私に何が視えるかじゃなく、視えるかどうかを聞いている。
「あなたは、一体。」
「知り合いに同じように視える人が居るんです。それとそっくりだったからそう思っただけなんですけど・・・。」
今日は驚いてばかりだ。
なんだってこんな日に唐突に、求めてやまなかったものが訪れるのか。
「私みたいに、視える人・・・?」
本当ならもっと早くに知りたかった。
私以外の、視える人。
「会ってみますか?ここから少し遠いですけど、会えると思います。」
「是非、お願いします。」
目まぐるしく色々なことが起きて、混乱しているけれど。
好奇心に従ってみることにした。きっと、何かが変わるから。
「あ、でもその前に。お名前をお聞きしてもいいですか?」
まるで今気づいたかのように彼は目を見開く。
いや、多分気づいてなかったとおもう。
「ご、ごめん。まずは自己紹介からですよね。
僕の名前は画龍点睛といいます、高校生です。」