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先生、誤解なんです!14

 翌日、登校した俺を迎えたのは、学校中からの冷ややかな視線だった。

 俺が花壇荒らしの犯人だという噂が流れたことは知っていたが、噂に尾ひれがついていき、学校で度々発見された吸い殻についても、俺が隠れて吸っていることになっていた。

 早く教室に行こうと、早歩きで廊下を進んでいると、見たくもない顔が向こうからやってくる。


「やぁ、嵐」


 数名の女子生徒を侍らせている丹羽先生が、笑顔で声をかけてくる。

 俺は無視して横を素通りしようとしたが、丹波先生の腕が道を遮る。


「おいおい、朝の挨拶ぐらいはしないとダメだろ?」

「……おはようございます」

「あぁ、おはよう。ところで、嵐、昨日も一昨日も、俺のところに来なかったけど、なんで来ないんだ?」

「用事なんてないですから」

「いや、あるだろ? 例えば先生が預かってる落とし物とか」

「生徒手帳があるからって、俺が犯人とは限りませんよ」

「誰も落とし物が生徒手帳とは言ってないんだけどな」


 ニヤニヤと笑いながら、的確に俺の神経を逆撫でる。


「でも、本当に悲しいな。美化委員の子達が頑張って植えた花をあんなにも荒らしてしまうなんて。犯人に心はないんだろうか」

「……どうでしょうね。俺は犯人じゃないんで知らないですけど」

「うっわ、素直に謝らないとかダサすぎじゃん」


 取り巻きの女子生徒が軽蔑した目を向ける。


「丹波先生が謝るチャンスあげてんのに、全然謝らないなんて。あたしらが育ててた花をあんなにしといてさ」


 あたしら? ってことは、もしかして。


「この子達は全員美化委員の子達だよ。花壇を荒らした人をどうしても許せないって。でもね、誰だって間違うことはあるんだ。きっと犯人も、ちょっとイラついた出来事があって、たまたま近くの花壇を荒らしてしまったんだ。だから、君達、犯人が心からの謝罪があった時には、許してほしいと彼女達にお願いしたんだ。ね?」


 彼女達に笑顔を振り撒くと、取り巻きの女子生徒達はうっとりとした表情を浮かべる。


「でも、それもダメかもしれない。先生も明日この学校とはさよならしなくちゃならない。だから、その前には、この件は結着をつけなくちゃならない。どんな形でもね」


 俺の肩に軽く手を置くと、俺のすぐ横で囁く。


「覚悟しておけよ」


 俺の後方に歩いていく丹波先生と女子生徒達。

 おそらく、丹波先生は今日、何かしらの行動をしてくるはずだ。

 もう俺に残された時間はない。

 急いで自分の教室に行き、このことを九十九達に話した。


「おいおい! 本当にクズだな丹波の野郎!」

「落ち着きなって」


 怒り狂う九十九を宥める漆葉。


「落ち着け落ち着けって言うけどな! もう時間ないんだぞ! あいつのことだ、今日花壇を荒らした犯人を嵐ってことにして済ませるつもりだ! 最悪、タバコの件も一緒にな!」

「それはわかってるよ!」

「いや、お前はわかってないだろ! わかってるんだったら、なんでそんなに落ち着いてられるんだよ!」


 漆葉の胸ぐらを掴む九十九。

 大声もあって、周囲のクラスメイト達からの視線が一気に集まる。


「よせ、九十九」


 俺の静止で少し冷静になったのか、舌打ちをして手を離す。


「こうなったら、俺が丹波を問い詰めて、殴ってでも吐かせてやる」

「それはダメだよ。そんなことしてもなんの解決にもならない。吐いたとしても、恐喝だから誰も信じちゃくれない。もし吐かなかったらそれこそ最悪。嵐の仲間からの恐喝に屈せず、自分の信念を貫いた先生ってことで、評価を上げるだけ」


 悔しいが、漆葉の言う通りだ。

 結局、丹波先生が自ら白状しない以上、丹波先生に対して俺達が行動を起こせば、全て自分に返ってくる。

 証拠を集めるにも、もう俺達には時間が残されていない。

 それでも、俺は最後まで諦めないと決めたんだ。


「時間はないかもしれないけど、俺は最後まで諦めない。絶対に無実を証明する」

「結局、昨日と同じで証拠集めかよ」

「そのことなんだけど……二人共、今日は普段通りに過ごしてほしいんだ」

「……は? ちょっと待てよ。普段通りって、つまり何もするなってことか?」


 漆葉の発言に聞き返す九十九。

 俺も漆葉の言葉に耳を疑った。


「そうだよ。今日は聞き込みも、何もしちゃいけない」


 言葉を失う九十九に変わって、俺が尋ねる。


「なんでなんだ?」

「今は言えない。でも、僕を信用してほしい」


 漆葉の策はまったく見当がつかない。

 だけど、漆葉の目は諦めたようには見えなかった。


「……わかったよ。漆葉を信じる」

「おい、本当にいいのかよ」


 九十九の質問に俺は首を縦に振る。

 被害者の俺がよしとしたために、九十九はそれ以上は何も言わない。

 それ以上の話し合いはなく、そのまま授業が始まる。

 板書された内容をノートに写していると、スマホの『トーク』に通知が届く。

 普段なら気にしないのだが、送り主が予想がついているため、教師に気づかれないように確認する。

 案の定、九十九からだった。


 大雅『本当にいいのか?』

 陽太『今授業中だぞ。スマホいじるなよ』

 大雅『いつも真面目お前が、今日は珍しく触ってるじゃん』

 陽太『で、何?』

 大雅『だから本当にいいのかって。お前がああ言ったから、俺は何も言わなかったけど、正直漆葉はもう諦めたんじゃないかって』

 陽太『そんなことはない。俺は漆葉を信じてる』

 大雅『さいですか』


 やり取りの最中、突然トークからグループ招待の通知が来る。

 ホストは梨花さん。

 授業中にわざわざグループの招待をしたってことは、何か急ぎの要件だろうか。

 すぐに招待を受ける。

 メンバーを確認すると、どうやら漆葉だけ招待されていないようだ。


 梨花『ちょっと聞きたいことがあるんだけど』

 純花『今は授業中ですよ』

 大雅『なんだ?』

 純花『九十九君、あなたもですか。授業中にスマホをいじらないでください』

 陽太『どうしたの梨花さん?』


 ……あ、純花さんがメッセージ全部取り消した。


 梨花『いや、授業始まる前に都和瑠から、丹波からの昼食の誘いを受けてほしいって』

 純花『私にもその連絡きました』

 大雅『はぁ!? あいつそんなこと頼んでたのかよ!』

 梨花『いやさ、昨日他の人から話を聞いてたんだけど、途中までアイツに捕まって、しっかりと話したいだとか、君達の誤解を解きたいとかで、明日……つまり今日のお昼一緒に食べようって誘われたの、私達』

 陽太『その時断らなかったの?』

 純花『断るよりも先に丹波先生はどこかに行ってしまって』

 梨花『でもそんな一方的な約束は無視しようと思ってたんだけど、その場面を都和瑠が見てたらしくて、今日になってこのお願いをされたってわけ』


 梨花さんのメッセージのすぐに、やれやれと言いたげなクマのスタンプが送られる。


 大雅『漆葉の奴、何考えてんのかわかんねぇ! 今朝も俺と嵐に何もするって言ってくるし』

 純花『それはどういうことですか?』

 陽太『事情はわからないけど、普段通りに生活をしてほしいって』

 大雅『さらに残念なことに、今日丹波が事件のケリをつけようとしてる可能性があるとわかった上でな』

 梨花『え? 何それ?? もしかして、私達の知らないところでなんかあったの???』


 俺は今朝の丹波先生とのやりとりを間接にメッセージで送る。


 梨花『なるほどねー……って、悠長なこと言ってる場合じゃないじゃん! 都和瑠は何考えてんのよ! こうなったら、お昼にでも丹波先生に文句言ってやる』

 純花『梨花さん、それはダメです。梨花さんにも私と同じメッセージをもらっているならば、今回の事件に触れることはしないでほしいとお願いされているはずです』

 梨花『そうだった……いやでも、このままじゃ陽太が……』

 陽太『梨花さん、漆葉の指示に従ってほしい』

 梨花『いいの? このまま何もしなかったら』

 陽太『そうかもしれないけど……漆葉のこと信じてるから』

 梨花『陽太そういうなら、私も大人しく都和瑠の言われた通りにするしかないわね』

 大雅『松園達はいいのか? 嫌いな奴と一緒に昼飯なんて』

 梨花『嫌に決まってんでしょ! でも、都和瑠のお願いになんらかの意図があるなら、無視するわけいかないじゃん』

 大雅『それもそうだな』

 純花『漆葉君の指示は全て聞き入れるとのことですよね。なら、もう授業に戻りましょう』


 純花さんのメッセージを最後に、トークのメッセージが止まる。

 俺達は漆葉の事を信じて放課後まで何もせず、普段通りの生活を送った。

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