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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第六章 荒廃の王都
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51話 ヴァリエ国の事情

子供たちの想いに心を動かされたのか、オーレルがその場に立ち上がった。

「名乗っていただいたのですから、こちらも名乗るのが筋でしょう。私はユグルド国サリア砦騎士団、第二隊副隊長のオーレル。こちらは連れのヒカリです」

「どうもよろしく」

そう言って姿勢を正し、騎士の礼をするオーレルの隣で、ヒカリも慌てて立ち上がりペコリと頭を下げる。

「ユグルド国の騎士の方でしたか。でしたらあちらの国でもなんらかの異変が起きたのでしょうね」

ユグルド国の騎士と聞いてどよめく子供たちの中で、クリストフは納得したように頷く。


「何故、王子殿下であるあなたがたった一人でここに? 護衛はどうされたのですか?」

オーレルが尋ねると、クリストフは沈痛な表情で答えた。

「私は第二王子として、将来兄上の臣下となる身。なので王族としての束縛もさほどではなく、よく城下町へ遊びに行っていたのです」

そこで仲良くなった友人が、学校の授業の一環で泊りがけの野外学習へ行くという。

 クリストフはそれがとても楽しそうで、羨ましくて、護衛と一緒にお城を抜け出して様子を見に行ったそうだ。

 突然現れたクリストフに驚きながらも、友人たちや先生までも受け入れてくれたという。

『王子様に国民の暮らしを知っていただく機会は、そうありませんからね』

そう話してくれた先生が嬉しくて、一緒になって野外学習を楽しんでいたまさにその時、異変は起こった。


「突然王都に光の柱が立ち上がったのです。驚いた私は護衛と共に王都へ戻りましたが、そこで見た光景を今でも忘れられません」

誰もいなくなった無人の王都。

 その異様な光景はさることながら、ただ立っているだけで気分が悪くなってくるという状況に、護衛はクリストフをこの小屋へ避難させた。


 それから遅れて他の子供たちもこの小屋にやって来たところで、護衛は城の様子を見に行くと言って出て行ったきり、帰って来なかった。

 戻らない護衛を心配して同じように王都の様子を見に行った先生も、未だ戻らないという。

 ――ゾンビ軍団に襲われたか、魔力不足になって動けなくなったか。

 あるいは動けなくなったところを襲われたのかもしれない。


「それで、心当たりとは?」

オーレルの次の質問にクリストフが語ったのは、現在の両国の休戦状態の裏事情についてである。

「父上は即位に伴う内乱で荒れた国内をまとめ上げるために、ユグルドとの戦争を一旦やめていましたが、あの国の土地を諦めたわけではなかった」

ヴァリエがユグルドに戦争を仕掛ける理由、それはユグルド国が海に出る港を持っていることだ。

 山に囲まれたヴァリエは、この海に続く港の権益が欲しかった。

 ヴァリエの代々の王は皆、この港を欲して戦いを挑む。

 そして新たに即位した王も、例外ではなかった。


「内乱で軍の力が消耗していて、ユグルドに戦いを仕掛けるどころではなかった。やきもきしていた父上に、ある時言い寄って来た人物がいました」

それは古代の魔法文明を研究している老学者で、ヴァリエの王城の地下に遺跡があると告げた。

『文献によると、古代に一国を滅ぼしたほどの強力な力だとあります』

侵略戦争に勝つ力を欲していた王は、その老学者の話に乗り、城の地下を発掘する許可を与えた。


 当初の城の者たちはこれを王の酔狂だと笑うが、ある日城の地下に本当に遺跡が見つかってしまう。

「私は、その遺跡というものをコッソリ見に行ったんです。あれはまるで屋外劇場の舞台のように丸くて、細かい文様が彫られているのが見えました。そしてその中心にある真っ赤な宝石みたいなものを、学者が調べていたのです」

その光景を見た次の日にクリストフは外に出かけ、悲劇は起こったという。


 ヒカリはクリストフが言っているものに、思い当たることがあった。

「……それってもしかして、魔法陣?」

「知っているのか」

ヒカリは呟きに反応したオーレルに説明する。と言っても、ヒカリもそれほど詳しく知っているわけではない。

「私も師匠に聞いただけなんだけどね、昔大規模な魔法を行うのに、床に文様を刻んで魔力を溜める仕掛けを使ったって」

それに、魔法を扱う機械も発明されていたとも聞いた。

 全ての雑事は魔力で動く機械がこなしたらしく、ヒカリはまるで地球の現代文明の暮らしのようだと思ったものだ。


 それほど栄えた魔法文明が、今は跡形もなく消え去り残っていない。

 ――まるで都市伝説みたいよね。

 昔地球でも、超古代文明説が流行したという。

 嘘とも真ともいわれるこの話と、消えた魔法文明は似ている。

 ただ一つ違うことは、魔法が実際にあるということだ。

 クリストフが見たという魔法陣のせいで今の状況になったとすれば、これをなんとかすればゾンビの活動が止まるかもしれない。


「その魔法陣を止めれば、あのゾンビ軍団が動かなくなる可能性は高いわね」

「やはり城か」

ヒカリがそう結論付けると、オーレルも頷く。

「城の中は迷いやすい造りです、紙があれば簡単な地図を描きますが」

「ぜひお願いしたい」

クリストフの申し出を有り難く受け、オーレルが荷馬車から紙の束を持って来る。

 それにクリストフが地下遺跡までの道順を説明しながら描いていると、その様子を遠目に見ていたマックがボソリと言った。

「……なあ、そのマホージンってのをぶっ壊せば、街のみんなは元に戻るのか?」

マックの疑問に、ヒカリもオーレルも地図から顔を上げて沈黙する。

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