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魔女は真面目なお仕事です!  作者: 黒辺あゆみ
第五章 ゾンビはお呼びじゃない!
41/59

41話 魔女は再度旅立つ

ところでこうして旅立ったはいいものの、今後の計画を決めねばならない。

「まずはサリアの街に帰って装備を整えるが、それからどうする?」

オーレルに尋ねられたヒカリの、優先することは一つ。

 ――魔力の道から逸れなきゃ。

 これに尽きるが、オーレルにどう説明するか悩ましい。

 魔法のなんたるかを語るには、馬の背で激しく揺れている今は困難だ。

 難しいことを考えていては、舌を噛むどころか馬から落ちそうな気がする。


「できるだけあの村からヴァリエの王都まであたりを、離れて移動したい」

そのためには、サリアの街から街道を通って国境へ向かうのは賛成だ。

 事前に地図で確認したところ、魔力の道の方向から大きく逸れている。

「詳しい説明を省くけど、あの村の住人がああも弱っていたのは、あそこの土地が原因なの。だから砦の戦力があそこの長く留まって戦うのは、いいことじゃない」

 ヒカリの話に、オーレルが少し考えてから口を開いた。

「……なるほど。近くにある薬草の群生地が枯れたことといい、現在のあそこは悪い土地だというわけか」

何故という疑問よりも事実を優先したオーレルに、ヒカリはホッとする。

 もっとゆっくり時間をとれる頃、オーレルには改めて説明することにしよう。


「そういうこと。そしてゾンビ……あの魔物軍団があの村を目指して来たことも、たぶん関係があると思う」

「将軍の言う通り、魔物がどこから来ているのか、それが問題だな」

ヒカリはオーレルと頷き合う。

 兵士たちへのとりあえずの対処として、魔女の薬は預けてきた。

 本当はあの村から撤退して別の場所で戦ってほしいが、ゾンビ軍団が上手く誘導できる保証がないだけに、難しいだろう。

 残る手段は、村へ駐留する兵士たちが倒れる前に、ヒカリたちが大元をなんとかするしかない。


 馬を飛ばしたので、日暮れ頃にサリアの街へ到着した。

 一人帰って来たオーレルは怪しまれていたが、将軍が持たせた書きつけが効力を発揮する。

 非常事態だからこそ、お偉いさんのコネは強力だ。

 薬売りという身分であれば、薬を持っていなくては不自然だ。

「私、店で薬を詰め直してくるわ」

「では、俺は制服を着替えてくる」

とうわけで二人一旦別行動となり、オーレルが店まで迎えに来ることとなった。

 街の中は、旅に出る前に比べて閑散としていた。みんな外出を控えているのかもしれない。

 ――ま、戦争が始まろうっていうんだものね。

 呑気に買い物する気分になれないのもわかる。


 こうしてヒカリは街の様子を観察しつつ、店に到着する。

 ほんの数日留守にした店が、とても懐かしいものに思えて来る。

「ただいまー、っていうか、すぐ出て行くけどねー」

誰もいない店で独り言を言いながら、棚にある薬の瓶を手当たり次第に詰めていく。

「よし、こんなもんかな」

薬を詰め終えたところで、物音を聞きつけたのか、隣の家のジェスが顔を見せた。


「ヒカリ、大丈夫だったのか!? 帰って来ないから心配したぞ!」

ドアを開けるなりそう言ったジェスだったが、旅装を解かずに荷物を詰めるヒカリを見て、眉をひそめる。

「……ヒカリ、またどっか行くのか?」

「そう、だからまた留守を見ていてくれると嬉しいわ」

ヨイショっと荷物を背負ったヒカリに、ジェスは駆け寄る。

「外は変なのが出て、危ないって大人たちが言ってるぞ。だから……」

「ジェス」

ジェスがなにか言いかけたのを、ヒカリは言葉を被せて止める。

「いい? もしなにか危険なことになったら、他の子供たちと一緒に家に引き籠って、カギをかけてじっとしていなさい。そうすればきっと危険から守られるから」

ヒカリは少し腰を屈めて、ジェスの目をじっと見る。

 ヒカリの店と隣の家には、守りの魔法がかけてある。家はきっとジェスたちを守ってくれるだろう。


「これ、店のカギを預けておくから、棚に並んでいる薬が必要なら使っていいわ」

そう言ってジェスの手に店のカギを握らせた時、再びドアが開く。

「ヒカリ、準備は終わったか」

顔を出したのは、ヒカリを呼びに来た私服のオーレルだ。

「うん、今行く」

店を出ようとするヒカリの服の裾を、ジェスが握る。

「ヒカリ、帰って来るんだよな!?」

泣きそうな顔をしているジェスに、ヒカリはニコリと笑った。

「当たり前じゃない、あんなに頑張って作った店よ? 手放したりしないって」

そう言ってポンポンと頭を叩くと、ジェスは服から手を離した。

「じゃあ、行ってきます!」

遠ざかるヒカリとオーレルの後姿を、ジェスや子供たちがいつまでも見送っていた。

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