風無さん、落ち着いて12
「おまえふざけんなよ!」
今朝は九十九の怒鳴り声が教室の扉を開けた俺を出迎える。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃねぇ! 俺はさりげなく誘えって言ったよな!?」
誘え?
あぁ、橘さんのことか。
きっと手紙で呼んだことを誰かから聞いたのだろう。
風無さん曰く、俺が手紙を送ったことで話は持ちきりだったようだし。
「さりげなく誘うつもりで手紙出したんだけど、誰かに見られたみたいで」
「……まぁ、お前のことだから手紙で呼ぶくらいしそうだと思ってたから、お前が脅迫状だか果たし状だかを出したって噂が流れても特には驚かなかったさ」
その噂は知らないんだけど。
え、ラブレターとかじゃなくて?
俺が出す手紙はそんな恐ろしいものに変換されるの?
「だけどな! なんで風無に相談してねぇんだよ!」
「風無さんは首を突っ込まない方がいいって言われてたし、そもそも風無さんに言う必要はないと思って。というか、なんで風無さんじゃなくて九十九がそのことを怒ってるんだよ」
「お前の行動のしわ寄せが無関係な俺らの方に来てんだよ! 散々あいつがお前に対してはアグレッシブな行動をとることは分かりきってんのに、どうして地雷を踏み抜く行動してんの!?」
「そんな大袈裟な」
「本当に大袈裟か? 漆葉を見てみろ。昨日のことで今朝からずっと虚空を眺めてるぞ」
珍しく朝からこちらに来ないと思ったら、自席で座ってぼーっとしている漆葉。
なんて感情のない目をしてるんだ。
「一体何があったの?」
「昨日お前がさっさと教室から出てってすぐに風無が来たんだよ。どうせお前のことを聞かれると思って答える準備してたら、無表情のまま人を殺しそうな目つきで『嵐君はどこ? 答えなさい』って。正直殺されると思ったわ」
それは心からごめん。
「そんで、橘とは話せたのかよ?」
「まぁ、一応」
結局最悪の空気で終わってしまったけど。
「そりゃよかった。お前の手紙で素直に誘いにのってくれるとは微塵にも思ってなかったからな。まさか本当に脅迫状を送ったのか?」
ケラケラと笑う九十九に少し頭にくる。
「そんなわけないだろ。簡単な文だよ」
おかげで橘さんは何か勘違いしていたけど。
「んで、うまくいきそうなのか?」
「わからない。けど、このままにはしたくない」
「ということは、お節介をかけるつもりなんだな」
「それはもちろん」
「そうか。でも正直お前を見てると成功する気がしないんだけど」
反論しようにも、今のところほとんどの行動が裏目に出ている気がしてるので口を噤んだ。
「だから、俺と漆葉も協力してやる」
「……いいのか?」
思わぬ申し出に聞き返す。
「変なことおこされても困るからな。それに勉強をするよりかは遥かにいい」
とふざけた物言いはするも、きっと俺のために言ってくれたのだろう。
「ありがとうな」
「礼はいらん……だから勉強を教えてくれ」
「それが目的だったか。今日の帰りに図書室で勉強するつもりだったから、その時でいいなら」
「助かる!」
そのタイミングで鐘が鳴り、急いで席についた俺達。
それと同時にスマホが振動した。
急いで確認すると、『トーク』から通知が届いている。
相手は風無さんからだ。
『今日のお昼は忙しいので、昼食は九十九君達と食べてください』
風紀委員の仕事か?
でもテスト準備期間中だし、もしかしたら勉強なのだろう。
すぐに返事をし、授業の準備をした。
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