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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第六章 荒廃の王都
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47話 王都に潜む少年

眠れぬ夜を過ごした翌朝。

 ヒカリたちは荒れ果てた土地を駆け抜け、いよいよ王都にたどり着く。

 けれどそこで待っていたのは驚きの光景だった。

「……これが、王都だっていうの?」

荷馬車の御者台で、ヒカリはポカンと口を開ける。


 王都を守る無人の門の先にあるのは、人気のないひっそりとした街だった。

 建物は壁がボロボロに崩れかけており、道は風がゴミを巻き上げている。

 王都とは国の中心で、国王が住む城がある場所で、国で最も華やかであるはずなのに。

 これではただ規模が大きいだけで、通って来た廃村と変わらない。

 ――これまでの道中、まさかとは思っていたけどさ。

 異変の中心である王都が何事もないとは考えてないかったが、この様子はヒカリの想像を超えていた。


 ヒカリの横で、オーレルも呆然としていた。

「馬鹿な! 新王即位を祝う使節の一員で来たことがあるが、人の多い華やかな街だった!」

オーレルの叫びが虚しく響く。

「王様の家族って、お城に住むもんでしょう? 無事だと思う?」

「……この惨状を見ると、楽観視はできないところだ」

ヒカリの疑問に、オーレルが暗い声で答える。

 これまで通って来た廃村同様魔力の枯れた王都だが、魔力はこちらに向かって流れていたはずだ。


「ふぅん……」

ヒカリは魔力の流れを調べようと、荷馬車から降りて地面に杖を立てる。

 すると、魔力が強く吸われるのが感じられた。

 魔力を吸う力がより強いということは。

 ――これは、大元が近いな。

 この感覚を例えるとするならば、掃除機だろうか。

 遠くのゴミを吸う力は弱くても、直近にあるゴミは即座に吸われてしまう。

 それと同じことで、吸い込む本体が近いから、より強く魔力が吸われる。

 その濃い魔力が吸い込まれる方向にあるのが、王の住む城である。

「やっぱり、原因はあそこみたいだね」

ヒカリが杖で指し示す先にある城を見て、オーレルは険しい顔をした。


 いよいよ王都に入るのだが、この先なにがあるかわからないので、荷馬車は門の外につなげて置いて行くことにする。

 小回りが求められる展開になった場合、荷馬車を捨てる必要があるかもしれないからだ。

 ヒカリは念のために木に繋いだ荷馬車と馬を結界で覆う。

 魔力を吸われるのに逆らうので、相当苦労をして結界を張ることになった。

「ここで待っててね」

ヒカリは馬のために魔女の薬入りの飲み水を用意して、馬の背中を撫でてから離れると、オーレルと連れ立って王都に入る。


「誰かいないのか!?」

オーレルがそう叫ぶ横で、ヒカリも話が聞ける人がいないかとキョロキョロと見渡す。

 すると、通りの向こうに人影を見つけた。

「あ、誰かいた!」

「本当か!?」

その人物に話を聞こうと、二人で駆けだそうとしていた時。

「おい、よそ者!」

突然背後から誰かに声をかけられた。


「……え?」

振り向いたヒカリが見たのは。

 ――子供?

 建物の隙間から、十歳くらいの少年が手招きしていた。

 ヒカリは「どうしたの?」と問う暇もなく、彼に引きずり込まれる。

「こっちに来い!」

「え、うわっ!?」

「おい、こら待て!」

そう言って腕を引っ張る少年にそのまま連れて行かれるヒカリを、オーレルが慌てて追いかけて来る。


「なに、どうしたの!?」

「静かにしろ、気付かれる!」

状況がわからず混乱するヒカリを、少年は静かにするように言うとゴミ箱の影に押し込む。

 彼自身とオーレルもそれに続いた、その直後。

 ペタリ、ペタリ……

 建物の隙間から見える通りを、数人の人影がゆっくりと通り過ぎる。

 しかし、それらは人ではなかった。

「うげぇ」

「まさか」

ヒカリとオーレルはそれぞれに呻く。


 通り過ぎる人影は皆、虚ろな顔をしてボロボロの服を着て、ヨロヨロとした動きをしている。

 そう、なんと王都の通りをゾンビが堂々と歩いているのだ。

「ここにも魔物がいるのか」

「うえぇ、近くで見るとキモいー……」

二人してげんなり顔をしたのだが、そんなオーレルの袖を少年が引いた。

「アンタ、アイツがなにか知っているのか?」

真剣な眼差しの少年を、オーレルが真っ直ぐに見返す。


「こちらも聞きたい。ここに生きている人間はいるか?」

この質問に、少年は力強く頷いた。

「いるぞ」

「ぜひ、話を聞きたいのだが」

オーレルの申し出に、少年はニカッと笑った。

「案内してやる代わりに、俺を手伝えよ」

そう告げた少年は建物の隙間を奥へ行き、何度か曲がる。

「ちょい待ち、早い、迷う!」

「……俺にこの道幅は辛いんだが」

ヒカリたちは小柄ですばしっこい少年を懸命に追いかけ、たどり着いたのは大きな商会の建物だった。


 しかし壁はボロボロに壊され、窓ガラスは割れ放題だ。

「一カ月前はここだって綺麗で立派な建物だったんだぜ? でもあいつらが手当たり次第に壊すからこうなったんだ」

少年はそんなことを話しながら、割れた窓から建物に入っていく。

「おい!」

あからさまな不法侵入に、騎士であるオーレルが眉をひそめる。

 しかしこれに少年は皮肉気に笑った。

「心配するな、捕まえる奴なんてこの街にはとっくにいない」

商会は日用品を扱う店だったらしく、少年はその中から調味料や穀物、石鹸に服や下着などを漁る。


「アンタ力がありそうだから、これ持ってくれ」

穀物の袋を渡されたオーレルは、渋々抱える。

 ヒカリは女性ものの服や下着類を持たされた。

 ――これって全部、生活用品だよね。

 どこかに生きている人間がいるというのは、どうやら本当らしい。

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