表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第六章 荒廃の王都
53/59

53話 城へ突撃!

対策を練りながら小屋で夜を明かした、翌朝。

「さっさと行ってさっさとやろう!」

朝食を済ませたヒカリは荷物を背負い、杖を握り直す。

 グズグズしていても状況は悪化するばかりだし、むしろ自分たちまでゾンビの仲間入りのリスクが高まる。

「準備はいいか?」

「薬と杖は持った!」

オーレルの確認に、ヒカリはそう返す。


 今回の王都潜入において、荷馬車は行動の邪魔になるので、子供たちのいる小屋に置いていくことにした。

 ヒカリたちは無事に戻るつもりだが、万が一の場合はこれで子供たちに脱出してもらうためでもある。

「もし私たちが数日で戻らなかったら、この荷馬車で王都とは反対側にある街か村へ行くんです」

オーレルはクリストフに言い聞かせていた。

 そうして王太子に助けを求め、王都に決して近付くなと。


「もちろん、もしもの事態だからね? ちゃんと帰って来る気でいるし」

様子を見に行ったまま帰って来なかった大人たちを思い出し、しゅんとした子供たちに、ヒカリはニパッと笑った。

 ここに残る子供たちが心配ではあるが、昨日の余ったお肉を魔法の氷で作った即席箱型冷蔵庫に仕舞ってあるし、棒パンの作り方も教えたので、食糧はしばらくもつだろう。

「それじゃあ、いってきまーす!」

「森の獣には十分に気を付けろ」

小屋を出立するヒカリたちを、子供たち全員が見送ってくれる。

「気を付けてくださいねー!」

二人の姿が見えなくなるまで、クリストフがそう叫んでいた。



ヒカリとオーレルは昨日荷馬車で通った獣道を、徒歩でゆく。

 体力のないヒカリのために休憩を挟みつつ歩いて行き、午前中のうちに王都に到着した。

 本来王都を守るべき門は、まるでお化け屋敷の入り口のようで不気味である。

 ――ゾンビが徘徊しているんだから、街全体がお化け屋敷といっても間違いじゃないよね。

 ヒカリはどちらかというと、そう言ったオカルトめいたものは苦手な性質である。

 魔女のくせにということなかれ、魔女でも怖いものは怖いのだ。


「で、どうやってお城まで行く?」

「とりあえず、魔物を回避する方向で行くぞ」

ヒカリが尋ねると、オーレルが方針を告げた。

 ゾンビは一体に見つかると、仲間がわらわらと寄って来る習性があるようなのだ。

 なので回避できるならそれに越したことはない。

 ――ゾンビ軍団にまみれるなんて、絶対御免だしね。

 それに相手はとっくに死んでいるのだから、戦っても倒れるということがない。

 そんなものをまともに相手をしていたら、時間と体力を無駄にとられるだけである。


 というわけで、ヒカリとオーレルは細路地を上手く使ってゾンビをかいくぐりながら、城へと向かうことになった。

 けれど王都というものの規模を、ヒカリは舐めていた。

「……まだ着かないの、お城」

ヒカリはゴミ箱の陰に隠れてゾンビをやり過ごしながら、見えているのに一向に辿りつけないお城を恨めしく思う。

 ヒカリは走ってしゃがんで隠れてと、普通に歩くよりも数倍疲れる進み方をしているせいもあり、早々にバテていた。

 これは魔力を吸われているからということもあるが、オーレルとの疲れ具合の違いから、体力不足も否めない。

 森歩きでも街歩きでも、お荷物なヒカリであった。


「ヒカリお前、店に籠っていないで走り込みでもした方がいいぞ。そこいらの子供の方がもっと持久力がある」

「……善処します」

オーレルからの苦言にも、噛みつく元気がない。

 ヘロヘロ状態で城に突入するわけにもいかないので、ひとまず安全な場所で早めの昼食休憩となった。

 取り出したのは今朝小屋で作って来たお弁当で、薄焼きパンに焼いたイノシシ肉や野菜を挟んだものだ。

 薄焼きパンは昨日棒に巻いた生地を、ピザ状にして焼いたものである。


 この薄焼きパンを作ったのは、なんとオーレルだ。

 サリア砦の野戦訓練では調理器具など使わず食事の用意をするそうで、大きめの石を洗ったものを熱して、それを鉄板に見立てて焼き料理を作るのだという。

 石窯のアレンジバージョンともいえるだろう。

「あの子たちも、今頃食べてるのかなぁ」

イノシシ肉サンドイッチを食べながら、ヒカリは森にいた子供たちを思う。

「腹が満ちれば、悲観的になることも減るだろうさ」

オーレルは二つ目に手を付けながら、そんなことを言った。


 体力のない女の子もいる中で、子供のみの集団が徒歩で隣町まで移動するのは難しい。

 十分な食料がないなら余計にだ。

 さらに王都に最寄りの村は廃村と化しており、森を越えた場所にある街は距離がある。

 それに道中は獣も出るし、運が悪ければ魔獣にも行き当たるだろう。

 彼らはあそこから安全な場所に移動しようにも、できない状態だったのだ。


 ――自棄を起こす子が出る前に会えて、本当に良かったよ。

 あの子供たちのためにも、一刻も早くこの異変を止めなければならない。

 サンドイッチを食べ終えて、魔力補給に魔女の薬を飲めば、再び活力が湧いてくる。

「よぅし、もうちょっとでお城だ!」

「張り切って空回りするなよ」

握りこぶしを作ってやる気を出すヒカリに、オーレルがクギを刺した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ