銃声はどんなモノにも平等に響く
なななんさまの活動報告でのお題から出てきた作品です。
「エレノア、どうした」
「先生」
エレノアと呼ばれたソレは振り返る。
ぼこぼこと膨れる巨大な肉塊。薄い皮膚の下に走る赤黒い血管が、浮き上がり、醜悪さを引き立てている。
その肉塊には人間の白い手足が、悪い冗談のように生えていた。
さらに肉塊の上部。
そこに乗っているのは、少女の頭部。紫水晶のような瞳から、透明な液体が一筋流れ、煌めいた。
宝石のように天井の人工魔法灯の明かりを反射し、吐き気を催す汚泥のような体を滑り落ちる。それが悲しいほど美しかった。
「死なせて。先生の手で」
……返事の代わりにクルークが向けたのは、銃口だった。
一体、どうした。
なぜ。
どうして、君は。
益体もなく連なる疑問の答えなど、要りはしない。
体温よりも高い想いも言葉も、喉に引っかかって、詰まらせるだけ。仕方なく飲み下せば、苦く広がって染みていく。
エレノア。魔導研究員である自分の優秀な生徒であり、助手。
自分を慕ってくれる、エレノアが可愛かった。自分よりも遥に下の年齢で、当時の自分には構築不能だった魔法理論を立てる、才覚に嫉妬した。
だからエレノアにも隠れて。
人の遺伝子に魔法生物の遺伝子を組み込み、人の魔力総量を底上げする、禁忌の研究を進めていた。
それに気づき、手を出した結果がコレだ。
彼女に追いつかれまいと前以上に研究を推し進め、必死にプライドを保っていた、自分。
そんな自分を追いつけないほどの傑物だと勘違いして、失敗してしまったエレノア。
人の許容量を超えて、ぶよぶよと膨張した組織がてらてらと光っている。手首、足首より先と顔。首よりも上部分だけが人間の形を保つ、ソレ。
生きている。
意識もそのまま。
望み通りに、魔力総量も上がった。
嗤ってしまうほど、愛しくて、醜悪な、自分自身の欲望と罪の結晶。
引き金にかかった指に小さく力を入れる。
銃身の根元にある魔室に装填された弾丸が、溜まった火魔法の底部を叩き、雷魔法が点火。高圧に膨らんだ火魔法が弾丸を押し出した。
綺麗に額の真ん中を射抜いたことを確認し、ごり、とこめかみに魔道具を押し付ける。
さよなら、も。
謝罪、も。
後悔、も。
愛の言葉、も。
どんなモノにも平等な銃声は、もう一度、研究室の空気を震わせ――。
――長く尾を引いた後、全てが無意味に消えた。