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先生、誤解なんです!1

新章突入!

 長いようで短いテスト期間が終わり、俺達を待つのは長期連休の夏休み……なんだけど、


「はああぁぁぁぁ……」


 約一名はまだ夏休みとい夢を見ることは出来ないようだ。


「うっわ、ため息エグッ、キモッ、近づかないで」

「言い過ぎだろ!」


 あの一件以来、梨花りかさんと仲良くなり、最近では屋上でみんな揃って駄弁りながら昼食を取るようになった。

 なんというか……俺もちゃんと青春してるな。

 でも、一人だけ不服そうな人はいるけど。


「梨花さん、いつも一緒にいる友人と一緒に食べなくてよかったんですか?」


 相変わらず俺の隣を死守する純花すみかさんが尋ねる。

 無表情ではあるが、なんとなく純花さんの考えていることはわかってる。

 二人だけの時間を奪われてしまい、ご機嫌ナナメなんだ。


「別にいつも食べないといけない決まりもないし、それに純花と一緒に食べたかったし」

「……そうですか」


 あ、照れた。


「心配しなくても、毎日じゃないから。ちゃんと二人っきりの時間は邪魔しないからさ」


 そう言ってニマニマと横目で俺を見てきたので、咄嗟に顔を背ける。


「そういうことでしたら。でも、九十九君達も一緒にいるのは何故ですか?」

「あ? 別にいいだろ。友人が一緒に飯食ったらダメなのか?」

「親友である私がいれば十分です。それとも九十九君には漆葉君と嵐君しか友達がいないんですか? 可哀想に」

「やっぱお前俺のこと嫌いだろ! てか、お前も似たようなもんだろうが!」

「落ち着いてよ九十九。そもそも僕達と理由が違うよ。風無さんは美人で真面目だから近寄り難いけど、僕達は嵐と一緒にいるから」

「あーそうだな」


 宥める漆葉の言葉に納得した九十九。

 その場は収拾がついたけど、この場で傷ついたの一言も喋ってない俺なのは理不尽では?


「……ねぇ、大雅たいが都和瑠とわる

「ん?」

「なに?」

「あんた達って、純花のことは下の名前で呼ばないの?」

「なんでわざわざ呼び方を変える必要があるんだよ」

「だって、こうして一緒にたべてるんだしさ。言っちゃえば私達友達っしょ?」


 なんの疑いもなく梨花さんはそう言うと、九十九は口をへの字に曲げる。


「今のやりとりを見てよく言えるな。そもそも呼び方なんてわざわざ変える必要ねぇだろ。上だろうが下だろうが、呼びやすい方でいいんだよ」

「僕も九十九と同意見かな」

「そういうもんなの?」

「他の人達は知らないけど、少なくとも僕達はそんな感じ」

「そもそも地雷を踏みに行く勇気は俺達にはない」


 九十九達がチラッと純花さんを盗み見るが、特に純花さんは反応を示さない。


「でも陽太は純花のことは下の名前で呼んでるよ?」

「それは当然です。私達は親友なのですから。ね、陽太君」


 ここで俺に振らないでほしいかな。


「あー、はいはい。下の名前で呼ぶほど仲がよろしいんですね」

「あんた態度悪いわよ。もっと明るくいかなきゃ。なんせもうすぐ夏休みだかんね」

「俺が何で気が沈んでたかも忘れたのかこの鳥頭!」

「とっ!? あんたなんかよりも成績は遥か上だし! そもそも一緒に勉強しておいて補習とか、頭おかしいんじゃないの!?」

「まっ、まだテスト返ってきてないからな! 補修が確定したわけじゃねぇし!」


 その割にはずいぶん口元が震えているようだけど、本当に大丈夫なのか?

 テスト中に前の席から幾度ともなく鉛筆が転がる音がしてたけど。


「んで、今日はどの教科が返ってくる予定なの?」

「僕達のクラスは……数学じゃなかったかな?」

「げっ! 西尾かよ」


 げんなりとした表情を浮かべる九十九。


「あー、西先にしせんか。ご愁傷様」

「クッソ! ぜってー小言聞かされる! あいつ俺が反論すると毎回成績を引き合いに出すから嫌なんだよ!」

「西尾先生は、確か陽太君達のクラスの担任ですよね?」

「そうだよ。しかも九十九は先生に目をつけられてる」

「俺がなんかしたかよ!」


 なんもしてないけど、勉強もしてないから目をつけられてるんだと思う。


「西先厳しいからな。毎回私の服装にケチつけてくるし」

「それは梨花さんが正しい服装で来ないからでしょ。私が何度も注意をしているのにあなたは」

「えー? 言われるほどかなー?」


 自覚のない梨花さんの現在の服装はというと、少し動いただけで見えそうなほど短く折り畳んだスカートに、腰には邪魔になったブレザーを巻き付けている。

 ブレザーがないことでシャツ一枚となっているというのに、大胆に胸元を開けていることで谷間が露となっている。

 耳にはピアス。化粧も薄っすらとしているようだ。


「それで無自覚とは、呆れて何も言えません」


 一方の純花さんは、膝下まで伸ばしたスカートで、ブレザーの前をきっちり留め、歪みのないリボンが首元に添えられている。

 一切の隙も見せないと言わんばかりに規律に準じた服装。

 綺麗な黒髪のおさげが、より一層生真面目さを引き立てている。


「えー、でも結構男ウケいいんだよ? 現に私のおっぱいチラ見られたし。ね! 陽太」


 名指しされ盛大に吹き出し、慌てて取り繕う。


「な、何のこと?」

「とぼけなくても無駄だよ。そういう視線って、向けられた方はちゃんとわかってるんだから」

「いや、その……」


 確かの見たのは事実だけど、見えちゃうと追っちゃうというか、男の抗えない性分というか。


「陽太君?」


 純花さんは抑揚のない声で呼ぶけれど、顔が見れない俺は二人から顔を背ける。



「まぁまぁ。純花も怒らないであげなよ。陽太だって男の子だもん。それより、ちょっと耳貸して」


 俺達に聞こえないように耳打ちを始める梨花さん。

 なんだろう、この不安感というか危機感というか。


「梨花さん……放課後時間はありますか? よければお話がしたいのですが」

「オッケー」


 梨花さんは指輪丸の形にしているけど、一体純花さんに何を吹き込んだんだ?

 とはいえ、女子同士の会話を男の俺が尋ねるのは違うし。

 俺に被害が及ばなければいいんだけど。

 そんなことを考えていると、鐘の音が授業開始五分前を告げる。


「あ、やっべ! もうそんな時間かよ!」

「あーあ、五分前に席に座ってないと西先怒られるのに」

「授業に間に合ってんだから別にいいだろ。なのに西尾の野郎!」

「そんなこと言ってないで、早く行くよ九十九」

「あ! 待てよ漆葉!」

「じ、じゃあ、純花さん、梨花さん。お先に」


 慌てて二人の後を追う。

 階段を駆け降り、廊下を走る。

 まだ人が廊下を歩いているが、俺を視界に入れた途端にみんなが壁に張り付くように道を大きく開けた。


「こういう時、お前って便利だな!」

「自分の人相を一度も便利だと思ったことないけどな!」


 でもそのおかげで、思っていたよりも早く到着。

 すぐに教室後方の扉を開けて様子を伺う。

 教壇にはまだ誰も立っていない。

 西尾先生はまだ来てないようで、一安心。


「西尾先生、まだ来てないみたい」

「よかったぜ。西尾の野郎にどやされずに済む」


 二人は安心して教室に入るが、クラスメイト達の異変に俺は気がつく。

 何故か全員がこちらを向いているからだ。

 毎度悪い意味でみんなから視線は集めているが、今回は別。

 みんな顔面蒼白で俺達を……正確には教室に入ってきた俺達の()()に目を向けていた。


「ほう……授業ギリギリに入室だけでは飽き足らず、廊下を走ると言う愚行まで重ねておいて、お前達がそんな風に思っていたとはな」


 後方の人の気配にようやく気がつき、恐る恐る振り向く。

 細身の体に汚れのない黒のスーツを纏わせ、オールバック黒い髪をワックスで固めた中年の男性。

 への字に曲がった口元には皺が浮いているが、実年齢よりも若く見られているだろう。


「お前達、私に言わねばならないことがあるな?」


 刀のような鋭い目つきで、氷のごとく冷たい視線が注がれると、俺達……いや、教室にいる全員に緊張が走った。


「廊下を走ってすいません」

「今度からは時間に余裕を持って行動します」

「言い訳してサーセン」


 九十九の一言がかんに障ったのか、さらに九十九を凝視する。


「……言い訳してすいませんでした」


 畏縮した九十九はすぐに言葉を正して謝る。

 厳格な表情を崩さない西尾先生は、俺達を素通りして教壇に立つ。


「早く席に着け。鐘が鳴る」


 どうやら許されたようで、今度こそ胸をなでおろし、自分の席に座った。

 見計らったかのように授業開始の鐘が鳴る。

読んでくださり、ありがとうございます!

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