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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第一章 ひよっこ魔女の旅立ち
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7話 (勝手に)家に住もう!

意気込んだヒカリだったが、問題はどこで作るかだ。


 魔女の薬を作るには魔力を使う。師匠に「人前で魔法を使うな」と言われている以上、魔力を扱う所も見られない方がいいいだろう。


 できればどこかの個室に籠ってやりたいが、稼ぎが不確かな今、宿なんかに泊まるのは贅沢ではなかろうか。

 ――もしもに備えて、お金はとっておくべきだよね。


 ならばいっそのこと、昨日のボロ家に行こうかと考えた。結局あれから今朝まで誰も来なかったし、なんならこのまま住み着いてしまうのはどうだろう。


 なにせ玄関に鍵もなく、強風が吹けば屋根が飛びそうなボロ家だ。暖炉付近の形跡からすると、きっと今までだって家のない人達が使っていたに違いない。

 ――よし、そうしよう!

 そうと決まれば移動である。ヒカリは食料で膨れた荷物を背負って再び先ほどのカラフルな通りまで戻ってきた。


「……あれ?」

先だって通った時は気付かなかったが、一際派手で立派な建物の看板に「魔女の館」と書いてある。文字は師匠から学んだものとは若干違うものの、ちゃんと読めた事に安堵する。


「なんだ、この街にも魔女がいるんじゃんか」

だったらどうして薬がないのか不思議だ。魔女がサボっているのか、はたまた薬を作るのが得意ではないのか。とりあえず「ちゃんと仕事しろ魔女!」と文句を言いながら、その建物の前を通り過ぎていく。


 そんな事もあったが、無事に例のボロ家に戻ってきた。確認すると、中には誰もいないようだ。

 早朝は人の姿がなかったが、日が高くなった今の時間は、隣の家に薄汚れた格好の子供たちが出入りしていた。あそこは彼らの家なのだろうか。


「こんにちは」

これからはお隣さんになるのだからと、ヒカリは挨拶した。すると彼らの中の少年が一人振り返り、ヒカリを胡散臭そうな目で見た。年の頃は十歳くらいだろうか、ちょっと怖いと感じたが、これでめげていてはここで生きていけない気がして、勇気を出して話しかけた。


「ねえ、ここの家に勝手に住んだら怒られる?」

ボロ家を示したヒカリの質問に、少年は呆れたように鼻を鳴らした。

「誰が怒るんだよ、このあたりは全部捨てられた場所なのに」

こちらの無知を馬鹿にした言い方だが、住んでいいらしいことがわかってヒカリは満足だった。


「そう、なら良かった! あ、あとどっかに板切れとか棚が拾えるゴミ捨て場がない?」

ついでとばかりにもう一つ聞いてみる。使えそうな粗大ごみや日用品が、タダで手に入ればラッキーである。

「……あるけど、うちのガキどもの取り分を奪うなよ?」

無視されるかとも思ったが、少年は答えてくれた。

 そしてゴミ拾いは子供の大切な稼ぎのようだ。

「わかった、気を付ける!」

ヒカリは早速、少年が教えてくれたゴミ捨て場に行ってみた。


 そこには大人と子供が入り混じり、様々な物を漁っていた。

 捨ててある物も様々で、明らかに壊れている物からまだ新品ではないかと思える物まである。

 しばらく眺めていると、荷車を引いた男がやって来て、載せていた荷物を捨てていく。するとわっと人が集まって、ごみを検分し始めた。


 体力のある大人は大きな家具などを主に拾い、重いものを持てない子供は小物類を拾っている。あれらを見られる程度に修理して売るのかもしれない。

 ――邪魔しないようにしながら頑張ろう。


 ヒカリも早速漁りに行く。今回の目的の物は、ボロ家の隙間風を塞ぐための板だ。

 綺麗な板状であるものは少なかったので、壊れて修理もできなそうな家具の板を剥し、ついでに錆びたノコギリにハンマー、釘も拾っていく。


「……重っ! 欲張りすぎたかも」

だが分けて運ぶと、戻ってきた時に板が残っている保証はない。ヒカリは頑張って大量の板を持ち、ヨロヨロと歩く。

 ボロ家に帰ったらDIYの開始だ。

 ――よし、やるぞ!


 荷物を目の届く所に置いたヒカリは、改めて家の間取りを確かめた。

 建物は平屋建てで、六畳程度の部屋が二つに奥がキッチンとなっている。

 外壁の板は雨風に晒されて相当傷んでいるが、中の柱は意外と綺麗に残っていた。柱にいい木材を使ったのだろうか。


 外壁を直せば、案外ちゃんとした家になるのかもしれない。がぜんやる気を出したヒカリは、早速作業にかかる。

 傷んだ壁を剥し、板のサイズをノコギリで揃え、釘で貼りつけていく。


 ヒカリがハンマー片手にトンテンカンテンやっていると、隣の家から先ほどの少年が顔を覗かせる。

「……アンタ、上手いな」

思わぬ称賛を貰い、ヒカリはニコリと笑った。

「今までなんでも自分で作っていたからね」


山奥の師匠の家で、家具を買えるはずがない。

 寝ていたベッドもタンスも、愛用している杖さえも、全てヒカリの手作りだ。

 運動神経は皆無でも、手先の器用さはなかなかで、三年間でDIYの腕はメキメキ上達した。

 異世界に来て初めて気付いた得意技能である。


「あ、そうだ。ゴミ捨て場を教えてくれたお礼に、なんならどっかの穴塞ぎを手伝うよ?」

ギブ&テイクの精神で、親切を受けたからには返したい。ヒカリのそんな思いが通じたのか。

「……屋根の雨漏りを直したいけど、上手くできないでいる」

少年がそんな告白をした。確かに子供の体格で屋根の修理は難しいかもしれない。


「ようし、お姉さんに任せなさい! 塞ぐ材料は確保しているの?」

「……ある」

まるで野良猫に懐かれた気分になったヒカリは、風穴補習の作業を一旦中断して隣の家にお邪魔すると、屋根の修理に乗り出す。

 しっかり者の少年はその間、放置された荷物を盗まれないように、ヒカリの家に見張りを立ててくれた。


 下山して街に入ってから二日目、ご近所付き合いのスタートも順調な滑り出しである。

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