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嵐君、お付き合いしてください13

 あっという間に休日は過ぎ去り、月曜の朝。

 あいにく空模様は俺の心を写したかのように曇っていた。

 今日は門の前で風紀委員のチェックはなかったため、教室まで風無さんと会うことはなかったけど、必ず顔を合わせることになるよな。

 そう思うと自然とため息が漏れた。


「おいおい、どうしたんだそんなデカイため息吐いて」

「そんなことしたらみんな逃げちゃうよ」

「幸せじゃなくて、みんななんだ」


 漆葉の言葉に少しだけ傷つくが、それ以上に風無さんのことで頭がいっぱいでそれどころじゃない。


「思ってたより反応薄いね」

「何があったか知らんが重症だな」


 こそこそと話す二人をよそに俺は机に突っ伏す。

 俺がいなくなってから風無さんと高森はどうなったんだろうか。

 もしかしたら勘違いは解消され、二人の間にあった溝が埋まってそのまま付き合うことになったのでは。

 って、どうして俺はそんな想像をして残念がっているんだ。

 それはいいことなんだ。

 両想いならば結ばれて当然。

 物語でいうなら高森が主人公。風無さんがヒロイン。そして俺はただのモブ。

 なのに俺が二人の関係に入り込んでしまったせいでこんがらがってしまっている。明らかにイレギュラーだ。


「……ねぇ、嵐」

「なんだよ漆葉。俺ちょっと眠たいからそっとしてほしいんだけど」


 眠くはなかったが頭の中を整理したいため体勢を変えずに不愛想にそう答える。


「そうしてあげたいのはやまやまなんだけど」


 歯切れの悪い漆葉。


「そうしてほしいならあいつをなんとかしろ。滅茶苦茶睨んでくるから落ち着かねえんだよ」

「あいつ?」


 九十九は廊下側の窓を指差す。

 不機嫌そうに俺を睨んでいる風無さんに思わず苦笑を浮かべる。


「お前何したんだよ! いつにもましてあの鉄仮面チョーこえーんだけど!」

「いや、なんというか、その」

「僕達の知らないところで何かイベント発生してたの!?」


 風無さんに聞こえないように話すが、これはどういえばいいのだろうか。

 正直に話しても九十九のことだからキレるだろうし、漆葉に関しては喜びそうだ。

 そんな中、困っている俺を救う声がかけられる。


「嵐君。少しいいかしら」


 うん違う。決して救ってくれる声じゃないな。むしろ悪い方に転びそう。


「おい! 呼ばれてるぞ! 早く行けって!」

「気のせいだきっと。仮に呼んでたとしてもそれは俺じゃなくて別の『嵐』のことかも」

「お前意外にこのクラスに『嵐』はいねぇんだよ!」


 九十九が何と言おうが、俺は聞こえないふりをする。しかし……


「嵐君。早くしてください」


 普段よりもワントーン低い声で、なおかつ鋭さを増した目で俺を見てくる風無さん。

 俺は身の危険を感じ、おとなしく席を立って風無さんに近寄った。


「お、おはよう、風無さん」

「……おはようございます」


 たったワンテンポ遅い返事をされただけ自然と背中に汗が流れる。

 いつものように無表情ではあるけれど、今回は分かる。

 相当お怒りのようだ。


「あの、その……」

「今日の昼休み、屋上に来てください」

「昼はその、九十九達と一緒に食べる約束が」

「待ってますから」


 言いたいことだけ言うと自分のクラスに戻っていった。


「どうしたの?」「風無さんと嵐は何話してたんだ?」「また嵐がしでかしたのか?」「やっぱりそうなんだ」


 会話は聞こえてないものの一部始終見ていたクラスメイトの視線が注がれる。

 さらに俺とクラスメイトとの距離が離れていく。

 そもそも『また』ってなんなんだよ。

 校則違反なんて一回もしたことない模範生徒だぞ。

 服装も整えてる方だし。

 色々と心や頭の整理をしたいが、無情にも鐘がなってしまった。



 そんなこんやであっという間に昼休み。

 今日ほど昼休みがこないでほしい、あるいは時間が消し飛んでくれないかと思ったことはない。

 無視して屋上にはいかないというわけにも。

 今の風無さんならとんでもないことを平気でしそうだし。

 結局俺に残された道は屋上へ向かうことただ一つだった。


「行ってくる」

「お、おう」

「頑張ってね」


 二人に見送られ、俺は屋上に上がる。

 屋上にはすでに風無さんがベンチに座って待っていた。


「おまたせ」


 声をかけるが返事はなく、黙々と弁当を食べる風無さんの隣にゆっくりと座って同じように食事をとる。

 風無さんは黙ったままで気まずい。

 なんとか話しかけたいところだけど、下手に話を振れば地雷を踏む可能性があり、恐ろしさで話しかけることができない。

 どうする。考えるんだ俺。


「嵐君」

「は、はひぃ!」


 思わず情けない声を上げると、キッと風無さんが俺を睨み、自然と背筋が伸びた。


「一昨日はどうして先に帰ったんですか?」

「そ、それは、用事を思い出して」


 と薄っぺら嘘を吐いてみるけど風無さんは納得していない様子。

 これは誤魔化すことはできないな。


「……風無さんを守れなかった自分が情けなかったから」

「誠司君の言葉を気にしてるんですか? それだったら気にしないでください。私はなんとも思ってませんから」


 風無さんのフォローを首を横に振って否定する。


「風無さんが気にしなくても、やっぱり俺は気にしちゃうんだ。俺なんか一緒にいるより高森と一緒にいた方がって」

「どうしてそこで誠司君の名前が出てくるんですか」


 しまった。余計なことまで言ってしまった。


「い、いや! 高森は正義感強いし、それに久々に再開したのに部外者の俺がいたら深い話もできないでしょ?」

「……どうしてですか」


 体を震わせている風無さん。


「ど、どうしたの?」

「あの日、私が一緒にいたかったのは嵐君です。誠司君じゃありません」


 風無さんは声を絞り出してそう言う。

 しかし俺の脳裏にはあの記憶がちらつく。


「風無さん、どうして俺と一緒にいたかったの?」

「私は、あなたが好きだから」


 躊躇いもなく答えるが、俺はさらに続けて質問を投げる。


「なんで俺が好きなの?」

「それはあの日嵐君と出会って、好きになったから」


 ここまで聞いたのだから、後戻りはできない。


「本当にあの日助けたのは俺だったの?」

「どういう、ことですか」

「言葉の通りだよ」


 無愛想に答える俺。


「風無さんはきっと勘違いしてるんだよ。子供の俺が誰かを助けるほどの度量があるとは思えない。現に一昨日だって、風無さんを守れなかった。きっとそれは俺じゃなくて別の━━」


 俺がその先を言う前に乾いた音が鳴り、頰に鋭い痛みが走る。


「手を上げてすいません。ですが、嵐君からそんな言葉は聞きたくありませんでした。これで失礼します」


 立ち上がった風無さんは足早に屋内に戻っていった。

 呆然としている俺はふと足元に視線を向ける。

 先ほど風無さんがいた辺りに数滴水が落ちたような跡が残っていた。

 もしかして風無さん……

 と、考えていると、熱を帯びている頰に冷たいものが落ちてくる。

 次第に白色のコンクリートに灰色のまだら模様が浮かぶ。

 もうどれが風無さんの涙だったのかもわからない。

 でも雨はそんな事情など知らずにさらに強さを増していく。


「これでよかったんだ。これで」


 しばらくボーッと雨雲を眺めてから雨で台無しになった弁当をしまって屋上を後にした。

 教室に戻る途中、何度もみんなから恐怖を含んだ目を向けられた。

 俺は気にせず突き進むと、生徒は道を空ける。

 まっすぐ教室に戻ると、クラスメイトだけでなく、九十九や漆葉までもがギョッとした顔をしていた。


「どうしたの!? びしょ濡れだよ!?」

「ほら! 早くこのタオルで拭け!」

「ありがとう」


 九十九からタオルを受け取り、そ顔を隠すように被る。


「何があったんだ」

「風無さんと何かあったの?」


 二人共心配してくれるが、俺は「なんでもない」と答える。

 何度問い詰められても同じ答えを返す。

 俺に話す気がないと分かると、それ以上聞こうとはしなくなった。

読んでくださりありがとうございます

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