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嵐君、お付き合いしてください終

第1部・完!!

「と、いうわけで俺の身に起きたここ最近の出来事でした」


 あれから数日経ったある日、帰り支度を済ませた俺は今までの風無さんとのやり取りを九十九と漆葉に説明する羽目になっていた。

 原因は漆葉だ。

 九十九の手助けもあり、散々風無さんについてはぐらかしていた結果、とうとう我慢の限界を超えた漆葉が鬼気迫る表情で俺に詰め寄ってきたのだ。

 九十九に助け舟を出してもらおうと思ったが、ここまできた漆葉を止めるすべはないようで、首を横に振られてしまった。

 そして、仕方なく話してるというわけ。


「なるほどなるほどふむふむふむふむぐへへへへ」


 目を輝かせて一心不乱にメモを取りながら不気味な笑みを浮かべる漆葉。

 容姿的にその顔をお前は一番しちゃいけない。


「いやー創作意欲(妄想)が捗って仕方ないよ。これは是非僕の作品に生かしたい! それで?」

「それでとは?」

「え、いつセ○○○したの?」


 ……どうやら耳がおかしくなったみたいだ。


「あ、ごめん。直線すぎた。で、せ○○○を成功させたのはいつ?」


 おい! あどけない表情で何口走ってんの!?


「それ以上はセクハラだバカ」


 漆葉の頭に九十九拳骨が落ち、痛そうに机に突っ伏す。


「ありがとう」

「いいってことよ。まぁでも、相手が鉄仮面とはいえ、お前に彼女ができたのは喜ばしいことだよ」

「え?」

「え?」


 何かお互いに認識のズレがあるみたいだ。


「誰の彼女?」

「お前」

「相手は?」

「風無」

「付き合ってないけど?」

「はぁ!?」


 味方のはずの九十九がキレ気味に俺の胸ぐらを掴む。

 喧嘩と勘違いしたクラスメイトはただでさえ離れているのに、さらに俺達から距離をとった。


「なんで付き合ってないんだよお前は! どう考えても付き合う流れだろ!」

「いやいや! なんでそうなるの!?」

「相手はベタ惚れ! お前も嫌ってはない! むしろ好意的に見てる! それで何故付き合わんのだおどれは!!」

「お、俺の話をまずは聞こう! な!?」


 興奮している九十九だったが、まだ理性を残してくれていたためか、スッと胸ぐらから手を離し、聞き手に回った。


「嵐、付き合わないで二人のやり取りをニマニマする系のラノベもあるけど、付き合うことを延々と引き延ばされるとさすがに読者も怒るよ?」


 いつのまにか復活してる漆葉は、誰の目線で話してるんだろうか。

 とにかく、俺の言い分を聞いてもらおう。そうすれば二人とも納得してくれる……はず。


「えーっと、まずは風無さんがベタ惚れって部分。あれは間違い」

「あ゛ぁん?」


 ヤクザ顔負けのドスの効いた声に思わず背筋が伸びた。


「だ、だって! さっきも話したけど、最終的に俺じゃなかったんだよ? 風無さんの勘違いだよ」

「『嵐が忘れてるだけ』に一票。漆葉は?」

「『忘れてる』に一票」

「多数決の結果、『嵐が忘れてる』が過半数を超えましたので、お前の考察は否決となりました」


 当事者なのに!?


「で、でも━━」

「はい次の言い訳があればどうぞ」


 さっきの議題はもう取り合ってくれないんだね。


「わかった。仮に俺が忘れてるとしよう」

「いや、間違いなくお前が忘れてるだけだよ」

「忘れてると仮定しよう! でも、それは過去のことであって、今の俺を好きになったわけじゃ」


 九十九の顔が面倒臭いものを目の前にした時の顔つきになってる。


「いやもう好きじゃん。どうしたらそう思える」

「だって、ちゃんと話したのも最近で、それまでは朝の身だしなみチェックだけだよ?」

「これは嵐の言う通りだね。小さい時に会ってたとはいえ、風無さんと嵐はまともに話してなかったし」


 よかった。漆葉は俺の言い分を肯定してくれてる。


「でもラノベの世界じゃそんなことザラだから関係ないけどね!」


 現実と空想ラノベをイコールで結んじゃダメ。


「過去に会ってるならまだマシだろ。同年代には見た目だけで速攻で付き合う奴だっているんだ。それと比べれば遥かにお前らは健全だよ。それに、お前が風無と付き合わない一番の理由はそこじゃないだろ」


 言い切るあたり、俺がなぜ風無さんとのお付き合いを避けるのか感づいてるようだ。

 言いにくいけど、俺は口をゆっくり開く。


「風無さん、昔の俺を好きになってるみたいだけど、今と、昔じゃ、違うじゃん?」

「おう、そうだな」


 肯定する割には九十九の貧乏ゆすりが激しい気がする。


「だから、いざ付き合ったら、幻滅、すると、思うから」

「そんなこったろうと思ったよこんのバカ野郎が! 散々もったいぶらせといて、結局それか! その見た目で女子力高かったり、奥手だったり、いい加減にしろ!」


 再び胸ぐらを掴みキレる九十九。


「み、見た目は関係ないだろ!」

「そこじゃねぇ! せめて奥手を否定しろバカ! だいたいな!」


 九十九が言いかけた途端に教室の扉が開き、黒髪のおさげを揺らして入室する眼鏡美少女が一人。


「よかった。嵐君がまだいてくれて」


 他クラスだというのに動じず、自分のクラスかのように教室を歩く風無さんは、俺に近寄ってくる。


「さ、帰りましょうか」


 すでに決定事項ですと言わんばかりに、単刀直入に誘われた。


「え、いや、あのー」


 風無さんの話をしてたから、なんだか恥ずかしくて顔を見れない。


「なんですか?」

「い、委員会とかはいいの?」

「大丈夫です。特に集まらなければいけない議題はないので」

「そ、そうなんだー……でもごめん。この後九十九と用事があって」


 咄嗟に嘘をつき、口裏合わせのために九十九に視線を送る。

 九十九も俺の意図を理解し、小さく頷いた。


「用事? 九十九君、用事とは何ですか?」

「ねぇよそんなの。こいつのでまかせだ」


 裏切ったな九十九!!


「…………そうですか」


 異様に間が長くて怖い!


「九十九君はこう言ってますが」

「ま、間違えた! 漆葉! 漆葉だ! な、漆葉! そうだよな!」

「ううんまったくこれぽっちもそんな話してないしなんなら『あー、今日は美月さん飲み会だから本屋でぶらぶらしてもゆっくりスーパーで買い物できるなー』とか言ってたぐらいだよ!」


 そうだよねー!

 ラノベのネタとして面白そうな展開の方にお前は動くよねー!


「……………………すーっ、はー」


 何か言って!

 何も言われないのが一番怖いから!


「お、おい。あれやばくないか?」

「だ、誰か先生を━━」

「よせ! 風紀の女帝と暴風の一狼ロンリーウルフだぞ!? そこら辺の教師じゃ返り討ちだ!」


 俺達の話が聞こえてないのか、まったく聞こうとしないのか、クラスメイトは俺と風無さんのやり取りを遠くから観察している。

 というか、いつのまにか厨二病丸出しのダサい通り名がついてるんだけど!


「嵐君」


 会話中ずっと顔を背けていたけど、そろそろ限界のようだ。

 これ以上続ければ、後でそのツケが回ってきそう。

 俺は勇気を振り絞り、錆びたブリキを彷彿させるぎこちない動きで顔を向けた。


「私が納得する説明をしていただけますか?」


 前言撤回。顔を向けない方が怖い思いしなかったかも。

 風無さんは目を見開き、瞬き一つしないで俺をジッと見つめている。


「いや、わざわざ一緒に帰る必要はないんじゃないかなーって」

「何故ですか? 私と嵐君は友人、もとい親友という関係なのに何故一緒に帰るために理由が必要なのですか?」


 はいごもっともです。


「だから、それは」


 それらしい理由を考えるが、その間も風無さんは一瞬もそらさず、微動だにせずに待ち続ける。

 耐えきれない俺は降参の意味を込めて深くため息を吐いた。


「わかった、わかったから! 一緒に帰るから!」

「ありがとうございます。では帰りましょうか」


 俺は荷物を持ち、帰るんだけどその前に。


「九十九、漆葉。また明日」

「おう」

「またねー」


 挨拶を交わして俺は風無さんと共に教室を後にした。




「やっと行ったか」

「中々面白い展開になったね! これは創作が捗るよ!」

「お前はブレないな」


 教室から顔を出し、廊下を歩く二人の後ろ姿を眺める大雅と都和瑠。


「ところで、さっき嵐に何か言いかけてたけど、なんて言おうとしたの?」

「ああ、たいしたことじゃねぇよ。気にすんな」


 質問をさらりとかわそうとしたが、都和瑠は引かずに更に詰め寄る。


「えー、そういう風に言われると気になるよ。ね! お願い! 教えて!」

「本当にたいしたことじゃねぇよ。風紀委員としてでも一年間嵐を見てきたんだ。そもそもあんな顔する風無が嵐を幻滅するわけないだろって」

「あー、たしかに。それは僕も思った」


 そう言いながら二人は陽太の後ろをついていく純花の顔を眺める。

 そこには鉄仮面を脱ぎ捨てた、ただの恋する少女が幸せそうに笑っていた。

読んでくださり、ありがとうございます!

これにて第1部完になります

感想、応援、好きなキャラなど小さなことでも是非感想欄に記入を!

作者のモチベになりますので!

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