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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第六章 荒廃の王都
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49話 お風呂と棒パン

ヒカリとオーレルは話はひとまず後回しにして、先に子供たちの身なりを整えてやることにした。

 ――なにせ、可哀想なくらいにヨレヨレなのよね。

 洗濯しようと言っていた少女二人に話を聞くと、ここから水場までが少し離れているため、森の獣が怖くて水浴びもままならず、汲んできてもらった水で身体を拭くのがせいぜいだったという。

 王都育ちなら少女たちはもちろん、少年たちだってそんな生活に慣れずにストレスだっただろう。

 ――不潔にしていると、病気にだってなるんだし。


 そこでヒカリは自分の入浴用にと荷台に積んでいたたらいを外に設置し、魔法で生み出したお湯を張り、布で四方を覆って一人ずつ入浴してもらう。

 子供たちはヒカリの魔法に驚いていたが、今のところ「不思議現象です!」で押し通している。

 魔力がどうのと説明するには信頼関係が薄いので、胡散臭く思われるかもしれないからだ。

 子供たちは石鹸も使って身体を磨き、綺麗な服と下着を身に着け、久しぶりに清潔な身なりになった。


「なんか、すごく贅沢をした気分」

「わかる、お風呂なんて前は普通に入っていたのに」

そう話す子供たちは楽しそうで、けれど少し切ない顔をしていた。

 家族との暮らしを思い出したのだろう。

 詳しい話を聞かなくても、彼らが突然日常を奪われたということはわかる。

 それでも毎日生きていくのに必死で、悲しいことを考えないようにしていたのだろう。

 泣いても元の生活には戻れないと、自分に言い聞かせて。

 ――でも、そんなのって絶対に精神的にも良くないよ。

 楽しい時は大きな声で笑い、悲しい時は思いっきり泣く、それが人の正しい姿だろう。

 お風呂がその手助けに少しでもなったのなら、あのたらいも本望だろう。


 全員が入浴を済ませたのでたらいを仕舞おうとしたら、少女二人がヒカリに申し出る。

「お姉ちゃん、もう一回お湯を入れてくれる?」

「小屋の中で使いたいの」

「いいけど、中でお湯を入れようか?」

お湯を張ったたらいを運ぶのは大変だろうと思って申し出ると、子供たちがみんな慌てたように首を振った。

「いいの! 私たちで出来るから!」

「そうそう、僕たち力持ちなんだよ!」

「……そう?」


子供たちの慌てように不思議に思いつつ、望み通りたらい風呂をもう一度作ると、彼らはえっちらおっちら、お湯を零しながら小屋の中に運んで行った。

 ――中に、まだ誰かいるのかな?

 けれど出会ったばかりのヒカリたちを信用できず、教えられないのかもしれない。

 もしかして怪我をしていたりして、襲われても逃げられない子なのだろうか。だったら警戒する気持ちもわかる。


 ヒカリは小屋の中を気にしながら、次の作業に移る。

 食事のために全員分のパンを焼くのだ。

 パンを焼くと言っても大きなかまどがあるわけではなく、材料も十分ではない。なのでヒカリが今回作るのは棒パンである。

 ――日本にいた頃、家族で行ったキャンプで作ったんだよねー。

 材料は小麦粉、塩、水、以上。材料を混ぜ合わせて捏ねた生地を、適度な木の棒にグルグルに巻き付け、それを火で炙って焼くのが棒パンだ。


 もちろん卵や牛乳、膨らし粉などがあればもっと美味しいのだろうが、なくても問題ない。

 変わりにまだ残っていた山芋も混ぜてもっちり度をアップさせたので、お腹が膨れることだろう。

「これがパンって、なんだか変なカンジ」

「だねー」

手伝ってくれる子供たちが、そんなことを言い合いながら楽しそうにこねこね巻き巻きする。

 ちなみにこの時オーレルはというと、子供たちの入浴が始まった頃から肉の調達のために森へ狩りに出かけている。


 生地をたくさん棒に巻くと、次にかまど作りだ。

 今までは暖炉の火を使っていたらしいが、せっかくなのでアウトドアクッキングと行きたいところだ。

 適度な大きさの石をコの字型に積み上げ、枯れ木を入れて火をつける。

「なんか、学校でやった野外授業みたい」

「うん、火があったかいね」

パンを焼きながら、子供たちがそんなことを言う。


 火の世話というのは、案外力仕事だ。ヒカリは魔法という技があるし、オーレルは慣れもあり簡単に火をつけてみせるが、子供にとって簡単な作業ではない。

 小屋の中に暖炉があるものの、一度火が消えてしまったら点けられないかもしれないため、消さないようにするのは大変だったそうだ。

 それに食糧が十分でなかったため、体力も落ちている。

 なにせ王都に異変があってから追い出されるようにこの森で生活を始めて、今まで調達してきた物資だけで凌いできたそうなのだ。


「森に生っているのを採れればいいんだけど、毒がある場合もあるから注意しろって、先生に教わったし」

パン生地を捏ねながら、子供たちがそう言った。

 だがどれが毒入りか判断が付かず、手が出せなかったという。

 王都から調達してきた少量の小麦粉で、全員分のパンなど焼けるはずもない。

 幸い子供たちの中に家が食堂をしている子がいて、料理の仕方を知っていたため、小麦粉を練って団子状にしてスープで食べたりして、少しでもお腹を満たしていたらしい。

 ――今日はたくさん食べようね!

 ヒカリはそっと滲む涙を拭う。

 食べ盛りの子供たちに、お腹いっぱいになってもらいたい。

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