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先生、誤解なんです!16

「ぼ、暴力を振るうなんて、どうかしてますよ!」

「それがどうした!! 私の大切な生徒を陥れようとした貴様なぞ、今すぐにでもこの場で殺してやりたいくらいだ!!」


 普段厳しく、何度も生徒達に怒っている姿は見たが、ここまで激昂する姿は一度もなかった。


「それと、タバコの件だが、あれも貴様が吸っていたものだろ。貴様が近くのコンビニで同じ銘柄のタバコを買っていたところを私は何度も見ている。言い訳は通じないと思え」


 冷静になった西尾先生はそう伝える。


「田中先生、丹波先生をお願いします。それと、田中先生がタバコを吸っていたことも上に報告させてもらいます。いいですね?」


 田中先生は肩を落としながら、崩れ落ちた丹波先生に肩を貸して、その場を去っていった。

 美化委員達にも明日改めて話をするということで、解散となった。

 漆葉達が連れてきた生徒達もその場を後にする。

 退学の危機に陥っていたが、気がつけば全てが解決してしまった。

 色々聞きたいことがあるが、まずは西尾先生に感謝を伝える。


「西尾先生、ありがとうございました」

「……なんのことだ。私は教師の仕事をしたまでだ」


 仏頂面の西尾先生の言葉が頭の中で再生される。


『それがどうした!! 私の大切な生徒を陥れようとした貴様なぞ、今すぐにでもこの場で殺してやりたいくらいだ!!』


 俺なんかでも、偏見などせずに一人の生徒として見てくれていることに、思わず頬が緩む。


「……あ! そういえば、なんで漆葉達は西尾先生と一緒にいたんだ?」

「あぁ、それは、西尾先生にも協力してもらってたからなんだ。さっきの生徒達を説得するためにね」


 丹波先生が危害を加えていた生徒のことか。


「都和瑠と西先、どうやら私達が丹波と昼食とってる間にさっきの奴らを説得してたみたいなんだよねー」

「しょうがないんだ。昨日の昼休みに、僕があの人達と話してるところを丹波先生に見られちゃって。そしたら、あの人達脅されちゃって口を閉ざしちゃったから。説得するためにも、丹波先生の動きを止めて、尚且つ確実に説得するためには西尾先生の協力が不可欠だったんだ」


 俺の知らないところで、そんなことをしていたのか。


「漆葉から今朝頼まれてな。事情を聞き、対応したまでだ」

「ですが、丹波先生の言動に関しては、もっと前から注意していれば、こんなことにならなかったのでは?」


 と、純花さんは指摘する。


「生徒との距離が近いことは問題上がっていたが、その他に関しては噂程度にしか流れてこなかったからだ」

「噂とはいえ、教師ならば何かしらの対応をするべきでは?」

「噂が回っていた時にはすでに、教師からの信頼を得ていたせいもあり、私以外は対応しようともしない。そういうこともあって、私も表立って動くことが難しかったんだ」


 純花さん、妙に西尾先生につっかかるな。


「そんなことは後からどうとでも言えます。結局、お父さんが何もしないせいで陽太君が辛い思いをしたんですから」

「む……それはすまないと思っている」

「私ではなく、陽太君に謝ってください」

「そうだな。すまない嵐」

「いえ、こうして疑いが晴れましたから。お父さんが──」


 時間にして5秒ほど、その場が静まる。


「「「お父さん!?」」」


 俺達三人は声を揃えて驚く。


「あ、つい」

「純花。学校ではお父さんではなく、西尾先生と呼べと言っているだろ」

「そう言っていますが、先ほどお父さんもスルーしたじゃないですか」

「……そうだったかな?」


 どうりで当たりが強いわけだ。

 嫌いだからではなく、家族特有の距離感から生まれる態度だったんだ。


「でもなんで!? 西先と純花って苗字違うじゃん!」

「父は婿入りで、学校では旧姓を名乗ってるんです」

「そうなの? 先生が婿入りってなんか以外。てか、よく今まで親子ってこと気づかれなかったね」

「親が教師だと他の生徒に気づかれたら、贔屓をしていると勝手に噂するからな。なるべく隠していたんだが……まぁ、お前達なら問題ないだろう。ついでに聞きたいこともあったしな」


 そう言うと、俺を睨む。


「噂では、純花が嵐に脅されて付き合わされてるらしいが」

「ち、違いますって!」

「そうです。私と陽太君は恋人です……それはつまり、自他共に認めているのだから、噂は間違いじゃないということに」

「俺とは親友っていう設定はどうしたの純花さん!?」

「嵐……」


 ゆっくりと俺に近づく西尾先生。


「先生、誤解なんです! 俺は純花さんとは──」


 俺が言い終える前に、西尾先生の手が俺の肩に置かれる。


「せ、先生?」

「不満を持っているわけではないが、私は……息子が欲しかった」

「は、はぁ……」

「そして、お前のような息子が持てることは、大変喜ばしいことだ」

「西尾先生?」

「別にお義父さんと呼んでも構わんぞ」

「西尾先生!?」

「純花、しっかりと嵐のことを支えるんだぞ」

「お、お父さん。認めてくれるんですか?」

「当たり前だ。偏見などに不貞腐れず、真っ当に生きている嵐は素晴らしい男だ。いい男を選んだな」


 なんでちょっと微笑んでるんですか西尾先生?

 純花さんもなんでちょっと涙声なんですか?


「では、私はこれで失礼する」


 西尾先生が去り、残された俺達。

 なんなんだこのオチは。

 問題解決したら、別の問題が出来たんだけど。


「よかったですね。親公認のカップルです」

「……いや、恋人じゃないからね純花さん!」

「うわー、西先が純花のお父さんだってことだけでもお腹いっぱいなのに、その西先が陽太を息子にしたいほど気に入ってたなんて……まるで漫画かアニメみたいな展開よね。都和瑠そう思うでしょ? ……都和瑠? 返事ぐらいしなさ──都和瑠!? ちょ、しっかりするし!」

「なんて素晴らしい展開なんだ。あ、そっか……ここは二次元の世界か」

「三次元だし! 現実だから! ちょ! 気絶すんな!」


 最後はなんだかぐだぐだしたが、こうして俺の冤罪事件はこうして幕を閉じたのだった。

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